王と少年 初対面 2
イザークが国王との謁見のために王宮に行くことが伝えられてから約一時間後。準備が出来たので玄関に向かうと既にオットーが待っていた。
イザークはこれ以上待たせてはいけないと思い、急ぎ足でオットーの下まで向かう。
するとオットーが微笑みながら声をかけてきた。
「随分と慌てながら支度してたようだが、そこまで急がなくても良かったんだよ?」
オットーの言う通りイザークはかなり急いで支度した。平民からすれば、支度に一時間なんて何事だ? となるかもしれない。しかし貴族はとにかく支度中にやる事が多い。髪の整え直し、男性なら軽い化粧、女性なら本格的な化粧、王宮に行くのならば、正装に着替えなければならない上に、その正装のほとんどが構造が複雑なものばかりだ。
故に1時間も支度に掛かっていたとしても、なんら不思議ではない。しかしイザークからしてみれば、いくら支度に時間がかかるのが当たり前とは言え、待たせている相手は公爵である。さらにもっと言うならば、公爵家当主がイザークを待っているのは、"国王"がイザークを待っているからである。急ぐなという方が無理な相談である。
「いえ、そういうわけにはいきません。家族とは言え、公爵家当主を待たせている上に、国王陛下もお待たせしてしまっているとあっては急がないわけにはいきません」
「ははは、確かに。それもそうだね。それじゃあ、行こうか」
「はい、父上」
王宮に向かうため、馬車を走らせること約2時間。王都は広い上、当然のことながら経済の中心なので人通りも多い。そんなわけで移動にはどうしても時間がかかってしまう。王宮になど殆ど足を運んだことがなかったイザークにとっては、王をこれだけ待たせてしまうのは不敬に当たるのではないかと気が気でない。
しかしオットーは慣れたもので、イザークの様子に微笑みながら声をかける。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。陛下は支度に時間が掛かったくらいで咎めたりするような狭量なお方ではないよ」
「そ、そうなのですか?」
「あぁ。だから気にしなくて良い。ただまぁ、分かっているとは思うが、正式な式典などで王族を待たせるのはタブーだ。そこのところは区別しておいてくれよ」
「勿論です、父上」
「よし、ではそろそろ王宮に着く。降りる準備をしておいてくれ」
そうしてさらに10分ほど馬車を進めたところでイザークたちが乗る馬車は停止した。御者が扉を開けてイザークたちに到着を告げる。
「閣下、イザーク様、到着でございます」
「うん、ありがとう」
「ありがとう」
イザークとオットーが短く礼を言って馬車を降りると、御者の男は頭を下げ、すぐに下がって行った。
「さて、それでは行こうか。陛下がお待ちだ」
「はい」
イザークがオットーに連れられ、王宮の入り口に向かって歩いていくと、執事服の男が王宮から出てきた。
「バルシュミーデ閣下、お待ちしておりました」
「うむ。時間が掛かってしまって申し訳ない」
「いえいえ滅相も御座いません。して、そちらが例の少年でしょうか?」
「あぁ、詳しい紹介は陛下にお会いして、その後ととしよう。まずは陛下の御前に案内してくれるかな?」
「かしこまりました。ではこちらはどうぞ」
そう言って執事の男はイザークたちを王宮の中へと招き入れた。そして城の中を歩くことおよそ5、6分。イザークたちはついに謁見の間に到着した。
「さぁイザーク、心の準備はいいかい?」
「はい!」
「よし!」
オットーがそのように呟くと、執事の男が静かに扉を開いた。
「バルシュミーデ公爵閣下とイザーク様がご到着なさいました!」
執事の男はそう口上を述べるとささっと部屋の外に出ていった。
(執事の人は外に出るんだな。あぁ、だからさっき後で僕のことを紹介するって言ってたのか)
そのように思ったイザークだが、今は関係のないことだと気持ちを切り替え、謁見に集中する。ここからは作法に則って動いていかなければならない。
(確か、初めは陛下の近くまで歩いて行く。その時は顔を伏せた状態にするんだよね。そして一度跪き、陛下からお声がかかるまで一言も喋ってはならない、だったよね。その後も直答する許可が出たりしない限りは、話しかけられたり、聞かれたりしたことに対してしか言葉を発してはならないんだよね)
結構厳格なんだな、というのがイザークの率直な気持ちである。オットー曰く、国王はそんなに作法を気にしない性格らしい。しかし、体裁を整えるために仕方なくやっているんだとか。
(本当は結構自由な性格の国王様なのかな?)
