表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/94

第50話 白黒ついた、その果てに

 シャインは、ハガネに向かって駆ける。レインは、彼女の背中に水の塊をつけた。その意図を理解した彼女は、口角が上がる。


 晴れ女は、太陽エネルギーを変換した身体強化で加速していく。そして、その勢いを利用して、大きく跳躍した。一回転する。


高熱源ヒート!」と叫ぶと、シャインの背中から高熱が産み出された。背についていた水が水蒸気に相転移し噴射される。その噴射力が白い翼となって、シャインの身体を押す推進力になった。


 身体強化の勢い、水蒸気の噴射力で、急加速したシャインは、ヒビだらけになったハガネに強烈な飛び蹴りをぶつける。


 鉄の巨体であったハガネは、吹っ飛んだ。ヒビ割れていた鉄の鎧は砕け散り、多重な金属音を鳴らす。そして、ハガネはアスファルトの路面を転がった。



「私たちは、ちょうど良いコンビですから」


 晴れ女は、ゴーグルを首に下ろし、両手を腰に当てて、少し前かがみになったポーズを取る。


「それを言うなら、最強のバディだろ」


 雨男は、ハガネを見下す様な目線のまま、スキャングラスを右手の中指で軽く押し上げた。


 二人が立つ背後では、散った水蒸気が、陽の光を受けて煌めき、虹を作っていた。


 *


 レインは、ハガネの着ているジャケットを濡らし、操る水の力で拘束する。ハガネは路面にうつ伏せだった。レインは、彼の首の付け根にオートインジェクターを撃ち込む。


「これで、お前はもう異能が使えなくなる」


 そう言いながら、レインはスキャングラスのモードを元にもどした。ハガネをスキャンする。レベル3、オレンジを示した。レインが、まだ監視が必要と思った矢先のことだった。


 雨男に向かって、鉄骨が飛んできた。ハガネは濡れた服で拘束されているにも関わらず、消えゆく異能を使い続けた。


 ハガネが飛ばしてきた鉄骨。それを、レインは避けた。路面を鉄骨が削る音が響く。


 その一瞬の隙を、ハガネは利用する。桐明に向かって橋の左右に組み残っている無数の鉄骨を飛ばした。そして、それらに隠れるように、鉄のステッキをも高速で飛ばした。


「仕事は完遂する。何があろうとな」


 ハガネは、呟くように言った。



 無数の鉄骨が飛んできた。有澄と衣折は、異能を使って、桐明を守る。ハガネの異能は弱くなって、鉄を変形させることはできないようだった。


 だが、一本の鉄骨が防衛する二人の隙間を抜けた。桐明の目の前に迫る。鉄骨が路面に刺さった。桐明は、間一髪避けたのだった。だが、驚いた拍子に、尻餅をついてしまう。


 動けなくなった桐明を狙うように、鉄のステッキが飛んできていた。その鋭利な先端が、桐明を狙う。


 桐明は、咄嗟に避けられないと悟った。タブレット端末が入っている鞄は、横によける。研究データさえあれば、彼女たちを救える希望は遺るからだ。反射的にそうしていた。目をつむり、歯を食いしばり、身体にくる衝撃に備えて身構える。


 目を閉じていた桐明は、柔らかいものに形あるものが突き抜けた音を聴いた。あたたかい何かが飛び散った。頬や腕にかかった。


 いまだ激しい衝撃に襲われることは、なかった。桐明は、疑問に思って、恐る恐る目を開く。


「……先生、大丈夫?」


 聞き覚えがある声がした。


 桐明の目の前に、白と黒の双子、令美と栄美がいたのだった。いつもの様に仲良く手を繋いで立っていた。銀髪の令美は日傘をさしている。桐明は、西陽が照らす中、二人を見上げていた。


 だが、黒髪の栄美の胸からは、鉄のステッキが突き抜けている。黒いワンピースから突き出しているその先端から、赤い血がぽたぽたと落ちていた。


 桐明にかかった、あたたかい何かとは、彼女の血だったのだ。栄美の口元からも血が滴り落ちる。


「…………あ、……えっ?」


 桐明は、何が起きたのか、理解できなかった。起きていることを拒否するように、思考が進まなかった。言葉が出てこない。


「……先生、ケガはない? 大丈夫?」


 栄美が微笑んで、もう一度聞いてきた。桐明は、なんとかうなずく。


「良かった」


 そう言った、栄美はふらついた。銀髪の令美が彼女を支えるように腕をからませる。日傘がはらりと落ちた。


「私たち、決めていたの。先生を守るって」


 令美が、穏やかな顔で言った。血を流している黒髪の栄美は、それにうなずく。


「な、何を言っているんだ。私は、令美、栄美、君たちのために……」


「……うん。知ってるよ。自由をくれた。研究所から逃がしてくれた。私たちのために、寝る間もないほど、命を削るように、研究していた」


 栄美の言葉に続いて、令美が言う。


「……ずっと、先生を観ていたから」


 令美は、遠く離れていた桐明を異能で観ていたのだ。そして、『瞬間移動』で駆けつけた。


「……どうして?」


 桐明は、目の前で大切な人が失われていく恐怖を感じ、血の気が引きながらも、問うた。守ってもらう価値なんてあるのかと思っていた。


「……先生だけが、先生だけが、私たちに人として接してくれたから。みんな、実験体や道具としてしか、私たちを見ていなかった。扱ってなかったのに……」


 そう、令美が告げた。


「だから、先生には、しあわせになってほしいの。そのためなら、平気だから。痛くないから」


 栄美が、微笑んで添えた。そして、彼女は震えながら、かがみ込み、両手を伸ばし桐明の頭を包み込むように触れる。令美も彼女の身体を支えていた。


「私が遺せるものは、これくらい」


 そう言うと、栄美は、桐明の唇に自分の唇を重ねた。


 桐明は、からまれた舌の感触と共に血の味を感じた。失われていく命を直に感じて、涙が溢れていく。


 唇を離した栄美は、桐明をずっと見つめていた。令美もだった。


「……ほんとはね、先生。…………三人で、一緒に……おでかけしたかった」


 そう告げた黒髪の栄美は、涙を散らしながら、崩れるようにその場に倒れた。銀髪の令美は苦しい顔をしながら、なんとか起こそうとしている。


「うあああぁぁッ!! 栄美、栄美、しっかりしろ! 目を開けてくれ!」


 桐明は、栄美を抱きかかえて、叫び声をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