第64話 防犯カメラ映像
「正岡さん、表向きとは? 何か気になることがあるのですか?」
意味深に言った正岡に、レインは尋ねた。壮年の刑事は、うなずく。
「レインさんたちに、観てもらいたい映像がある」
その言葉を受けて、城守彩はタブレット端末を操作した。映像を再生する準備をする。そして、彼女は言った。
「事件現場の公園、噴水広場にあった防犯カメラの映像です」
噴水広場では、見下ろすように防犯カメラは設置されていたのだ。それがとらえた白黒の映像だった。
二人の女性と思われる人物たちが映り込む。噴水広場のベンチに座り、話をしている様だった。しばらくすると、二人は立ち上がった。彼女らに向かって、一人の人物が近づいてきたのだ。その人物は両腕に何かつけており、四角く光っていた。男の様だ。
「……もう一人、事件現場に人がいた?」
レインがつぶやく。正岡がうなずく。そして、四人は映像を見続けた。
映像の中の三人は何かを話していたが、あきらかに二人の女性は男を警戒している。その後、一人の女性が逃げようと走り出した。カメラの画角の外に行ってしまった。残る一人の女性は、男に何か仕掛けようとしたが、地面から出た何かに殴られた様だった。女性は倒れて、うずくまったまま。
急に、画面に白いノイズのような点滅する線が何本も走った。そして、画面が強く光る。その後、映像はブラックアウトした。
「あれ? 防犯カメラが……映らなくなっちゃった?」
シャインが、首を傾げながら尋ねる。
「はい。この後の映像は残っていません。現場の防犯カメラは壊れていました。高圧電流が流れたためと報告を受けています」
彩が聞き取りやすい声で答えた。レインは黙って考え込んでいる。
「映像の解析および現場の状況から、最初にカメラの画角の外へ逃げた女性が藤平紫乃だ。そして、白峰由記子が、謎の男とやりあった」
正岡が映像内容を補完した。
「……でも、それだと変ですよね。なんで、白峰さんが指名手配になっているのですか?」
シャインが、また尋ねた。
「……そこなんだよ、シャインさん。本来であれば、何か事件に関する情報を知っていると思われるので、重要参考人として白峰さんの行方を探すんだ」
その正岡の言葉に、レインが添える。
「でも、公開指名手配」
正岡と城守彩はうなずく。
「今回の事件、そこがおかしい。前提がおかしいのだ。指名手配になる理由が、さーっぱりわからん。警察の上層部は何を考えているやら」
正岡が告げた。そして、彩が追加の情報を雨男と晴れ女に伝える。
「白峰由記子は、異能者です。『スティグマ・システム』によれば、レベル3のオレンジ。ただ、異能者だから指名手配とするには、先ほどの映像と矛盾するところがあります」
「そうですよね。由記子ちゃん、なんだか謎の男から被害者を逃すために行動した様に見えますよ」
シャインは、あっさりと容疑者を『ちゃん付け』していた。レインは一瞬ひきつった顔をしたが、言葉を並べる。
「この映像から判断するに白峰さんは重要参考人だ。それなのに、指名手配となっているのは気になりますね。でも、そもそも『スティグマ・システム』で異能者だと判明していて、個人情報も把握していた。なら、なぜ公開指名手配なのですか? 位置情報から追跡すればいい」
「レインさん、確かに『スティグマ』で白峰由記子は異能者だと判明しているが……彼女の位置情報がわからないのだ」
正岡の言葉に、同僚の刑事である彩は首を縦に振った。彼女は、添える様に続ける。
「正確には、『スティグマ』で、白峰由記子の位置情報が把握できなくなったり、市内の別の場所に一瞬で移動したりしているのです」
「へ? そんなことあるんですか?」
シャインの言葉を受けて、レインが少し考えた後、応じる。
「『スティグマ』では白峰由記子の位置がわからない。……ということは、二つのことが考えられますね。一つは、瞬間移動の様な異能を使える可能性。もう一つは、『スティグマ・システム』に何か細工がされている可能性です。つまり、ハッキングによって、白峰由記子の位置情報が改ざんされている。ハッキング自体が異能であるかもしれない」
レインの言葉に、他の三人に異論はなかった。
「なので、レインさんたちには白峰由記子の捜索と確保を手伝っていただきたい」
正岡の言葉を受けて、レインはシャインを見る。彼女はこくりと首を縦に振った。
「異能者絡みの犯罪だとわかっているのですから、当然お手伝いさせていただきます」
レインの言葉に、二人の刑事は安堵した様子だった。だが、慎重なレインは言葉を続ける。
「もう二つ、このメンバーで確認したいことがあります。一つは、映像に映っていた男は誰なのか。これは、わかったのでしょうか?」
二人の刑事は、揃って首を横に振った。彩が詳しい説明を請け負う。
「映っていた男から『信号』が出ていて、レベル4のレッドであるとは判明しています。ですが、人物に関する情報は不明です」
「そうですか。これで現場に異能者が二人いたことになりますね。それから、もう一つ『なぜ、防犯カメラが壊れたのか』です」
「彩ちゃんがさっき、高圧電流で壊れたって言ってましたね」
「ああ、そうなんだが……。壊れた原因ではなく、壊すという目的が気になる」
「……目的ですか?」
彩が、繰り返す様に言った。
「俺の考えを単刀直入に言いいますと、もう一人、事件現場にいたのだと思います。つまり、四番目の人物がいた。その人物は登場する前に、自分の姿が防犯カメラに映らないようにした」
そして、レインはシャインの顔を見る。晴れ女も何かに気づいたのか、緊張した面持ちになった。雨男は、正岡たちの方に向き直り告げた。
「この街には、神出鬼没な電気を操る異能者がいます」
二人の刑事は驚いた顔になった。
「私たちは、道化師と呼んでいます。一度だけ接触したことがあるのです。レベル4、レッドの異能者であることまではわかっています。ただ、仮面を付けた人物で、声も変声機を使っていて、男か女かわかっていません」
シャインが情報を補う。
「つまり、何か、その、ジョーカーという電気を操る異能者も現場にいたということか」
正岡は腕を組んだ。
「ええ。その可能性があると思います。なので、公園では藤平紫乃さんの周りに三人の異能者がいたことになる」
「ますます白峰由記子を公開指名手配する理由がわからなくなったな。単純に考えて容疑者は三人いるわけだから」
正岡の言葉に、他の三人はうなずく。レインが相談を持ちかける。
「まずは事件の現場検証をさせていただけないですか? 異能の痕跡などがないか、調べたいところです」




