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試験

 イザークが冒険者登録をする為、試験を受けるという話になってからギルドは慌ただしくなった。


 何故なら今までにギルドに入るためにわざわざ試験を受けたという事例は指で数えるほどしか無いからだ。そしてもちろん、それらの試験の理由はイザークと同じものだ。

 劣等心術、もしくは冒険者には向かないとされている心術の者が受験したのだ。



(とにかく、僕にもチャンスをくれたってことだよね? ならやるしかないでしょ!)



 そうしてイザークが決意をしっかりと固めて、試験に臨む準備をしていると、試験会場の設営が出来たようだ。


「それでは、イザークさん。会場の準備が整いましたので、ご案内いたしますね」

「はい、お願いします」



 ここ数十年なかった、冒険者登録のための心術審査試験。ベテラン冒険者たちは皆がこぞってソワソワしていた。


 "久しぶりに冒険者に適性の無さそうな心術使いが試験を受けるらしい"


 今のギルドは仕事に行って出かけている者以外は、皆がこの話題で持ちきりだった。

 

・どれほどのものか楽しみにしている者

・どうせ大したことはないのだろうと侮る者

・前回はちゃんと試験に通って、今も現場で活躍している冒険者がいるから、今回ももしかするかもしれないと考える者

・ただ単に数十年ぶりに行われる試験で面白そうだから賭けもしたいし、見に行こうと考える者


 皆がそれぞれの考えのもと、試験会場に見学に来ていた。


 そしてその受験者を見て、皆が驚愕する。それも仕方ないことだろう。なんせ10歳そこらの子供だったからだ。


「ケッ!! 久しぶりの試験だっつうから、どんなもんかと見に来てやったのに、ガキとかふざけんな!! 冒険者を舐めてんのか!?」


 そうやって、いくらなんでもあり得ないと大声を出しながら、立ち去ろうとする者がいる中、反対に食い入るようにイザークのことを注視している者もいた。


「何言ってんだ馬鹿野郎、前回の受験者だってパスしたのは12歳くらいだっただろうが! んで今となっちゃ、物を変形、加工するっつうその心術ですげぇ活躍してるじゃねえか」

「……」


 叫んでいた男にそのように言葉を発したのは、先程イザークに絡んでいた男である。


(さっきの人、絡んできた時は嫌な態度だったけど、今のは僕を擁護してくれたのかな? なんか変わった人だな)


 そんな感想を抱いたが、とにかく今は試験に集中しようとイザークは思い、試験開始までイメージトレーニングをすることにした。



 イザークが会場で待機してから5分ほど経った頃、ようやく試験官と思われる人物が姿を現した。


「君が今回、心術審査試験を受ける人だね?」

「はい、宜しくお願いします」

「うん、宜しくね。では簡単にルールを説明するからよく聞いてくれよ」


 試験官はそう言うと、試験のルールをイザークに説明し始める。ルールとしては至ってシンプル。


1.炎の心術使いの試験官が化身を作って戦わせるので、それを倒すこと。

2.心術も体術も、あらゆる技術を使ってかまわない。


3.治療薬や増強系の薬の使用は一切禁止。


4.戦うのはあくまで化身と。試験官を攻撃して試験を終わらそうとするのは禁止。


「以上が今試験のルールだ。何か質問はあるかな?」

「いえ、特にはありません」

「オーケー、じゃあ始めちゃおうか! 位置についてくれ」

「はい、準備できました!」

「よぉし。それじゃあ……」


 試験官さんがそう言うと、彼の手のひらから炎がメラメラと噴き出てきて、一瞬にして格闘家のような姿の化身が生み出された。


 対するイザークは、竜を呼び出すことに意識を向けていく。この間翠緑龍を呼び出すことに成功して、契約も出来たから今回は違う竜を呼んでみようとイザークは考えた。


 もし契約している竜以外を呼び出す場合は、自分から1番近い場所にいる竜が呼び出される。


(さてさて、どんな竜が来るのかな?)


 そう思いながら召喚を実行した。この前と同様、激しい光が辺りを覆った。だけど、イザークは違和感を覚えた。


「ん? 翠緑竜の時ほどの輝きが無いな。なんでだろ?」


 イザークは思わず独り言を口にしてしまったが、誰にも聞かれていなかったようだ。

 しかし今はそんなことより、どんな竜が呼び出されたのか確認するのが先だ。そう思い、正面に目を向けると、


「あ、あれ?」


 思いもよらぬ光景に言葉を失った。それは、


(竜が2体……?)


