表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち晴れの事件簿 ~ 性格も好みも真逆の男女バディですが、異能犯罪者は沈めます ~  作者: 凪野 晴
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/94

第15話 判定不能

 城守彩が、留置場の包川に起きた出来事の動画をタブレット端末で再生させた。その端末は大きなディスプレイに接続されている。レインとシャインは、その大画面を注意深く観る。昨晩の夜中に起きた出来事だ。


 *


 包川が留置場の簡易ベッドで寝ている。そこへ突然、壁からフードを被った人物が現れた。服装はグレーのゆったりめなチノパンに黒のパーカーだった。包川は人の気配を察して起き上がる。独りでいるところに、人が現れたのだ、驚く様子が映っていた。


「あ、……あんた何者だ。どうして、ここにいる?」

 包川の声だった。


 パーカーのフードを被った人物はそれには応えない。持っていた携帯端末の画面を包川に見せた。それを見た包川の表情が驚きへと変わる。そして、その人物は、彼に何か渡した。小瓶のように見えた。


「これを飲めば、異能が復活するんだな?」


 包川はフードの人物に確認する。被っているフードのためどう応じたかはわからなかったが、包川はその小瓶の中身を飲んだ。


 しばらく、二人とも動かなかった。


 だが、急に包川が苦しみ出した。目を大きく見開き、苦しそうにしながらもフードを被った人物に手を伸ばす。その人物は数歩下がってその手を避けると、静かに見守っていた。


 やがて、包川が動かなくなったことを確認すると、フードを被った人物は、転がり落ちていた小瓶を拾い、壁の中へと消えていった。


 *


「以上が昨晩、容疑者・包川に起きた出来事です」


 彩はタブレット端末を操作して、動画を停止させながら言った。レインもシャインもしばらく黙っていた。


「正岡さん、城守さん。警察署内でも『スティグマ・システム』による個人認証とレベル判定は可能ですか?」


 レインが、さらなる情報提供を求めて言った。


「ああ。スキャンはされる。当然、このフードを被った人物にもだ」


 正岡が、簡潔に答える。


「じゃ、その結果はどうだったんですか? このフードを被った人、誰だったんですか?」


 シャインが、正岡に問うた。


「それが……わかりません」


 彩が、正岡の代わりに答える。正岡も同意をするように首を縦に振った。


「わからない?」


 レインが自問するように言った。そして、続ける。


「ということは、市外の者か……。もしくは、あの時、ワクチンを接種しなかった市民か……」


「……レインさん、そのとおりだ。この人物の正体は、『スティグマ・システム』から割り出せなかったんだ」


「えっと、フードで顔がわからなかったから、正体不明なんでしたっけ?」


 シャインは、確認するように三人に聞いた。


「残念ながら、そうではありません。この人物から『信号』が出ていなかったということです」


 彩が答えた。シャインは、すこし自信がない様子だがうなずいた。


「やっかいだな。どんな人物かはわからないが、異能は持っている。少なくとも壁を簡単に通り抜けられる能力のようだ」


 レインが、スキャングラスの縁に右手の人差し指を当てながら言った。


「夜中とはいえ、堂々と警察の留置場に登場と来たもんだ。おまけに、録画されていることを理解している。包川とのやりとり中、一言も喋っていないからな。男か女かもはっきりとわからない」


 正岡はそう言った後、ため息をついた。


「おまけに、包川の望むものをチラつかせて、毒物を飲ませている。殺人の容疑者として警察に捕まっている状態なら、疑う気持ちよりもすがる気持ちが勝るだろうな」


 レインは、正岡の発言に添えた。


「えっと、包川が……殺された理由は?」


 シャインは最も大事な疑問を三人に提示する。それを聞いた三人は、沈黙した。思考を巡らせている。


「考えられるのは、口封じでしょうか。捕らえたのは昨日で、その日の夜中に犯行が行われているところをみると、かなり迅速に手を回してきたように感じます」


 彩が、最初に考えを述べた。


「口封じといっても、昨日の取り調べだと、『魔女』と思われる人物に接触したという情報くらいだぞ……」


 ベテラン刑事は腕組みをして言った。


「封印されているとはいえ、異能を研究されることを嫌った……?」


 レインがつぶやいた。


 シャインは、右手の人差し指をあごにあてながら上を向いていた。そして、独り言のように言う。


「んー、グリーンからいきなりオレンジになったカラクリと関係あるのかな? なんというか……誰でも異能者にしてしまう秘密とか?」


 その言葉を聞いて、他の三人はハッとした。


「城守、包川の血液サンプルはどうなってる?」


 正岡が確認するように聞いた。彩は慌てて、部屋を出ていく。


 しばらくして、彩が戻ってきた。少し息が上がっているのに、彼女の顔はいつも以上に白い肌のように見える。


「施錠された冷蔵庫に保管されていたのですが……無くなっていました」


 彩は、申し訳なさそうに言った。


「壁を抜けられるなら、当然、冷蔵庫の中にも手が伸ばせるということか……。おまけに、血液サンプルが採取されることまで知っていたのだろうな」


 レインが推測を添える。


「忍び込む、盗む、逃げるが余裕な異能。ついでに言えば、『スティグマ』にもかからないって、困りますね」


 シャインの言葉に、三人は同意する。


「さらに付け加えると、殺人というか暗殺もできる。ただ、戦闘能力は高くないかもしれない」


 そして、レインは続ける。


「包川の留置場に潜入した後、彼が寝ているままだったら、刺すか締めるかして殺していたかもしれない。気配に気づかれ起きられたから、毒殺をする方法を選んだと思う。寝たままだったら、小瓶の毒薬を飲ませるのは結構大変だぞ。それよりナイフで刺す方が楽だ」


「そうでしょうね。論理的に矛盾はないですし、異能を使って殺せるのであれば、そうしていたでしょう。でも、使った様子がありませんでした。異能としての戦闘力は高くないは、成り立ちそうですね」


 彩が、レインの言葉に続いた。


「とりあえず、包川を殺した犯人のことは『壁抜け』とでも呼ぶか。呼び方がないと話しづらい」


 正岡が名付けた。反対する者はその場にはいなかった。


「しかし、困りましたね。神出鬼没な上に『スティグマ』で追えないなんて……探せませんよ」


 シャインの言葉が、ことの重大さを再認識させた。


 容疑者・包川の死亡により、事件は被疑者死亡で書類送検される形で決着が着いた。そして、『壁抜け』による殺人事件は、手がかりはないが捜査継続である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