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王と少年 初対面


 イザークはユリアンと共に心術を実際に使ってみるため、訓練場に向かった。


「うわぁ、凄い! 広いですね!」

「えぇ、そうでしょう? 公爵様のお屋敷なので当然、敷地も広くなります。しかも屋敷の中の訓練場なので、存分に心術の特訓をしていただいて構いません」

「では気を配って訓練する必要も……」

「ないという事になります」


(おぉ、これなら思う存分心術を鍛えられるぞ!)



 イザークがそんなことを考えながらワクワクしていると、ユリアンも会話に加わって来た。


「それじゃあ、僕もいつも通り遠慮なくやって良いよね?」

「ん? どう言うこと?」


 イザークはユリアンの言葉が気になったので、聞いてみた。すると、イザベラがその質問に答えた。そしてその返答に驚くこととなる。


「そうでした。イザーク様はまだご存知ではなかったのでしたね。実はユリアン様もあまり人に見せびらかして良い心術ではないのです」

「そうなんですか?」

「はい。ユリアン様は光の心術の持ち主。王国でも歴史上、両手の指で数えられる程度しか誕生していないほど貴重な力を持って生まれたお方です!」


 とにかく、ユリアンのことが誇らしくて仕方がないのか、興奮気味でイザークに解説するイザベラ。そしてその心術の保有者であるユリアン本人はあまりの褒めちぎりぶりに、顔を真っ赤にして照れている。


(可愛い)


 素直にそう思ってしまったイザークであった。弟よりも可愛い兄。あまり見られないであろう家族構成を、イザークは理解するのに苦労するのであった。


「ちょ、ちょっとやめてよイザベラ!」

「何をおっしゃいますか、ユリアン様! 貴方様の凄さはイザーク様にもご理解いただくべきです!」


 ちょっと面白いのでイザークも悪ノリしてみることにした。


「そうだよ、兄様! 光の心術なんて凄いよ! カッコいい!」


 普段、このようにテンション上げ上げで弾んだように話すことがないイザークに強烈な違和感を覚えたのか、ユリアンはまるで見知らぬ人間を家で発見してしまったかのような反応をする。

 


「う、うん……ありがとう」


 明らかに困惑を示すその様子に、少しやり過ぎてしまったと反省するイザークであった……。


(特に兄様なんて呼び方、普段はしないからな……)



 しかし、2人のそんな気まずい状況を全く気にも留めずに話を進めるイザベラ。


「さて、お喋りはこの辺りに致しましょう。そろそろ訓練を再開せねば、時間が無くなってしまいます」

「そうですね」


 イザークたちはお遊び気分はそこまでにして、ここからはしっかりと心術の訓練へと気持ちを切り替える。


「ではお二人ともまずは基本的な心術を使ってみましょう。ユリアン様は光の攻撃を的に向かって撃つ。イザーク様は一先ず竜を召喚していただきます。そうですね、初めは下位竜から行きましょう」

「はい」


 イザークは指示通りに心力を解放しながら、下位竜を呼び出す。


「流石ですね。あっさりと召喚されましたね」

「え? 凄いんですか? 今のが」

「イザーク様、くれぐれも他の同世代の子供の前で、特に召喚系や契約系の心術使いの前ではそういう発言はお控えくださいね」

「は、はぁ……」

「あまりピンとこられてないようですので、軽くご説明いたしますと、召喚系や契約系は召喚するだけで苦労する心術。つまり、基礎の時点でかなり他の心術と比べると不利な力なのです。理由は貴方様もなんとなくお察しだと思いますが、とにかく心力を喰うのです。故に貴方様ぐらいのご年齢の心術使いの方々は出だしから大変な方が多いのです」

「なるほど〜。つまり使い始めで簡単に使いこなせるわけではない、と」

「仰る通りです」


 イザークはイザベラからの説明を、大事な情報なのでしっかり頭に叩き込んでおこうとしていると、ふと視線を感じた。感じた方へ逆にこちらから視線を向けると、そこにはキラキラした目でイザークと竜を交互に見つめるユリアンの姿があった。


