第27話 二対二
「……レインさん、さっき私に準備万端か? って聞きましたよね」
シャインは助手席からじろっとレインを睨んだ。今回は、レインが車を運転している。例の二人組を追跡するにあたって、車が走り出した途端、彼から寄り道をしたいと告げられたのだった。
「ただ、コンビニに寄るだけだ。それに買うものも決まっている」
そう言って、レインはコンビニの駐車場へ入ろうとウインカーを出した。車を停めた後、店内へ入っていく。シャインは助手席で待機だ。
いくつか雲が浮いているが、良い天気だった。青空が眩しい。
レインが店から出てきた。どうやら買ったのはペットボトルのようだ。剥がしたラベルを店舗の入口にあるゴミ箱に捨てると、車へとやってきた。ドアが開く音がし、レインが運転席に座った。
「じゃ、行こうか」
「何を買ったのですか?」
「これさ」
レインはラベルを剥がしたペットボトルを見せた。中身は透明な液体だった。
「水を買い忘れていたのですか? レインさんが忘れ物なんて、めずらしい」
「いや、車のトランクにポリタンクに入った水はある。やられたら、やり返したいからな。ちょっとした手品を用意したかったんだ」
車は快調に走っていた。例の二人組との距離が縮まっていることがスキャンゴーグルの表示情報でわかる。
「できれば、あの二人が揃っていない時を狙いたかったがな。各個撃破の方が確実だ」
レインは、慎重な戦術を実践したかったと告げる。
「それだと楽勝かもしれませんが、二回も戦わないといけないですよ。一回でいいです。お日様出てますし」
シャインは、最も短い手番で解決したいと告げた。
*
やがて追跡対象がいる目的地に着いた。そこはビルの建設現場だった。
車から降りると、建築中の建物の周囲を囲む様に立てられてた鉄板の壁があった。そこに貼り出されている工事計画表を見る。アドミラル建設が関わっていることがわかった。十階建てのビルになる予定のようだ。
二人が顔を上げた先にある建物は、まだまだ完成には程遠い。鉄骨を組んでいる状態であり、その周囲には足場も組まれている。おそらくまだ五階程度の高さだ。
この現場に、あの二人……シミターとアメジストがいる。
どうやら、予告状もなしに仕掛けようとしている様だ。本来であれば、今も建設作業が進められていたであろうが、ビル崩壊の騒ぎの影響で休止しているのだろう。作業員の姿はなかった。
現場への入口。小さな車輪付きで鉄板でできた屏風のような引き戸は、全開すればトラックが通れるくらいの幅だった。その扉の施錠箇所は見事に溶かされている。引き戸は少し開けられていて、中に誰かが入ったと教えてくれていた。
「さぁ、いくぞ」
レインの声に、シャインはうなずいた。二人揃って、建設現場に入っていく。レインの後には、例のごとく水のかたまりが懐くように転がってついてくる。車で運んできたポリタンクの中身だった。彼の左手にペットボトルが握られている。
雨男と晴れ女が進むと、たくましい男がいた。鉄骨に手をあてようとしている。そして、傍には紫色の巻き下ろしロングの女性がいた。シミターとアメジストだ。
「こんにちは! こんなところで、何をしているのですか?」
シャインが元気よく声をかけた。その側で、レインがため息をつく。不意打ちの機会が台無しだ。それに初対面だろ。まぁ、いつものことかと諦める。
シャインの声で、シミターとアメジストが振り返った。レインとシャインに気づく。
「あ、お前、生き残ってたのか。あのジョーカー野郎はどうなった?」
シミターがレインを見て言った。
「どうして、ここに私たちがいるとわかったのかしら?」
アメジストは、そう言いながら、例のごとくステンレス製のウイスキーボトルに口をつける。
「悪いが、どっちの質問にも答える義理はない。お前ら『ノーブル・ギャンブル』だろ?」
レインが示した情報で、シミターとアメジストは警戒し、身構えた。
「私たちがやっつけちゃいます。もう、悪いことはさせないよ!」
シャインも構える。
「面白え。俺たちに敵うわけないだろ。なぁ、アメジスト」
そう言われたアメジストは、小さくため息をつく。そして、水を操る男が連れてきた女性を警戒しながら、ウイスキーボトルにもう一度口をつけた。
「そこのお嬢さん、お酒は強いかしら? 今度、呑みにいかない?」
その質問に答えずに、シャインは地面を蹴って、アメジストとの間合いを一気に詰める。シャインの渾身の右拳ストレートは、アメジストの舞うような動きで避けられた。
「ちょっと、いきなり酷いじゃない」
そう言いつつも、アメジストは、平手打ちをシャインの顔に叩き込もうとする。シャインは、わざと姿勢をくずして転がるように避けた。そして、体勢を整えると間合いを詰めて、返すように左の拳を突き出した。
アメジストがその拳を右手で受けた。そして、相手に酔いをもたらす異能を発動する。
「あ、私、けっこう呑める方なんで」
シャインは、やっと質問に答えた。そして、ニカっと笑った。
「そう。効かないのね」
身体強化の異能を発揮する二人の女性は、互いに拳や蹴りを打ち合う。アメジストの美脚から繰り出される蹴りを、シャインは見切って避ける。シャインが足払いを仕掛けた。
先読みしていたアメジストは軽く後に跳んでかわすが、その一瞬にシャインは自らに蓄積しているエネルギーを解き放つ。加速した身体。そこから繰り出される会心の右拳ストレート。
宙に浮いていたアメジストは避けれずに防御の構えをとった。だが、直撃を喰らう。吹っ飛ぶ。彼女の身体は建築材の山にぶつかり、大きな音を立てて、その山が崩れた。
シャインは油断せずに、崩れた建築材の山から目を離さない。
「ひどいわ。せっかくのスーツが砂だらけよ」
アメジストはスーツについた砂ぼこりを払った。そして、右手で髪をかき上げる。ウイスキーボトルに口をつけて、中身を飲んだ。
「いくら呑んで強くなっても、いい天気だから私には勝てないよ」
シャインは、右手で空を指差した。