 そんなことができるのか? とイザークは疑問に思ったが、実際に出来てしまっているのだから可能なのだろう。

 他にも色々と解決したい疑問はある。そもそも何故、翠緑龍を召喚した時のような閃光が出なかったのかとか、やはり強そうな竜をそう何体もポンポン召喚はできないのだろうかとか。


 しかし今考えても仕方がないので、この2体が今回のパートナーだとイザークは改めて気を引き締め直す。

 1体はゴツゴツした体で4足歩行の竜だ。もう1体は宙に浮いて腕を組んでいるところから察するに、二足歩行の竜なのだろう。


 竜にもそれぞれ見た目に違いがあるんだななどと、呑気なことをイザークが考えていると、周りがざわつき出した。


「お、おい……。アレなんだよ……。竜操師、なんだよな?」

「ああ、そのように見えるな。どうりで試験を受けるよう促されるわけだ」

「けど、よく見てみろ。2体も召喚してるぞ。俺は何人もの召喚系の心術使いを見て来たが、あんなのは初め見た……」

「確かに、普通は一体だけだよな。てことはアイツ、実はすごいやつ?」

「んなわけ!……ねぇよな?」


 外野がザワザワしているが、イザークは既に戦闘態勢に入っている。試験官も2体同時召喚には驚いたと同時に、不思議がっていたが、すぐに頭から切り離したようだ。


「そちらも準備できたみたいだね。では、試験開始!」


 試験官がそう言うと、炎の化身が一気にイザークに詰め寄る。そして腕を大きく振りかぶり、拳をイザークめがけて振り下ろす。


(なんで速さなんだ!!)


 化身のあまりの俊敏さにそう思ったイザークだったが、今は攻撃への対処が優先である。イザークは竜操師の能力の一つである、身体強化を発動して木剣を化身の拳にぶつけ合わせる。木剣も強化されているので、ある程度対抗できるかとイザークは考えたが、その考えは甘かったようだ。

 木剣はじわじわと焦げていく。一瞬焦ったがその瞬間、視界に二足歩行の竜が映し出された。尻尾を振りかざしているので、アレで攻撃するつもりなのだろう。

 そこでイザークは理解した。


(そうか……これが竜操師の戦い方なのか)


 竜操師の戦いの主役はあくまで竜であり、術者は自身の竜に指示を出したり、懐に入られた時に接近戦をするぐらいでいいのだと。


「グォーーー!!」


 竜の雄叫びと共に尻尾が振り下ろされた。本来ならば炎は実態を持たないので、物理的に攻撃を喰らうことも喰らわせることもできない。しかし心力というエネルギーによって生み出された炎は、自然界の炎と違って実態を持ったような状態になる。故に敵を焼き殺す以外にも、物理的に攻撃をすることも可能なのだ。


 それは大火傷を喰らわせた上での物理的ダメージ。凶悪という言葉でも生ぬるい。だからこそ炎の心術使いは尊敬されるのだ。


 しかし炎が実態を持つという事、それ即ち敵からの攻撃を受け止めてしまうということでもある。

 つまりは、


 ドゴンッ!!


 物体に巨大な岩をぶつけたような音と共に、炎の化身がイザークの召喚した竜の尻尾によって吹っ飛ばされた。


「す、凄い……」


 イザークは思わず感嘆の声を漏らしてしまっていた。化身は寸前でガードしたため、まだ倒せてはいないようだが、イザークにとっては、

 

 "戦える"


 ということを証明できただけで十分な成果である。実際に試験官も感心したような様子を見せている。このまま、押し切って実力を認めてもらえれば、イザークは晴れて制限無く依頼を受けられる冒険者となれるのだ。


