表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/94

第25話 追撃は最大の防御

 雨男と晴れ女の車が、もう一つのターゲットとなっていた新設の私立小学校に着いた。シャインが担当していた建物だ。すでに陽は落ちている。


「…………起きたことを、情報共有しておきたい」


 助手席にうずくまっているレインが青白い顔で言った。やはり、シャインの運転の影響は否定できない。


「わかりました。ちょっと待っててください。バイクを取ってきますので」


 シャインは、車から降りると正門を抜けて校庭へと入っていった。


 レインも車から出て、静かに深呼吸をする。手にはミネラルウォーターのペットボトルが握られていた。街灯の光で、それはキラキラと光を放つ。乾いた喉を潤すために、水を飲む。電撃のダメージは回復したが、酔いはまだ残っていた。


 レインは下戸だ。つまり酒は弱い。飲めないのだ。アメジストと呼ばれていた女とまた戦う際には、細心の注意を払わないといけない。


「まだ顔が青白いですよ、レインさん。大丈夫ですか?」


 バイクを押して戻ってきたシャインが言った。誰の運転でこうなったと言いそうになったが、窮地から彼女が助けてくれたことを思い出す。言葉を飲みこむ。


「……例の二人組と戦った。男はやはり『溶かす』異能の持ち主だ。予想通り、手のひらで触れたものを溶かせる」


 レインはそう言った後、操る水で施した拘束を男が上着を溶かして解除したことを共有した。


「その『溶かす』異能って、やはり時限式も可能でした?」


 シャインは、脇に抱えていたヘルメットに右手を広げてあてた。


「時限式の現象を確認したわけではないが、建物に手のひらを押し付けた後、油膜の虹色のような手形が壁に残っていた。それが時限式のカラクリだと思う。その虹色の手形は、水で流せば消えた」


「そうなんですね。では、レインさんに相手してもらった方が良さそうです」


「ああ。ちなみに男はシミターというコードネームで呼ばれていた。それから、もう一人の女は俺とは合わない」


 レインは、酔いを覚ますように深呼吸をした。ペットボトルに口をつける。


「えっと、好みのタイプではなかったってことですか?」


 シャインが、首を傾げて訊く。レインは水を吹き出しそうになったのをこらえた。


「……茶化すな。その女の異能が、俺にとって多少厄介だということだ」


 それを聞いたシャインは、相変わらず負けず嫌いだなぁと思ったが心に秘めておく。


「で、どんな能力だったのですか?」


「おそらく、酒を飲むことで身体強化ができる。そして、触れた相手を酔わせることもできる。アメジストというコードネームで呼ばれていた」


 レインは、先ほどのバトルでの出来事を思い出して伝えた。


「あ、だから、レインさん今ふらふらなのですね。お酒飲めないですもんね」


 シャインは、心配した顔で言った。誰かのひどい運転でも酔ったとは、思いもしないらしい。


「だから、次に彼らと戦う時は、『溶かす男』であるシミターは俺が相手をする。『酔わせる女』であるアメジストは、シャインに任せる」


「ふふっ。任せてください。呑み比べなら負けませんよ!」


 シャインは、ビールジョッキを握ったような拳を見せつける。若干、話がズレている気がしたが、レインにはツッコむ気力がなかった。シャインはえらく酒が強いから、アメジストに触れられても問題ないだろう。


「でも、今日のように二手に別れてしまうと、思った通りの対決にならないですよね?」


「ああ。だから、こっちから仕掛ける。追撃は最大の防御だ」


 そう言って、レインはさらに情報共有をした。スキャングラスでの判定では、あの二人組はレベル3のオレンジだったこと。『スティグマ・システム』の人物照会では、市民の該当者なしであったこと。


「あれ? 対象が市民でないと追跡の許可もらえないですよね。位置情報がわからないですよ。どうやって追いかけるんですか?」


「レベルの判定が出ているってことは、個人情報が不明でも、その人物の『信号』を受信できているということだ。識別もできているということ。市民の誰なのかという名前がわからないだけなんだ。だから、その『信号』が発生している場所に向かえばいい」


 青白い顔をしたレインは、シャインの顔を見る。彼女の顔は別の意味で、青白くなった気がする。ちょっと分かりづらかったか。


「人物照会で該当なしとなっても、ちょっと工夫すれば追跡可能ってことだよ。その工夫をするあてはある。同僚の『ホワイトムーン』に頼るつもりだ」


 レインは、先日迷惑をかけないと告げたばかりだったのになと思い出す。


「とりあえず、わかりました。相手も油断しているでしょうから、攻めましょう」


「ああ。それにシャインが切り札だ」


 そう言われて、シャインの顔が明るくなる。そして顔がニヤついてきた。


「ど、どうして、私が切り札なんですか?」


「あの二人組は、シャインに遭っていない。どんな人物でどんな異能を持っているか? あちらには情報がないはずなんだ。有利な点を活かして犯人確保できるはずだ」


 今度はこっちから仕掛けてやる。アルコール・ハラスメントを喰らった雨男は反撃を誓ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