「あはは……ユリアン、えっと、その、やらなくていいの? 訓練」


 イザークのその苦笑いとセリフに、ハッと我に帰るユリアン。


「そ、そうだった! 訓練しなきゃ! それにしてもイザークの心術は凄いね!」

「凄い? なんで?」


 イザークは訳が分からず、思わず聞き返した。イザークからすれば、今まで自分の竜操師の力を褒められたことなどないので、どう反応すればいいのか分からないのだ。

 勿論、オットーには褒められたが、それはあくまでイザークの本当の力が真龍召喚の心術であるということがわかったから。普通の竜操師であれば、あそこまでの反応と現在のような待遇はなかっただろう。


 イザークはそのように考えている。しかしそんなイザークの内心など知る由もないユリアンは遠慮なくイザークの心術について熱弁し続ける。


「なんで? って凄いからに決まってるじゃないか! 下位竜でも、あっさりとイザークの意思に応えて、召喚されてきたんでしょ? しかもこれを"真龍"? っていう物凄い竜でもやってしまうんでしょ? これを凄いと言わなくて、なんて言うのさ!」


(言われてみれば、確かに……)


 

 イザークはユリアンからの指摘を受けて、そしてイザベラの解説も聞いて、そのように思った。

 よくよく考えてみれば、分かることなのである。竜操師とは確かに心力を消費しすぎるという、コストパフォーマンスの悪さが目立つ。だがいくら一般的な竜操師が下位竜しか召喚できなかったとしても、彼らが決して弱すぎると言うわけではないのである。


 何故なら獣操師やその他召喚系の心術使いが呼び出す獣や魔獣達が竜を一撃の元に下せるかというと、そうではないからだ。むしろ純粋な力だけで言えば、竜の方が上なのである。そんな存在を軽く呼び出して、その上で心力にもまだ余裕があり、平然としている。


 イザークが誉められるには十分すぎることであった。



「そっか、そうだね。ありがとう」

「ふふん」


 ユリアンが可愛らしく鼻を鳴らしているその様子を見て、イザークも気分が良くなってきた。イザークにとっては、自分の心術は貶される力であっても、それが褒められる対象となることはなかった。

 しかし今は違う……


(ユリアン……ありがとう)


 イザークはそう思うと同時に気になっていたことがあったので、一旦自分の話を終わらせる。


「ところでユリアン、君の心術も見てみたいんだけど」

「おっと、そうだったね」


 その言葉と共にユリアンは心術を使う態勢を整える。そしてイザークの隣にイザベラも並び、ユリアンを見守る準備は整った。


「それじゃあ、行くよ!」


 ユリアンがそう宣言すると共に、手のひらからイザーク達の目を射抜かんと言わんばかりの強烈な閃光が襲った。なんとか目を細めることでかろうじて前が見えていたイザークが目にしたのは、ユリアンの前方にあった的が木っ端微塵に跡形もなく消えている光景であった。


「す、凄い……これが光の心術……」


 イザークはそれしか言葉を発することができなかった。あまりの凄さにただただ呆然とするばかりであった。

 しかしそのあとはイザーク、ユリアン両名ともに心術の使用訓練に励み、とても有意義な時間を過ごした。






 ーーーー翌日



「え? 国王陛下と謁見、ですか? 僕が?」

「あぁ、そうだ。私を刺客から守り切ったという功績が認められてね。遅くはなってしまったが、陛下のお耳にその情報が入り、ぜひ君に会いたいとおっしゃってくださった」

「そ、そうなんですか……」


 イザークはあまりの衝撃的な展開に思考が追いつかなくなっていた。まさか自分が王と対面することになるなど、思ってもみなかったからだ。


「とにかく、今日の昼頃には王宮に向かわねばならない。しっかりと準備をしておいてくれよ」

「分かりました、父上」


 


 そうして急な謁見が決まったイザークは急ぎ準備をして、馬車に乗り込み、王宮へと向かうのであった。緊張と不安、そして些かばかりの好奇心をその胸に抱きながら。

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