表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/94

第18話 異能による証拠

「あのー、大町さん。どうして建築現場の防犯カメラ映像が残っていたのですか? ビルは崩壊してしまったのですよね。当然カメラも壊れてしまったのでは……」


 シャインは、映像を観る前に気になったことを口にした。


「申し訳ありません。説明が不足していました。確かに、ビルの崩壊に巻き込まれて防犯カメラ本体は壊れています。これから流す映像は、自動的にネットワーク越しにサーバへと保存されていたものになります」


 理恵が説明をしてくれた。そして、映像を共有画面に流した。


「怪しい二人組が映っていただけとなりますが……」


 流れ出した防犯カメラの映像は、ビルの入り口付近を映しているものだった。


 *


 白黒でビルの入り口を映す映像がしばらく続いた。やがて、一組の男女が映る。時刻は早朝の四時過ぎだった。


 不法に侵入したことは明らかだった。建物を囲む足場が取れたとはいえ、ビルの敷地に入るには、周囲を覆っている鉄板の壁を飛び越えるか、施錠された扉を開ける必要がある。


 一組の男女はカップルではないと思われた。互いに少し距離を起き、歩いているからだ。男は筋肉質で体つきが良い。長袖シャツに、おそらくカーゴパンツだ。女は髪を巻き下ろしていて、膝丈の短いスカートでスーツ姿。


 二人はビルの中へを入ろうとしていた。正面の自動ドアのところで立ち止まる。当然、施錠されており開かない。


 男が自動ドアのガラスに左の手のひらを当てた。急に、自動ドアの片方のガラスが溶ける様に液状になって地面へと広がっていった。二人はビルへと入っていった。


 これ以上はカメラの画角におさまらず見えなかった。


 *


「映像はこれだけです。ビル内にも防犯カメラは設置が進んでいましたが、ビルが稼働する前ですので防犯カメラも動いてはいませんでしたので」


 理恵が告げた。


「自動ドアのところで何かしてましたね。ガラスの扉が溶けちゃいました」


 シャインが言うと、レインが答える。


「そうだな。ガラス扉が、あっという間に液状になったのは異能の所為だろう」


「お二人のご推察のとおりです。この映像を見た弊社の有識者が、御社に相談しようとなりまして」


 理恵が簡潔にウィルに依頼となった経緯を説明した。


「質問なのですが、ビル内は携帯電話の屋内基地局は設置されていたのでしょうか?」


 レインが理恵に問いかけた。


「いえ、まだです」


 その答えを聞いて、レインは残念そうな顔をした。シャインは、レインの質問の意図がいまいちわからなかった。


「レインさん、まずは現地を見てみませんか? 百聞は一見にしかずです」


「大町さん、俺たちがビル崩壊現場を調査させてもらえるようにしていただけないでしょうか?」


 レインが調整を依頼した。


「はい。ぜひ、お願いします」


 理恵は快諾した。


 *


 車に乗り、レインとシャインは天円区の現場へと向かう。その車中で、シャインは質問をした。


「さっき、どうして携帯電話の屋内基地局について、尋ねたのですか?」


「ああ。屋内基地局が稼働していれば、電波が受信できる。つまり、あの映像に映っていたあの二人の『信号』を受け取り、『スティグマ・システム』で人物照会ができる可能性があったからさ」


「そいうことだったんですか。『スティグマ・システム』で判別できれば、確かに追いかけるのは楽ですもんね」



 レインとシャインは、天円区のビル崩壊現場に到着した。車を降りる。まだ日は出ているが、横からの西日が強く感じる。


 現場調査中の警察官に、説明をした。無事に現場に入って良い許可がおりる。


 二人の目の前は、瓦礫の山だった。


「シャイン、とりあえず、液状にされた建材がないかを探すぞ」


「えっと、さっきの映像に映っていた溶けたガラス扉、みたいなものを探せってことですか?」


「そうだ。あれは明らかに異能によるものだろう。だとしたら、溶かす能力という可能性が高い」


「でも、これ無理じゃないですか? 量が多すぎですよー」


 シャインは、かつてビルを成していた瓦礫の山の上で言った。


「とりあえず、陽が沈むまででいいから、何ヶ所か地面まで瓦礫を退けてくれないか? 充電されながらだから余裕だろ?」


 レインは、相棒の能力をフル活用する気だった。そして、反論をさせる間もなく続ける。


「雨が降っていれば、俺がやったんだが……。今日は良い天気だしな」


 それを聞いたシャインは、口を尖らせて恨めしそうな顔でレインを見ている。動き出す気配はない。


「……わかったよ。じゃあ、城京苑の焼き肉ランチでどうだ?」


「奢ってくれるのですか?」と、シャインは目を輝かせながら言った。


「ああ。なので陽が沈むまでの限られた時間だけど頼むよ」


 レインは、アドミラル建設の請求書に瓦礫よけのために重機を借りたという明細を付け加えることに決めた。


 シャインは、ポイポイと瓦礫をどけていく。地面が見えたら、調査はレインに任せる。そんなチームワークで潰れてしまった一階部分の残骸を調べていく。地下階もある構造の建物であった場合は、地面という区切りがない。だが、幸いこの建物は横に駐車場を併設する予定だったようで地下はなかった。もちろん、建物を安定させるために杭は地面に深く打ち込んで、土台もしっかりと造られているのであるが。

 

 レインが瓦礫撤去を指示する場所は他の場所よりも積み上がった瓦礫が少ないところだった。何かしらを溶かして崩壊を導いたのなら、溶けた分だけ、瓦礫は積み上がらないと考えたのだった。


 三ヶ所目の瓦礫をどけて地面が見えた時だった。


「レインさんッ!」


 声をかけられて、レインがシャインに合流する。そこでは、灰色が溶かしすぎた絵の具のように広がっていた。


「コンクリートが溶けちゃった感じですね。なんというか溶けたチョコレートみたい」


 シャインが感想を述べた。レインは顎に手をあてて考え込んでいる。


「……コンクリートだけが液状化したのであれば、あるべきものがない」


「あるべきもの? って何ですか?」


「鉄筋だよ。鉄の棒。鉄筋コンクリートの鉄筋が剥き出しで残っていても良いのに、それがない。鉄筋すらも溶けた?」


 そう言いながら、携帯端末で現場写真を撮っていた。


「映像ではガラス扉に触れた後、溶けてましたよね。触れないと異能の効果がなさそうです」


 シャインが意見を述べた。


「だとするとだ……触れることが条件だが、無機物は何でも溶かすことはできる感じか? 有機物にも効果があるのか? だとしたら、かなり危険な異能かもしれない」


 レインは、思考しながら意見を言う。


「うーん。レインさん、ちょっと気になるのですが……溶かしてビルを崩させるとしたら、異能者本人も危なくないですか? ビルが崩れてきて押し潰されちゃいますよ」


「……確かにそうだな。だとすると、時限式も可能な能力かもしれないな」


「ん? どういうことですか?」


 シャインが首を傾げる。


「触れたものを溶かせる能力は、指定した時刻になったりとか一定時間が経過したら、発動させることが可能かもしれない」


 レインはさらに続ける。


「ビルを崩壊させるには……要となる柱を何本か溶かさないといけないだろう。……やはり時限式はありえるな」


 シャインは腕組みをしながら考えて、疑問をまた一つ挙げた。


「なんで二人組だったんでしょうね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