似た者同士
翌日、朝食を食べ終わったイザークは午前中にユリアンと訓練や勉強をしていた。
そして午後になった今は何をしているのかというと、
「それで? どう言った感じで保管していこうと考えているんだい?」
オットーがイザークに昨日受け取った金銭について、どう保管していくつもりなのかを尋ねていた。というのも、本当ならば昨日にはその話は終わっているはずだった。
しかしあまりの疲労でクタクタになっていたイザークは家に帰るとベッドに沈み込むように眠ってしまったのだ。それを見たオットーも、流石に仕方ないなと思い、話し合いは今日に持ち越しとなったわけだ。
「そうですね。ひとまず僕の部屋に金銭を収納するための入れ物みたいな物を設置できればと考えています」
「ほう、それは銀行のように金庫を設置するということかい?」
「はい、似たようなものかと。流石に金融機関レベルのものを再現するのは簡単ではないかもしれませんが……」
「そうだね。全く同じもの、というわけにはいかないだろうね。金融管理は国の管轄。それと同等のものを扱うというのならば、国にその旨を報告して許可をもらわねばならない。でなければ、金融法に触れる恐れがある」
(なんだ……そのいかにも破ったらヤバそうな響きの法律は…)
「分かりました。でしたら流石に難しそうなので、それと同じような用途で使える鍵付きの箱のような物を作ることができればと思うのですが、どうですか?」
「うん。それなら良いんじゃないかな」
「では、それでお願いします!」
「分かった。頼めそうな職人に依頼しておくとしよう」
こうしてイザークの臨時収入についての話はひとまず解決した。そのタイミングでイザークは一つ、気になっていたことをオットーに質問した。
「ところで父上。僕はどうして今回、これほどまでの好待遇を受けたのでしょう? 僕付きの使用人に聞いてみても、やはり今回のような謁見の内容は聞いたことがないと言っていました」
イザークのその質問に、オットーはどう答えたものかといった表情をした。そして情報を整理し終えたのか、落ち着いた様子で話し始めた。
「そうだね。確かにすごい内容だと言えばすごい内容だ。特に勲章に関してなんか、本当なら子供が何か功績を残したとしても、せいぜい大十字勲章止まり。まぁそれでもすごいんだけどね。でもまさか大銅一位を貰うなんて私ですら考えなかった」
イザークからすれば、人助けという当たり前の行いをしたまでなのだが、周囲からするとそうではないらしい。オットー曰く、一番の理由はやはり、助けたのは貴族であって一般人ではなかったこと。それも王族の次に偉い公爵だったことが大きいと言う。
イザークもそこについては確かにと思う。だがオットーが更に加えてきた情報に驚くこととなる。
「それにおそらくだけど、今回の功績を陛下が大きく捉えてらっしゃるのには、他にも理由がある気がするよ」
「え? 他にも理由が?」
イザークとしてはこれ以外に更に何か理由があるのかとも思ったが、黙って聞くことにした。
「多分だけどね。私の家、バルシュミーデ公爵家はこのベネディクト王国が建国された時から存在している。この家の人間である私がいうのもなんだが、由緒正しい家柄だと思う。もしかしたらそれも関係あるんじゃないかな?」
「え!? バルシュミーデ公爵家がすごいのは知ってましたけど、そんな大昔から存在してたお家なんですか?」
イザークの問いにオットーは力強く頷くことで返事とした。そして更に、と続けた。
「王国が出来た時から王家に仕えていた貴族だということは、当然王族の血も入っているわけだ。まぁ公爵位を授かっていることからも明白ではあるけどね」
「ッ!!」
イザークは言われてみれば確かに! と納得の表情を浮かべた。
「ということは父上ってもしかして……」
「あぁ、一応王家の一族ということになっている。今代の陛下とは従兄弟の関係に当たる。故に私の正式名称は、オットー・フォン・バルシュミーデだ」
(もう情報量が多すぎて頭がパンクしそう……)
イザークの頭はショート寸前であったが、しかし、それであればと疑問があったので、なんとか踏ん張って話の続きを聞く。
「一応どころか、おもいっきり王族じゃないですか。でも、それならば何故王家の血族を表す"フォン"を名乗らないのですか?」
イザークのこの質問に対して、オットーはかなり真剣な様子で答え始めた。
「もちろん法的には名乗っても問題はない。というより親族なのだから名乗ってはいけない理由が無い。しかしそれはしないというのが暗黙の了解なのだよ」
「それはまたどうして?」
「王になる者が既に決まっているというのに、王の血族の名を声高に口にしていると、王権を狙っていると誤解されかねない。余計な争いを生んでしまうかもしれない。だから正式な式典の場など以外ではたとえ王族の一員であったとしても、フォンの名を口にしないというのがお決まりになっているのだよ」
イザークはなるほどと思った。そう言われれば確かに、下手にフォンの名を口にしようとは思わない。
「とまぁそんなわけで、だいぶ話が逸れたね。要はそれ程までに重要なお家の人間を守ったという功績は大きい。だから今回の報酬は破格だったんじゃ無いかと思ったんだよ」
「なるほど」
