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雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第5章

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第59話 密会と御使い

 太陽が大地に沈み、だいぶ経った午後八時過ぎだった。白峰由記子しらみねゆきこは、ファミリーレストランに入った。その店は、女神ヶ丘市都城区(とじょうく)にある自由の森公園に隣接している。


 夕食時を少し過ぎているので、店内はほどよく席が空いていた。由記子は空いている四人がけのテーブル席に陣取る。待ち合わせのためだからだ。


 持っていたハンドバッグを横に置く。丁寧に編み込んだ一本の三つ編みが崩れていないか、軽く右手で触った。髪色は赤茶色。服装は白いフリルブラウスにデニムパンツだ。心がけているのはカジュアルにも上品にも見えること。もちろん、メイクは自然な印象に整えている。


 その理由は、由記子がジャーナリストという職業だからだった。取材相手に警戒されないように、同時に信頼されるようにという気遣いだ。第一印象で失敗すると、相手が心を閉ざしてしまうから。


 テーブル席に設置されているタブレット端末から、ドリンバーを注文する。そして、ホットカフェラテを取りに行った。


 カップを持って席に戻ると、ハンドバッグから携帯端末を取り出す。これから会う予定の人物の情報を確認するためだ。


 待ち合わせしているのは、藤平紫乃ふじひらしの。クレスト・グラント製薬会社の社員だ。彼女は、臨床試験、つまり治験を担当している。治験というのは、薬が世に出る前に安全性の確認を限られた患者や健常者に対して行うことだ。


「……先日、ご相談された件、気になって確認しました。……お電話でお話するにはちょっと。……お会いして、お伝えしてもよろしいでしょうか」


 そう彼女は電話で言っていた。声に元気がなく、少し震えている様にも聞こえた。


 待ち合わせは午後八時半。まだ藤平紫乃は来ていない様だった。幸い座った席はレストランの入口を確認できる位置だ。先に待ち合わせ場所に来たことを、彼女の携帯端末へショートメッセージを送る。


 程なくして、藤平紫乃がレストランに入ってきた。セミロングの髪、ナチュラルメイクをした三十代半ばの女性。仕事上がりなのだろう。ビジネスカジュアルな服装だった。


 由記子は背を伸ばし、手を挙げて軽く振った。彼女は、その姿に気づき、テーブルにやってきた。


「お待たせしました」


 そう言った紫乃は、以前に取材相談をした時よりも憔悴しているようだった。


「いえ、私も来たところです。どうぞおかけください。お夕飯がお済みでなければ、遠慮なく」


 由記子は促した。だが、紫乃は立ったままで告げる。


「できたら、人気のないところでお話をしたいです。自由の森公園はどうですか?」


 由記子は、夜の公園という提案は警戒してしまう。だが、紫乃はどうやら周りに人がいる状況では話したくない様だった。


「そうですか。わかりました。それでは外に出ましょう」


 そう言って、由記子はテーブルに設置されているタブレット端末を操作し、ハンドバッグから自分の携帯端末を取り出す。その場で支払いを済ませた。



 自由の森公園は、大きな公園だ。正門から入って進むと噴水広場がある。その左右対称の広場の外れにあるベンチに二人はやってきた。公園の奥まで進む理由はない。外灯が照らしているとはいえ、夜の公園は闇の中に影が蠢いているような不気味さがある。


「……藤平さん、ここでよろしいでしょうか?」と由記子は尋ねた。


「はい……」


 その返事を聞き、由記子は先にベンチに腰掛けた。それに続いて、紫乃も座る。しばらく、沈黙があった。由記子は、紫乃が言葉を整理する時間と思って、黙っている。


 近くの外灯がカチカチと点滅した。だが、すぐに元の明るさに戻った。由記子も紫乃も少し驚いたが、それがきっかけになった。


「……クレスト・グラント製薬会社は、三年前のパンデミックの際、いち早くmRNAワクチンを提供し、感染拡大は女神ヶ丘市内に留めることができ、ことなきを得たことになっています」