そんなことを考えていたイザークは自分達にかけられた言葉にハッとし、再び深く頭を下げる。
「よく来てくれたバルシュミーデ卿。卿も忙しいだろうに急な呼び立てをしてしまったな。許せ」
謝っている者の態度ではない。しかし一国の王というのは簡単に頭を下げていい存在ではない。それでも軽く謝罪を入れているのは、それだけバルシュミーデ公爵という男を重宝しているということの表れであり、公の場で王が見せられる最大限の誠意なのである。と言っても、この場には当人である国王とイザークたち以外は数名の貴族がいるのみである。
しかし公の場であることには変わりない。故にこういう慎重なやり取りも必要になってくる。
「いえ、陛下こそ日々の業務でお忙しい身。このように謁見の場を設けていただいたことに感謝こそすれ、悪く思うことなどありませぬ。どうかそのようなことは仰らずに、いつでもお呼びくださいませ」
「そうか、其方がそう言ってくれるのならば、次からは言葉に甘えるとしよう」
「はは!」
イザークから見て、これはいつも通りのやりとりなのだろうと思った。そして話の本番はここからなのだろうとも。
「して、バルシュミーデ卿よ。其方が新たに家族として迎え入れた少年とはその子ということで良いのかな?」
「はい陛下。仰る通りでございます。自己紹介をさせていただいても宜しいでしょうか?」
「うむ、その者の発言を許可する」
(どうやら僕も話していいようだね。でも緊張するなぁ……)
「感謝致します。さぁ、イザーク。直答の許可が出た。自己紹介しなさい」
「はい、父上。お初にお目にかかります、陛下。この度、バルシュミーデ家に引き取っていただけることとなりました、イザークと申します。よろしくお願い致します」
「ほう、物怖じもせず随分はっきりと挨拶が出来るのだな。その年で大したものだ。おっと、申し遅れたな。余は第15代ベネディクト王国国王、エーリッヒ・フォン・ベネディクトである。以後宜しく頼むぞ。それにしてもそうか、其方が……うん? 其方、どこかで見たことがある気がするぞ」
イザークはその言葉に驚きを隠せなかった。それもそのはず、小さい頃に何度か社交会に出席していたが、王族が参列するような会には殆ど顔を出していない。心術の診断が下された日以降に関しては、一切外に顔を出していない。理由は単純。イザークの"元"父親が猛烈に嫌がったからだ。
(自分の実の息子が竜操師だったなんて知られたくなかったんだろうな……それにしてもそんな細かいところまで覚えていらっしゃるんだな、陛下は)
ふとそんなことを考えたイザークであったが、今重要なのは王の言葉に答えることであると、意識をそちらに向け直す。
「社交会には出席させていただいた経験がございます。おそらくその時にお会いしている可能性があります。しかし申し訳ありません。そういった会に出席した記憶はあるのですが、幼かったので誰とお話ししたかまでは流石に……」
「ははは! で、あろうな! 余も見かけたことがあるような、といった程度だ。まぁ、今回が初対面と言って良いだろう。これから大変なこともあるだろうが、公爵家子息として、日々精進せよ」
「ありがたきお言葉、感謝致します!」
「うむ」
その後もオットーとイザークが交互に話すような要領で謁見が進み、最後に今回の謁見の理由となった。イザークの功績について話が出た。
内容としては金銭の支払いで小金棒25本と大銀棒45本。更に大銅一位勲章の授与。というふうに決まった。
これにはオットーだけでなく、この場に居合わせた貴族たちも目を見開いている。イザークとしてはまだ勲章授与を受けたことなどなかったので、その価値が具体的にどういったものかまでは分からない。
しかし大人たちの驚きようからして、普通ならば子供に与えるような勲章ではないのだろうことはイザークにも予想できた。金銭に関しては、凄すぎて思考が一時停止しているというのが正しい。
