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雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第5章

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第63話 公開指名手配

 自由の森公園での出来事があった翌日だった。ここは、女神ヶ丘駅のロータリーに隣接するビル。そこにあるウィルの事務所だ。


 天気は晴れ。時刻は、正午になるすこし前だった。


 つけっぱなしになっているテレビでは、ニュース番組が始まった。昼のニュース報道である。


──次のニュースは、女神ヶ丘市で起きた殺人事件についてです。昨晩、同市都城区にある自由の森公園で、女性の他殺体が発見されました。


 男性アナウンサーの落ち着いた声で伝えられた事実で、レインとシャインは、テレビ画面に目を向ける。女神ヶ丘市と殺人事件というキーワードが気になったのだ。


──被害者の女性は、会社員の藤平紫乃ふじひらしのさん、三十四歳です。藤平さんは、公園で胸から血を流して倒れているところを発見されました。心肺停止の状態で病院に運ばれ、その後、死亡が確認されました……。


「……殺人事件か」


 そうつぶやいたレインは、マグカップのコーヒーを一口飲んだ。


──藤平さんは直前に近くのレストランに寄った後、公園で殺害されたとみられています。レストランの防犯カメラに、被害者と一緒に映っていた人物がいるとのことです。事件に関わっているとみて、警察ではその人物の行方を探しています。


 急に、テレビの中で慌ただしい動きがあった。男性アナウンサーは、すこし慌てた様子を見せるも、すぐに落ち着いてニュースを読み上げる。


──今、新しくニュースが入りました。先ほどお伝えしていた女神ヶ丘市で起きた殺人事件で、追加の情報です。容疑者が公開指名手配されました。容疑者の名前は、白峰由記子しらみねゆきこ。同市在住のジャーナリストです。繰り返します……。


 そのニュースを聴いていたレインは、糸のような目が開いて言った。


「今の公開指名手配、おかしくないか?」


「へっ? 何でですか? 被害者と直前にレストランで会ってた人物を探していますってことですよね。その人が誰だかわかって、容疑者で指名手配されたのかなと思いました」


 シャインは、気にしていない様子だった。


「容疑者の名前がわかっているのに、ニュースで公開指名手配するのがわからない」


 レインの言葉に、シャインは首を傾げ、眉をひそめる。


「いいか。この街には『スティグマ・システム』がある。市民には秘密にされているシステムだが、警察も利用している。容疑者が市民で、その名前などの情報がわかっているなら、追跡可能だろ?」


「あっ、そうですよね。わざわざ指名手配するのは、確かに変です」


「それに、昨晩起きた事件で、翌日の昼に公開指名手配なんて早過ぎないか? さらに、おかしな点がもう一つある。公園にも防犯カメラは設置されているものだ。なぜ、レストランなんだ? なぜ、公園の防犯カメラが話に出てこない……」


 レインは考え込んでいる。


「うーん。まぁー気になりますけれど……お昼混んじゃうので、ランチに行っちゃいますね」


 そう告げると、シャインは颯爽と事務所から出ていった。レインはしばらく考え込んでいたが、同じく昼食のために事務所を出た。


 *


 昼休みが終わった午後一時過ぎ、レインは上司のクラウドからのメールを読んで、シャインに声をかける。


「昼休み前にニュースで見ていた殺人事件について、警察から捜査協力依頼だ。刑事の正岡さんと城守さんが夕方、ここに寄るらしい。詳しい話を聴けだとさ。なんだか、今回は動きが早い」


「ってことは、さっき指名手配されていた容疑者の人は、異能者なのでしょうかね」


「そう考えるのが妥当だけれど、いろいろ気になる事件だな……」



 やがて十五時過ぎに、正岡と城守彩が事務所に顔を出した。無愛想で野暮ったさを感じさせるスーツ姿の正岡。それとは対象に、アイロンがけされたスーツを着こなす立ち姿が美しい城守彩。


 シャインは、思ったより早く来たと、ご機嫌で二人を招き入れた。応接テーブルを挟んで四人は座る。正岡の隣は城守彩。彼女の前はシャイン。正岡を前にしたレインが口火を切った。


「都城区の自由の森公園で起きた、殺人事件の捜査依頼と伺っています」


「レインさん、その通りだ。すでにテレビやネットでもニュースになっていますが、大まかな内容はご存知ですか?」


 正岡の問いに、雨男と晴れ女はそろってうなずく。


「それは話が早い。城守、事件のあらましと依頼したいことを伝えてくれ」


「はい。まずこの殺人事件が起きたのは、おそらく昨夜の九時過ぎ。殺害されたのは、藤平紫乃、三十四歳の女性です。彼女の勤め先はクレスト・グラント製薬。臨床試験部門の所属でした」


「夜九時過ぎというのは、どうしてわかったのでしょうか?」


 レインのその問い、彩は背筋を伸ばして答える。


「防犯カメラの映像です。公園の近隣にあるファミリーレストランで被害者の出入りが八時半あたりの記録に残っていました。そして、レストランを出る時には、指名手配された白峰由記子と一緒だったのが確認されています」


「公園の防犯カメラには、映っていたのですか?」


「はい。ですが、それは後ほど観ていただきたく……」


 彩は、タブレット端末を鞄から取り出しつつ、続ける。


「藤平紫乃さんが殺害された現場は、自由の森公園の噴水広場近くです。死因は失血死。遺体の胸の辺りに大きく……穴が空いていました。そこからの流血によるものと思われます。遺体の周辺には血が広がっていました。何か鋭利で太いものに貫かれたという見解です。ですが、現場には凶器と思われるものは、ありませんでした」


 取り出したタブレットに事件現場の写真を写しながら、彩は説明した。


「概要は一旦わかりました。細かいところをお聞きする前に、『ウィル』への依頼内容を先に知っておきたいよ、彩ちゃん」


 シャインが言った。仕事の話なのに、ちゃん付けをはさむ晴れ女に、雨男の顔がいつものとおり、ひきつる。


「はい。そうですよね。ご依頼したいのは、異能者と思われる容疑者・白峰由記子の確保です」


「……表向きはな」


 刑事の正岡が、意味深なことを添えた。

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