 その紫乃の言葉に、白峰由記子はうなずく。市民にも知れ渡っている情報だった。その由記子の仕草を確認して、彼女は続ける。


「……そ、その白峰さんが言われていたことを、調べてみました」


 由記子が、人づてで藤平紫乃を知り、取材相談を持ちかけた時に告げたのはこうだった。

 

 『どうしてそんなに早く、ワクチン提供の対応ができたのでしょうか? 御社は女神ヶ丘市内に社屋を構えています。ウイルスの拡散とワクチンの提供を行い、業績と名誉を得るようなことを狙ったということはないのでしょうか?』


 由記子自身、突拍子もない尋ね方だったと思っている。だが、起きた結果からそう思わざるを得ないのだ。過去のパンデミック事案に比べて、圧倒的に迅速な対応がなされて、封じ込めに成功したのだから。しかも、地方都市ではなく、首都圏内の市なのだ。


 白峰由記子はジャーナリストだ。特別政策指定都市のこの街で、何かおかしなことが起きている。その真相を突き止めたかったのだ。そして、そのおかしなことは、おそらく三年前のパンデミックから起きていると推測していた。


 由記子は、自らの身に起きたことも含めて、調査をしているのだった。調査の同志もいる。


「……調べていただき、ありがとうございます。何かわかったから、今日はお会いできることになったと思っています」


 由記子は、そう応えて、紫乃の顔を見た。外灯に照らされている顔は青白くなっているように見えた。


 由記子は、ハンドバッグに手を入れる。内ポケットに入れてある数枚のメダルを触った。


「はい。感染拡大の防止になるmRNAワクチンの開発が迅速だったことを、開発部門の同期や親しい同僚にそれとなく聞いてみました。ですが、どなたもその話題には触れたがらなくて……。白峰さんが確認したかったことは、わかりませんでした」


 由記子は、その言葉でも十分情報があると思った。それが事実であるならば、会社内でも触れることが禁止されているタブーということだと推測できる。


「いえ、ありがとうございます。お尋ねしづらかったでしょう」


「そんなことないです。白峰さんから言われて、当時、私も疑問に思っていたのだと思い出しましたから」


 由記子は優しくうなずいて、紫乃の言葉の続きを待った。


「で、なら辞めた同僚なら気軽に聞けるかもと思って。……そ、そのパンデミックがおさまった後、クレスト・グラント製薬の臨床試験部門を辞めた社員が何人かいました……。退職の理由はもちろんわからないのですが、連絡を取ろうと思ったんです。ですが、そ、その……」


 紫乃の手がすこし震えていた。


「……皆、死亡していたか、行方不明になっていました。製薬会社の臨床試験部門に勤めていたのであれば、かなり専門職ですので、他の製薬会社に就職するというのは割とよくある話なのですが……。そんな話にもなっていないのです」


 由記子は黙って聞いていたかったが、彼女の心情が沈みこみ揺れているのを感じて、優しい言葉をかける。


「それは、奇妙なことですが……。お独りで気持ちを抱えていて、辛かったでしょう」


 紫乃は首を横に振った。由記子が思っている以上に、彼女は強かった。


「な、なので、会社の中で調査を進めてみたのです。できる範囲なのですが……」


 その時、公園の入口から入ってくる人影が見えた。狙いすましたかのように真っ直ぐ二人の元へと歩いてくる。由記子は警戒した。


 外灯に照らされたその人物は、美しく若い男性だった。整った顔、短く整えているがサラサラと優しく流れる髪。服装は水色のシャツにベージュのチノパン。ネクタイはしていなかった。身体は引き締まっている。


 それ以上に、この暗がりで目を惹くものを彼は身につけていた。シャツを腕まくりした彼の左右の腕には、小手のような形状のディプレイ付き端末をつけていたのだ。左手の甲を、由記子と紫乃に向けた。右腕の淡く光っているディスプレイを見てから告げた。小手の甲にはカメラが付いていたらしい。


「藤平紫乃さん、みっけ。それに横にいるのは、……白峰由記子さんというのか。ふーん。白峰さんは、異能力者なんだ。これは、これは。ふふっ。あ、そうそう。これは、スキャンアームズって言うんだ。カッコいいでしょう?」


 その男は、右腕を見せるように上げて、不気味にニヤリと笑った。

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