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雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第5章

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第68話 放課後カフェ

 雨男と晴れ女が、パン屋『くるみベーカリー』を訪れる一時間ほど前。


 そのパン屋の数軒先には、カフェ『フェイブル・テイル』がある。隠れ家的なその佇まい。知る人ぞ知るカフェだ。


 カランコロン。来店を告げるベルが鳴った。


 学校帰りと思われる女子高生が、カフェの扉を開いたのだ。


 彼女は、前髪を切り揃えていて、切れ長の目の美人顔。後ろ髪は肩甲骨あたりまでの長さでウェーブがかかっている。ブレザーの制服姿で右肩にカバンをかけていた。


 慣れていてるのか店内を見渡すこともなく、目的のテーブルに目をやった。座るならその四人がけテーブルと決めているようだった。


 そこには、すでに制服姿の男子高校生が座っていた。ノートパソコンを開いて、画面を見つめている。傍らにはホットコーヒーが置かれていた。


 女子高生の流灯凛花ながれびりんかは、彼に声をかける。


「法条くん、どうしたの? 急に呼び出して」


 凛花に声をかけられた男子高校生、法条計介ほうじょうけいすけは顔を上げた。


 髪色は黒。左目が隠れるくらいの前髪で、大人しそうな雰囲気の男子だった。目の下の隈がひどく、寝不足のように見える。


「あっ、流灯。まずいことが、起きているかもしれない」


 法条は、凛花に椅子に座るように促しながら言った。


「まずいこと?」


 凛花は尋ねながら、カバンを下ろし、椅子に座る。


 カフェの店員がおひやを持ってきた。凛花は、ミルクティーを注文する。法条が、店員が去ったのを確認してから言った。


「ニュースは見たかい?」


 首を横に振る凛花を見て、法条が告げる。


「しらゆきが、殺人の容疑で指名手配になっている」


 凛花は驚いた。思わず口元を手で塞ぐ。


 法条は、ノートPCの画面を彼女に見せた。インターネットニュースのページだ。


──女神ヶ丘市で殺人。容疑者「白峰由記子しらみねゆきこ」を指名手配


 ニュースの見出しは、そうなっていた。凛花は目を丸くする。


「白峰由記子って……」


「ああ。ぼくらのボスで、いつもの依頼人である『しらゆき』の本名だ」


 凛花と法条は、高校生ながら異能を持っている。エージェントのバディだった。二人はそれぞれの目的のため、この街で起こる不可思議な事件を『しらゆき』からの依頼で解決してきたのだ。


 法条は、凛花がニュースの内容を読み終わるのを待つ。店員がミルクティーを静かに置いていった。


 顔を上げた凛花を確認して、法条が言葉を続ける。


「昨晩さ、しらゆきから電話があって、匿名の通報を頼まれたんだ。ニュースに書かれている事件の現場、自由の森公園で女性を倒れていると警察と消防に連絡をいれた」


「きっと、由記子さんは現場に居合わせたのね。でも、手遅れで……」


「ぼくもそう思う。そして、通報の依頼と共に、ぼくの元にこのメダルが届けられた」


 法条は、りんごの絵が描かれた金色のメダルを見せる。しらゆきが異能で送ってきたものだ。


「中身の情報は、あるシステムについてのURL、ログインID、そしてパスワードだった。このノートPCにその情報はコピーしてある」


 白峰由記子のメダルは、人から記憶を写し取ったり、奪ったりすることが可能だ。そして、得た記憶の情報を、パソコンなどの電子機器に取り込ませることもできる。


「システムって?」


 凛花が尋ねた。もっぱらアナログ派の凛花は、話についていけるかと身構える。ITに強いデジタル派の法条とは真逆なのだった。


 ただ、凛花は、彼がその分野について類まれな知識と技術を持っていることを知っている。さらに、彼の異能がその分野に関して非常に強力に作用することも。


「『スティグマ・システム』と呼ばれるものだった。システムにアクセスするのに異能を使った。つまり、ハッキングしてみた。ああ、昨晩、異能を使うから寝かせてくれと、SNSで連絡したのはこの件」


 ただし、彼の異能は一人では使えないのだった。寝ないと使えない不完全なもの。


 そして、凛花のは『寝かせる』異能だ。


「スティグマって、英語で『烙印』って意味だよね。ちょっと気味が悪い印象を持つね」


「その通り。このシステムは、市民の位置情報、そして異能者のレベルを判定するものだった。原理はわからないけれど、異能者であるか否か、その人物が市内のどこにいるのか、わかってしまう」


「そんなシステムがあるの? ……なんだか、その、上手く言えないけれど」


「……わかるよ。ぼくたちが求めている真相に関係している仕組みかもしれない」


 法条のその言葉を聞いて、凛花もうなずく。


「あっ、でも居場所がわかってしまうシステムがあるなら……由記子さんはどうして指名手配に? 警察は『スティグマ・システム』を利用できないのかな」


「いや、異能を使ってハッキングした時に、アクセスログなども見たんだ。警察なども使っている様子だった。だから、ちょっと仕掛けをして、しらゆきが見つからないようにしたのだけど……」


 法条は一息ついて、続ける。


「翌日、つまり今日には、しらゆきが指名手配になって情報公開されていた。……ぼくの推測でしかないのだけれど、この殺人事件の真犯人と、しらゆきは対決している状態なんだと思う。おまけに何かとんでもない黒幕が絡んでいるかもしれない」


 凛花は、静かに聞いていた後、尋ねた。


「……どうして、そう思うの?」


「ぼくらは、しらゆきがどんな人物か知っている。受けてきた依頼は、すべて弱い人たちを守るためのものだった。異能犯罪者を捕まえるといったね。そして、彼女がジャーナリストとして、この街の闇を暴こうと戦っていることも知っている」


 その言葉に、凛花は同意だった。うなずく。


 法条は左目を瞑りながら、言葉を続ける。長い前髪に隠れて見えないが、考える時のクセだった。


「ぼくらは、しらゆきを信頼している。だから、彼女は殺人犯ではないと信じている。その視点からだと、しらゆきが指名手配される理由は、濡れ衣を着せようとしているように思える。つまり、冤罪だ。でも、公開指名手配なんて、権力ある者にしかできないだろう。だから、殺人犯とは別に、大きな黒幕がいる可能性が高い」


「……由記子さんを助けなきゃ」


「そうだよ。まずいことになってはいるけれど、同時にこれはチャンスかもしれない。この街で起きている真相に近づくね」


「私たちで、由記子さんを守らないとね。位置情報を誤魔化すのは続けて、法条くん」


 凛花の顔を見て、法条は首を縦に振る。


「しらゆきに合流したいところだ。おそらく、携帯端末も位置情報を特定されることを考えて、もう捨ててしまったか、電源を切っている可能性がある。こちらからコールをするのも危険かもしれない。しらゆきからメダルでの連絡を待つことになるけれど、来たら対応しよう」


「……わかった。由記子さんが警察などに捕まらないようにしつつ、真犯人を追う。そんなミッションね」



 二人は、カフェ『フェイブル・テイル』を出た。陽が落ちた中、駅へと向かう。


 凛花と法条は、パン屋『くるみベーカーリー』を通り過ぎたあたりで、一組の男女とすれ違った。


 女性はパーカーにデニムジャケットというカジュアルな格好で明るい印象。対して、男性はメガネをかけていて閉じた傘を連想させるような紺色のスーツ姿だった。

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