第65話 現場検証
「我々警察がすでに現場検証を済ませていますが、それでもですか?」
城守彩が応える。レインは首を縦に振った。そして、応接テーブルに置かれたタブレット端末の画面を見ながら、さらに雨男は尋ねる。
「それから、現場では何か遺留品はあったのでしょうか?」
「あ、はい。こちらですね」
彩がタブレット端末を取り、綺麗な指で操作した。応接テーブルに再び置かれた端末には、いくつかの写真が画面に並べられている。女性もののバッグなどだ。彩は、被害者である藤平紫乃の持ち物と思われると言葉を添える。
「これ、何ですかね? コイン?」
シャインがタブレット端末上に並べられている一枚の写真を指差した。
「あ、それについては、情報共有が必要だったな。城守、頼む」
先輩刑事の言葉に、彼女は説明を請け負う。
「その銀色のメダルは、現場に落ちていたものです。遺留品として警察が押収していました。透明なビニール袋で密閉した形で保管していたのですが……いつの間にかメダルがなくなっていました。ビニール袋の中が空になっていたのです」
「誰かが、そのメダルを持ち出したのですか?」
レインは、腕を組みながら尋ねた。
「いえ、その可能性は非常に低いと思います。他の遺留品と共に施錠管理されていました。メダルだけ消えていたのです」
彩の言葉を受けて、シャインは首を傾げる。レインは口元に手をやって考え込んでいた。
「消えたメダルは……異能によるものかもしれないな。メダルには、雪の結晶のような模様がありますね」
レインはタブレット端末の画面をピンチアップして、メダルの写真を拡大しながら言った。さらに言葉を続ける。
「被害者が殺害された時に、最大三人の異能者がいた可能性。こわれた防犯カメラ。そして、消えた謎のメダル。ああ、白峰由記子の居場所が『スティグマ・システム』で特定できないこともありましたね」
「レインさん、もうひとつ大事なことがありますよ。被害者の藤平紫乃さんはなぜ殺されたのか、です」
シャインが言った。レインはうなずく。
「やはり、今から事件現場を確認しにいこう。もう少し手がかりが欲しい」
レインの声を受けて、四人は事務所を出る準備に取りかかった。
*
レインとシャインは、自由の森公園にある駐車場に車を停めた。前回の事件で破損したので、新規に購入した中古車である。刑事の二人組も、別の車で公園の駐車場へと入ってくる。
四人は少し歩き、事件現場であった噴水広場を訪れる。すでに警察の調査は概ね終わったようだ。撤収の準備をしている。
「あの防犯カメラが、先ほどタブレット端末でお見せした映像を記録していたものになります。もちろん、動画データの保存はネットワークごしにですが」
彩が指差した。外灯と同じ柱に防犯カメラが備え付けられていた。防犯カメラの外観はところどころ焦げて黒くなっていたり、プラスチックの一部が溶けて歪んでいた。強力な電撃を受けたことがうかがえる。
レインは、防犯カメラの位置から映像に映っていた画角の範囲を想像する。周囲を見わたす。頭の中で謎の男と白峰由記子のやりとりを思い出しながらだった。白峰が男に近づいたが、地面から出た何かに吹っ飛ばされていた。その地面を探す。
レンガ道の一部が歪んでいた。いくつかのレンガが割れている。
雨男は、携帯端末を取り出すと情報を検索する。調べたのは、レンガ道の作り方。一般的に、モルタルを圧塗りして、その上にレンガを並べて作る。モルタルというのは、セメント、水、砂で構成されている。やわらかいコンクリートのようなものだ。
「レインさん、どうしました? 何か見つけました?」
シャインは、考え込んでいるレインに声をかけた。
「……ああ。もう少し、調べないとな。次は藤平さんが倒れていた場所を観たいですね」
「こちらです」
城守彩が素早く応じて、案内する。すでに現場の調査は終わっていた。テレビドラマで観るような白いテープで遺体を型取りしたものもなかった。血の跡もすでに流されている。
「やはり、ところどころ、レンガ道が歪んでいますね。ここでも割れているレンガがある。あっちは一直線に歪んでいる」
レインは、彩に向けて確認するように言った。正岡が、レインと彩の後から声をかけてくる。
「血の跡があった場所は、だいたいレンガが歪んでいた。何と言うか、そこらへんだけ雑に作り直した感じだな。あ、そうそう、現場では藤平さんを殺した凶器は見つかっていないんだ」
「これはまだ推測ですが、藤平さんを殺害した犯人は、セメントでできたものを操る異能をもっているかもしれませんね」
並んだ正岡と彩の二人は、レインを顔を見て続きを期待する。
「セメントでできたもの、つまりコンクリートを操れる異能かもしれません。ここのレンガ道はモルタルという、やわらかいコンクリートのようなものですが」
「それが本当なら、かなり強力な異能ではないか。街中のあらゆるところにコンクリートはあるぞ」
「ええ。もし、レベル4のレッドだと、コンクリートの壁などに溶け込むことも可能でしょう」
シャインは、レインたちの話を聞いて、何かに気づく。上の方をきょろきょろと見渡していた。そして、外灯を指差して言う。
「ジョーカーさんがこの場に来ていたとしたら、外灯からでしょうか?」
「……そうだろうな」
レインが肯定する。
「シャインさん、それはどういったお話でしょうか? お二人は、ジョーカーという人物について、何か知っているのですか?」
彩が尋ねた。
「ジョーカーは、電気を操る異能者です。レベル4のレッドということがわかっています。前に接触する機会があって、その時にスキャンしたので。そして、電気が通じているところから出入りが可能です。その時は電気自動車の充電スポットから去っていきました」
晴れ女に代わって、雨男が答えた。中年の刑事は呟く。
「ジョーカーは、神出鬼没ということか。謎の男もその可能性があると……」
レインは少し考え込んだ後、述べた。
「正岡さん、城守さん、現場の確認をさせていただき、ありがとうございました。『ウィル』としては、白峰由記子さんを探すことを優先に捜査協力させていただきます。……シャイン、一旦事務所に戻って、作戦を練るぞ」
その言葉に、シャインは露骨に嫌そうな顔をする。
「いやいや、今日はもう直帰にしましょうよ〜。私、お腹空きました」
「……そうか。じゃあ、『くるみベーカリー』に寄ってから事務所に戻ることにするか。ちょうど良い」
「へ? ちょうど良いって、何がですか?」