イザークも生まれながらの貴族ではあったので、金銭価値は分かる。しかしあくまでイザークの元実家は子爵家。今回話に出てきたような額はあくまで子爵領の財政に回すことがあるくらいで、私生活においてこんな金額を目にするなんてことは絶対になかったのだ。
頭がだんだん混乱してきたイザークを置き去りにして、話はどんどんと進んでいく。
「以上をもって、謁見を終了とする!」
国王の隣に立っていた大貴族らしき人物がそう宣言し、いつの間にかイザークたちの謁見は終了していた。
「大丈夫かい? かなり疲れているように見えるけど……」
帰りの馬車の中で、オットーがイザークにそう声をかける。いくら謁見は必要なことであったとはいえ、自分の息子がクタクタになっているのを見るのは、やはり心配になるのだろう。
「はい、大丈夫です。少し驚きすぎただけですから」
「ははは、無理もない。今回の謁見、いくら褒美をイザークに与える為のものであったとは言っても、まさかあそこまでとは私も思わなかったよ」
「ですよね……」
「ははは。相当参ってるな。とにかく、家に帰ったらひとまず、今回陛下から頂戴したお金について保管場所を決めないとね。イザークはまだ子供だから金融機関で口座を作るのは無理だからね」
その言葉にイザークは驚いた。まさか自分が管理するとは思ってもいなかったのである。
「ははは。何を驚いているのさ。このお金は君が手にしたものだ。君が保管するのは当たり前だろう?」
「え、いや、でも、僕まだ子供だし……」
「確かにね。平民の家ならばそれが普通だろう。まだ何も分からない子供たちの方が大半だからね。親が管理するのは当然だ。しかしイザーク、お前は貴族だ。金銭の管理も学びの一つだよ」
そう言われると何も言えないイザークであった。理解できなくはないからだ。貴族は大きなお金を扱って仕事をすることが多い。故にある程度金銭に強くあらなければならないのだ。
「分かりました。頑張ってみます」
「うん。どうしても困ったら手伝ってあげるから、思い切って自分のお金の管理、やってみなさい」
「はい、父上」
イザークは力強く返事をした。それにオットーも優しく頷いて答える。
その後、行きよりも時間をかけて馬車を走らせ、家に着いたオットーとイザーク。オットーはその後書類仕事に戻ったが、イザークはあまりの疲労でそのまま眠りについてしまったのであった。
お久しぶりです! 長らく更新出来ずすみません。
今回後書を書かせてもらったのは、この世界の金銭と勲章についてです。以下にまとめました。下に下がっていくにつれて、価値が上がっていきます。
勲章
凖十字勲章
正十字勲章
大十字勲章
準銅三位勲章
準銅二位勲章
準銅一位勲章
正銅三位勲章
正銅二位勲章
正銅一位勲章
という要領で価値が上がっていき、後は同じような上がり方で以下のような種類があります。
大銅三位、二位、一位。
準銀三位、二位、一位。
正銀三位、二位、一位。
大銀三位、二位、一位。
準金三位、二位、一位。
正金三位、二位、一位。
大金三位、二位、一位。
そして最後が少し変わりまして、
聖金二位、一位、特位、となります。
これらの基準から考えてオットーは、普通ならばあのような勲章はもらえない、と判断したようです。いくらなんでも、いきなり位が飛びすぎですからね笑
そして金銭についてですが、こんな感じです。因みにこの世界の金銭は棒形です。
鋼鉄棒=日本円で約1円
純鉄棒=約十円
小銅棒=約五十円
中銅棒=約百円
大銅棒=約五百円
小銀棒=約千円
中銀棒=約五千円
大銀棒=約一万円
小金棒=約十万円
中金棒=約五十万円
大金棒=約百万円
白金棒=約五百万円
王金棒=約一千万円
帝金棒=約一億円
こんな感じです。そして大方想像ついてます! という方もいらっしゃるかもしれませんが、上位の棒貨は一般市場ではほぼ出回りません。換金できる棒貨がありませんので笑
イザークがもらった小金棒から2、3個上位の棒貨までならギリギリ貴族界の市場では出回っている設定です。
とまぁ、こんな感じでございます。今後もパッと見では分かりにくそうな設定は解説を付け足させていただきます。




