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挨拶と王立次世代育成学園

 翌朝、目が覚めたイザークは、まだ少し眠い体を無理矢理起こしてベッドから立ち上がる。


 そして昨日説明されていた、何か用がある時に鳴らすベルを2回程鳴らした。すると、


 コンコン


 すぐに扉がノックされたので、イザークは返事をする。


「どうぞ」

「失礼致します。おはようございます、イザーク様。よくお眠りになれましたか?」

「おはようございます。おかげさまでぐっすりでした」

「それは良かったです。旦那様方がお待ちですので、早速準備に取り掛からせていただきますね」

「お願いします」



 その後、30分ほどで支度を済ませたイザークとメイドは食堂へと向かった。

 既に中から話し声が聞こえるので、皆集まっているのだろう。


(公爵家の方々は既に集まってるのか……待たせてしまって申し訳ないな)


 そんなことをイザークが考えている間にドアがノックされる。


 コンコン


「あぁ、来たのかな? 入りたまえ」

「失礼致します。イザーク様をお連れ致しました」

「うん、ご苦労様。君は退がってくれていいよ」

「かしこまりました。失礼します」


 イザークが部屋の中に入ると、メイドは次の仕事のためか、すぐに退がっていった。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません」

「良いんだ良いんだ。遠慮は要らん」

「はい」

「君のことは今から詳しく2人に話す。だがその前に、会うのは初めてだから取り敢えず互いに自己紹介でもしようか」



 公爵がそう言うと、今まで黙っていた公爵の夫人と息子がイザークに視線を向ける。


「あらまぁ、これはこれは可愛らしい。話は少しだけれど聞いてるわ。一緒に座って朝食をいただきましょう? 詳しいお話も聞きたいし」

「奥様、お気遣いありがとうございます。では、失礼します」


 イザークは優雅にお礼を言った後、静かに席に着いた。その一連の所作に公爵家一同が目を奪われた。


「驚いたね……」

「ええ」

「父上、僕もです」


 イザークのことを見ながら3人が言うので、なんのことを言われているのか分からなかったイザーク。しかし公爵が理由を述べてくれたことでようやく理解した。


「君の教養の深さにみんな驚いているんだよ。三男だからとサボらずに、相当頑張ってきたんだね」

「あぁ、礼儀作法のことでしたか。そうですね、父からは相当厳しく教えられていたと思います」

「なるほど……」


 しばらく沈黙が訪れたが、その静寂を破ったのはイザークだった。


「そうでした! ご挨拶が遅れてしまいました。申し訳ございません。私はイザークと申します。年は10歳でございます。宜しくお願い致します」

「ええ、宜しくね。私はアンネリーゼよ」

「僕はユリアン。宜しく!」


 お互いに自己紹介をして、その後は公爵から直接皆に今回のいきさつの説明がなされた。夫人は途中から顔を伏せて、涙を流し、ユリアンは子供と言っても、公爵家の教育を受けているので、難しい話も理解できてしまう。かなり不愉快な顔をしているのが、イザークからも見て取れた。


 そして、


 バッ!!


 アンネリーゼ夫人が、涙を流しながらイザークを力強く抱擁した。


「本当に今までよく頑張ったわね! 偉いわ、本当に偉いわ! 貴族として生まれて、勉強や色々な習い事もお家のために頑張ってきたのよね。それなのにこんなに壮絶な経験をするなんて……養子として迎えると言うお話だったけど、むしろ是非来てほしいわ。放って置けないもの」

「僕も。イザークがうちに来てくれると、なんだか楽しそうだし。ダメかな?」

「皆さん……」


 イザークとしては元々帰りの馬車の中で、この家に拾われることを決めていたのだが、改めてこうして歓迎してもらえると、嬉しく思うものがある。


「是非! こちらこそ宜しくお願いいたします」


 この返事に公爵家の皆が笑顔になり、そこからは楽しく朝食を食べ進めていくのだった。


「ところで、イザーク。君は確か今10歳なんだよね? ということはだ、もう王立次世代育成学園に入学できる年ということだ」

 

 朝食ももう終わるかというところで、オットー公爵がそんな話を持ち出した。確かに、とイザークは思う。自分は本来なら今年学園に入学予定なんだったなと。

 しかしイザークは入学前に家を追い出されてしまったので、最早関係のないことだと割り切っていたのだ。


「仰る通りです。公爵様」


 イザークがそう返事をすると、オットーはあからさまに困ったような顔をした。


「おいおい、もう君は家族なんだ。公爵家子息の1人なんだ。敬称呼びはやめてくれ」

「そ、そうですね」

「ははは、冗談さ。まぁ、急かすようなことを言ってしまったが、環境が変わっていきなりそれに対応しろというのも大変だろう。徐々に慣れていってくれれば良い」

「はい!……父上」

「……そうそう、そんな感じだよ」


 オットーが嬉しそうな顔でそのように言う。そして、そんなやりとりをユリアンとアンネリーゼも微笑ましい顔で眺めている。だがこのままでは話が進まないと思ったのか、オットーが学園の話題に戻す。