ここまで話を聞いてきて、イザークは疑問だったことについてあらかた質問出来たので、話を終わらそうと思った。しかしオットーはまだ思いつくことがあったようで、再びイザークに話しかけた。
「それとね、イザーク。多分だけど今回報酬が破格だったのにはもう一つ理由があると思う」
「え? 他にも?」
「あぁ。それはね、陛下もイザークと同じように、人に見せびらかすと危険な目に遭いかねないほどに希少な心術をお持ちだからだと思う。お前に御自分を重ねて見てらっしゃるんじゃないかな?」
「つまり、陛下は今までに危険な目に遭って来られたということですか?」
イザークのその質問にオットーは静かに首を縦に振る。その様子を見て、イザークは彼もその場面を実際に沢山見てきたんだろうと推測した。
「今までに幾度となく、拉致、暗殺、失脚を企てられている。主に陛下の御力を利用しようと考える者。陛下に恐れを感じ、排除に動いた者。その力の偉大さを脅威に感じ、陛下に権力を握らせたくないと考えた者。だいたいこんな感じだ」
その話を聞いてイザークは絶句した。そのあまりにも次元が違いすぎる経験を国王がしていたと知って、あまりの恐ろしさに言葉が出なかったのだ。
「それほどまでに陛下が恐れられ、警戒された心術とは一体どんなものなのですか?」
「そうだね、簡単に説明すると"全てを見通す目"と"聖なる光"。心術の名前は『真眼』と『聖光』と言うようだ」
オットーのそのセリフを聞いてイザークは一瞬思考が停止した。
「ど、どう言うことですか!? 心術が2つ!? そんなことがあり得るんですか?」
イザークのそんな様子を見て、普段の冷静沈着な様子はどこに行ったとばかりに仕方ないなという視線を向けるオットー。そして、混乱しているイザークにも分かりやすいように説明していく。
「君のその驚きはもっともだ。確かに普通ならばあり得ない。だけど極稀にではあるが、後天的に心術を獲得する人間がいる。数値にするならば、数万人に2、3人いれば良い方と言われている」
「そんなに少ないんですか!?」
「あぁ、だがこれはあくまで人類が体感で測ってきた数だ。統計は取っていないし、術者本人もそんな希少な能力を他人にそう易々と教えない。だから実際にはもっといると考えられている」
その話にイザークは確かにと思う。今まさに自分も心術についてなるべく人にバレないように行動しているのだ。そしてたった一つの心術でも、モノによっては命を狙われたりする可能性がある。それが心術を二つも使えるなんてことになれば、誰に何をされるかわかったものではない。
(もし僕がその術者たちなら、命の危険が迫っている時以外は絶対使わないだろうな)
そんなふうに考えているイザークであったが、オットーの話は更に続く。
「そんなわけで、世の中には心術を診断後に獲得する者もいる。そんな事情から、世間では生まれつき持っている心術を"先天性心術"、生まれた後に努力、もしくは何かしらの理由で獲得した心術を"後天性心術"と呼んでいる。そしてこれらの知識は学園に入ったとしても、高学年にしか教えられていない。だからイザークが知らなくても仕方ないことだ」
いつの間にか黙ってオットーの話を真剣に聞いていたイザーク。そんなイザークの様子に微笑ましいものを感じながらオットーは話を続ける。
「ここまでの話から想像できるとは思うが、陛下は先天性、後天性、両方をお持ちの非常に稀な心術使いだ。それ故に今までに幾度となく悪意に晒されてきた。そりゃあそうだろう、口にしていない本心や隠し事を見破ったり、優等心術と言われる光の心術を更に超えた力で敵を圧倒したりするような人物に出会ったら、それを利用しようとしたりする者も現れるだろう」
オットーはそこまで話し終えると一度言葉を切り、もう一度イザークにしっかりと向き直った。
「こう言った理由から陛下は強い力は尊敬や忠誠といった好意も引き寄せるが、それと同時に悪意も引き寄せるということを誰よりも理解しておられる。だからお前のことを気にかけてくださっているのかもしれない」
「そうですね。もしそれが本当なら、感謝してもしきれません」
イザークがそう言うと、オットーはそうだなと言うふうに頷く。そして今まで以上に力強く言葉を続ける。まるでこれから話すことが本番であるかのように。
「そんなわけだからイザーク、お前はどんな事があっても陛下を守れ! 理由はどうあれ、今回のことでお前は陛下に実績と評価と言う隠れ蓑を頂いた。そして今後も陛下はお前を助けてくださることもあるだろう。王国貴族として以前に、人として守ってもらうばかりではダメだ。受けた恩は倍にして返すんだ。良いね?」
イザークはその言葉を聞いて、自分がどれだけすごい人たちから力を貸してもらっているのかを再認識した。オットーは勿論、国王にまでここまでしてもらっているのだ。ならば今後は貴族として活躍し、恩返しする以外に自分に道は無いと確信した。
故にイザークはオットーの目をまっすぐに見返し、答えた。
「勿論です、父上。この先僕は、貴族の一員として精一杯努力して、王国に、陛下に、そしてバルシュミーデ公爵家に恩返しすることを誓います」
最後のバルシュミーデ家のことに関して、驚いたような顔をしたオットーであったが、すぐに微笑みを浮かべ、イザークの頭を優しく撫でた。
「良い子だ。期待しているぞ」
「はい!」




