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雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第4章

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第33話 外せない鎖

「研究という仕事が終わらないと、無理なんだ」


 令美と栄美、白と黒の双子の少女。桐明は彼女たちの誘いを断った。


「いつまでかかるの?」


「まだ何年もかかるよ」


 桐明のその言葉を聞いた二人は寂しそうな表情をした。桐明は、それを目の当たりにしても、決心できない自分を自覚する。心が死んでいるのだろうか。


「二人とも、『異能』のことは秘密にしておくんだ。誰にも知られてはいけないよ。栄美、君も何か異能を持っているみたいだけれどね」


 それは、してはいけないことを親が子どもに教えるようだった。


「私の力は、『異能を目覚めさせる』だけ。令美みたいな自由を手にできるものではないの」


 黒髪の少女は答えた。それを聞いて、桐明は驚く。そして、底に沈んでいた好奇心が湧いてくるのを感じる。


 異能とは何だ? そもそも実験体とは何なのだ? 考えないようにしていたが、彼女たちは成長が一般的な人よりも倍くらい早い。No.が付与されていることから、他にもいるのか? 真理を探求する最先端の研究所にいながら、疑問だらけだ。



 桐明は、研究チームのリーダーへ彼女たちには『異能』と認められる覚醒はないと報告していた。だが、こっそりと検査の際に彼女たちの皮膚を薄く採取していた。


 それぞれ皮膚の細胞を培養した。その細胞を顕微鏡で観察すればするほど、あるものと酷似していることがわかる。それは身近な研究対象だった。……『魔女細胞』だ。


 いや、普段研究している『魔女細胞』と同じなのだ。細胞分裂の間隔も同じ。遺伝子解析をしてみたが、差異がなかった。……全く同じ細胞。


 簡単な結論がまず出る。あの白と黒の二人は、おそらく『魔女』と呼ばれるものの複製体クローンなのだ。


 だが、次に複雑な問題が発生する。なぜ、令美は、メラニン色素が作れない白いアルビノなのだ? 黒髪の栄美が魔女にそっくりな姿なのだろうか? いや、逆もあり得る。魔女はアルビノなのかもしれない。桐明は『魔女』に会ったことがないので、結論が出せないと悟る。


 それに、二人の異能が違うというのは、遺伝子に関係ないのか?

 『魔女』は二人と同じように恐ろしい速度で歳を取るのか?

 そもそも、『魔女』は生きて個体として存在しているのだろうか?



「ねぇ、先生。研究所にフードを被った幽霊が出るんですって」

「壁からスッと出てきて、壁にスッと入って消えてしまうんだって」


 黒と白の双子は、怪談のような話を興味深く語っていた。


 桐明は、彼女たちと同じように『異能』の力ではないかと思ったが、口には出さなかった。きっと他のNo.の実験体かもしれない。狭い世界しか見ていなかった桐明には、それくらいしか想像できなかった。


 *


「成人女性になるほど成長した実験体No.11と12だが、いまだ『異能』の兆候がない。研究所としては、不死性が認められなければ処分とすることになった」


 研究チームリーダーが告げた言葉の意味が、桐明にはすぐわからなかった。


「それはどういうことですか?」


 桐明は、恐ろしい想像をしながら、確かめたくないことを聞いた。


「あの実験体たちを殺してみる。死ななかったら引き続き、『魔女』の候補として研究する。死んでしまったら、そのまま処分だ。もちろん細胞のサンプルくらいは採取して、冷凍保存しておくけどな。『異能』をもっていないなら、金食い虫だ。価値がないなら処分するという決定だ。そろそろ次のロットでの研究に切り替える時期でもあるしな」


 桐明の目の前に、倫理を大きく逸脱した言葉を当たり前のように吐く科学者がいた。身体が冷たくなっていく感覚がした。血の気が引き、気分が悪くなる。


 『異能』のことを報告すれば、白と黒の双子は殺されずに済むのか? いや、だめだ。令美の『遠くを視る目』と『瞬間移動』は、極秘の研究をしたいユニオンセルにとって脅威だ。危険視されるのは明白だ。栄美の『異能を目覚めさせる』という力は、貴重とされて一人だけ残されるだろうか。だが、それも確証はない。令美を失ったら、栄美はどうなるか。肉親を喪う苦しみを知っているだろうと、自らに問いかける。


 妻と娘の顔が浮かんだ。そして、人の形をなしていなかったその二人の遺体も。もうこれ以上、目の前で大切な人が死ぬところを見たくない。悲しい思いはしたくない。彼女たちを守りたい。守れなかった妻と娘の代わりに……。


「私は、彼女たちの教育係でした。……少し考えさせてください」


「君がどう思っていようと、プロジェクトの進捗を遅らせるわけにはいかない。『魔女』の不老不死の秘密を解き明かさなければ、私の命も危ういからな。もちろん君もだ」


 研究チームのリーダーは青白い顔をして言った。桐明は何か巨大な力と権力の片鱗を感じたのだった。



 あくる日から、桐明は白と黒の双子を助けることに頭をフル回転させていく。


 研究所を出ることは、白の令美の異能で簡単にできる。


 だが、いくつもの問題があった。一つ目の問題は、研究所の外に出た後の生活だ。桐明が二人に付いていけばなんとかなる気もしたが、それでは最も大きな問題を解決する可能性がなくなってしまうのだ。


 最大の問題。それは二人の成長速度の問題だ。


 令美と栄美の成長速度は単純に通常の二倍だ。半年で一歳、歳をとる。つまり、五年で十年分。十年で二十年分。考えたくないが、女子高生くらいの彼女らの三十年後は、中年女性ではなく八十歳近い老人となる。


 想像すると恐ろしい。このままいくと、彼女らは桐明の歳を追い抜いてしまうのだ。


 なんとかしたい。だが、可能性はある。『魔女細胞』だ。研究を続けていけば、なんとかなるかもしれない。


 白と黒の双子を外へ逃し、実験体は殺処分したと嘘の報告と偽装をする。そして、彼女らの急激な老化を止めるための研究を行う。どうしても外部に協力者が必要だった。だが、桐明は研究所から出ることもせずに俗世間との関係を絶っている。頼る相手がいなかった。頭を抱えた。


 解決策が思い浮かばないまま、無邪気な双子の顔を見ながら、何日も過ぎていった。


 *


 ある晩、自室のベッドで寝ていると、身体をゆすられた。目を開けると、常夜灯のわずかな光の中にフードを被った人物が、桐明を見下ろしていた。幽霊かと思い、声をあげそうになる。


 フードを被った人物は口元に人差し指をあてて、桐明に声をあげないように示し、そして言った。


「……あなたが抱えている問題。私たちなら助けることができます。あなたの研究が完遂するまで、彼女たちを連れ出して生活を保証してあげますよ」


 女性の声だった。なぜか、桐明が抱えている事情を把握していた。


「令美と栄美を外に逃した後、生活を見てくれるということか?」


「ええ。そのとおりです。あなたは、ここに残って研究がしたいのでしょう? 本当の意味で、彼女たちを助けたいから」


 なぜ、そこまで知っているのだと、桐明は疑問を持ちながらも応じる。


「そうだ。急激に歳を取っていく難病だ。それをなんとか治療したい。でも、どうして手を貸してくれる? そもそも、あなたは何者なんだ?」


 桐明は、寝室に侵入されたという恐怖をなんとか封じて、理性を保って問いかけた。

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