「それでは話を学園の方に戻そう。さっきも言ったが、イザーク、君はもう学園に入る年齢となっている。うちのユリアンもね。そして幸いなことに、学園入学まではまだ時間がある。なのでイザーク、君も編入ではなく、入学という形で学園に入れるんだ。だが一つ懸念点がある」

「入学試験ですね?」

「その通りだ。どうだい? 時間は大丈夫そうかい?」


 その質問にイザークは笑みを浮かべる。


「ご心配なく。心術は無能と言われましたが、勉学に関しては"元"兄弟2人よりも出来がいいと言われておりました」

「なるほど……。それにしても、"元"兄弟か」

「? 僕、何か変なことを言いましたか?」

「いや、別に間違ってはいないから良いんだ。だが、今更聞くのも野暮だが、勢いでここまで来てしまって未練は無いかい?」


 イザークはそこでようやくオットーの様子が変な理由を察した。


「問題ありません。どれだけすごい一族の生まれであったとしても、子供と妻を平気で道具のように扱う人に情なんて湧かないです。それに、今の僕にとって、オットー様が父上で、アンネリーゼ様が母上、そしてユリアン様が兄上です」


 イザークがはっきりと断ち切るように言うと、公爵一家は驚いたような顔をした後に、安心したような顔をした。そしてその雰囲気をさらっと変えてしまったのが、ユリアンだ。

 

「ん? 待ってイザーク! 今僕のこと兄って言った?」

「はい、言いましたよ」


 イザークがそう言うと、ユリアンはポカーンとした顔をしながら目をパチパチさせている。


「確かに王都へ向かう途中にユリアンのことについて、イザークには詳しく話していたね」

「はい、そこでユリアン様は……」

「ユリアン!」

「え?」


 ユリアンの話をしていると、急にユリアン本人から話を遮られた。なんなんだろう? とイザークがユリアンの方を見ると、少し不満そうな顔でイザークのことを見ていた。


「どうしましたか?」

「だ、か、ら! ユリアンって呼んで!」


 そこまで言われてようやくイザークは彼が言わんとしていることを理解した。困った顔でオットーの方を見ると、


「そうだな、確かに家族なのに様付けはおかしいかもしれないね。イザーク、その辺も慣れていってくれると嬉しい」

「も、勿論です。ただ、立場が上の人には癖でつい……」


 イザークとしては、仮にまだ子爵家の人間であったとしても、この癖は絶対に発動していただろうと思ってしまう。なんせ、元から立場が違うのに一時期は平民にまでその地位が転落していたのだ。

 いきなり下手に出るなという方が無理な話なのである。


「た、確かに僕は公爵家の息子だけど、流石に家族に様付けされるのは……嫌だ」

「……」


 イザークとしては会ったばかりなので、ここまで言われるとは思っても見なかったので、正直予想外という感じだ。しかし朝食の時間は一番ユリアンと長く話していたので、おそらくその時に気に入られたのだろうと、今考えてみれば納得できる点はある。


 それに、どのみちこれからイザークは本格的に家族としてこの家で、この家族と共に暮らしていくのだ。好かれるに越したことは無い。むしろ酷い追い出され方をしたイザークとしては、嬉しくもあった。

 なので、


「分かった! ごめんねユリアン。これから気をつけるよ。呼び方はこれで大丈夫?」

「!……うん!!」


 ユリアンが満面の笑顔で頷く。


(喜んでくれて何よりだ)


 そんなことを考えていると、オットーが先ほどの話をし始めた。


「えっと、それでどこまで話したんだっけ?」

「あ、えっと、ユリアンのお誕生日が僕よりも早いので兄と呼ぼうと思ったという話をしようとしました」

「ああ、そうかそうか。だそうだよ、ユリアン。そんなわけで、これからは君が兄だ」

「!!……僕がイザークの兄……」

「そう、だからこれからはしっかりと弟のことを守ってあげるんだよ?」

「はい!」


 自分が兄になると聞いてあからさまにテンションが上がるユリアンを見て、イザークは苦笑いを浮かべるしかなかった。そして実際にイザークとオットーが言うように、イザークの誕生日はユリアンよりも遅い。

 と言っても一月違う程度で、本当に少しの差でしか無いのだが……それでも、兄は兄なのでイザークはこれからユリアンのことを兄と慕っていくと決めたのだ。


「さぁ、そろそろみんな食事も終わったかな。それでは各々のやるべきことに取り掛かろう。イザークはユリアンと行動を共にしてくれ」

「分かりました、父上」

「うむ! では私は仕事に行ってくる」

「行ってらっしゃい、貴方」

「あぁ、アンネ。子供たちを頼んだよ」

「任せてくださいな」

「よし、では行ってくる!」


 

 こうしてイザークは正式にバルシュミーデ公爵家に迎え入れられることとなったのであった。


補足です。この世界の一年は地球と変わらない設定ということにしております。しかし月に関してだけは、呼び方を変えようと思っていますので、興味のある方はぜひ注視してみてください。

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