「よし! このまま……」

「それはどうかな?」

「?……ッ!?」


 イザークはこのまま化身を倒し切ろうと考えたが、実際のところ化身にはそこまでダメージを与えられていないようだ。直ぐに立ち上がって来て、ピンピンしている。



「これは……一筋縄では行かないみたいだ」

「当然さ。炎の心術が世間から敬意を集めているのは、それ相応の力があるからだよ」

「そのようですね」


 試験官の言っていることは事実である。優等心術、劣等心術と区別されるのはそれだけ力の差があるからだ。しかしそれでも、イザークは勝利せねばならない。

 二体の竜にもうまく立ち回るよう指示を出さないといけない。かなりの大仕事だ。

 しかし不思議とイザークは、


(できそうな気がする)


 そのように思う。気持ちの整理ができれば、あとはやる事は簡単である。


「それじゃあ、試験官さん。続きをお願いします」

「オーケー、じゃあ行くよ!」


 

 再び炎の化身が距離を詰めてくる。それに対してイザークは四足歩行のタフそうな方の竜に前衛を受け持ってもらうよう指示を出した。

 

 そしてそれは成功だったと言える。炎の化身が今度は蹴りを放って来たのだが、四本足の竜が頭突きを敢行(かんこう)した。それにより、一瞬だけだが化身の動きが止まった。

 それを見逃すイザークではない。すぐさま飛んでいる竜に突撃の指示を出す。


「今だよ!」

「グォーー!!」


 今度は思い切り拳で殴りつけるつもりのようだ。


「!?」


 化身はその攻撃を察知したようだが、今下手に距離を取ろうとすると、目の前の4本足の竜に対して無防備になる。故に化身は自身の右手から火球を打ち出す。それは見事に突撃中の竜に命中した。

 しかし竜はそのまま突っ込んで来た。その予想外の状況に化身は追いつけず、


 ドゴンッ!!


 化身の鳩尾にもろにイザークの竜の拳が着弾した。それに加えて尻尾の一撃も入った。さらには四本足の竜の頭突きもプラスされ、体がくの字に折れ曲がり、試験官のすぐ横を通り過ぎるようにして吹っ飛んでいき、その後ろの壁に激突した。

 どれだけの高温がそうさせるのかは分からないが、化身の衝突によってぶつかった壁は溶解している。


 竜たちは慣れているのか、化身に触れたがあまり動じていない様子だ。軽く熱そうに手をぷらぷらしているくらいだ。



 そんなふうにイザークは自分が召喚した竜たちを眺めていると、拍手が聞こえて来た。


「素晴らしい! いや、ほんとに素晴らしいよ」


 試験官がそう言いながらイザークに近づいてくる。よく見ると、先ほどの炎の化身はボロボロと体が崩れていっている。


(本当に勝ったんだな)


「試験官さん、ありがとうございました!」

「こちらこそ、久しぶりに気持ちが昂ったよ。楽しい時間をありがとうね。ところで君が召喚したのは風と大地の下級竜だね」

「この子達のことをご存知なんですか?」

「ああ知っているとも。なんせ、この街の近くの山や林に住み着いてるからね。風と大地の竜の下位存在に当たる者たちだ。下級なので姿形は似ているが、ブレスなどは使えない。そんなところだね」

「なるほど。勉強になります!」

「ははは。お役に立てたのなら嬉しいよ」


 試験官さんはそう言ってイザークに優しく微笑んでくれた。そして、


「さて、それではイザーク君!」

「は、はい!」


 試験官さんがいきなり真剣な雰囲気でイザークに声をかけた。


「君を討伐依頼も自由にこなせる冒険者として認定し、冒険者カードを発行することを許可します!」

「!?」



(やった!……やったぞ!)


 イザークは心のそこから今の宣言を喜んだ。周りの冒険者もまばらではあるが、イザークに拍手を送っている。しかしまだ何名かはイザークのことを認めたくないらしく、そのまま帰って行った。


「この後、依頼を受けるのかい?」

「はい、早速受けて行こうかと思ってます!」

「そうか、それなら初回は僕がついて行こう」

「いいんですか!?」

「あぁ、勿論だ。僕はウード、よろしくね」

「はい! 僕はイザークです。宜しくお願いします」




 こうしてイザークは試験を無事乗り切り、晴れて冒険者の仲間入りとなったのである。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] またすごく興味深いお話ですね。 執筆頑張って下さい。次話が更新されるのを楽しみに待っています。 できれば「まさかの貴族に転生、そして最強竜魔導王となる!」と「水魔法が盛んな国において炎適正…
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