イザーク・アーレンス
新しく投稿してみました。宜しくお願いします。
とある王国にて、、、
そこでは"心術"と呼ばれるチカラを操り、文明を形成している人々がいた。
これは何もこの国に限った話ではなく、この世界では心術によって人類の秩序が保たれているのであった。
そしてその心術にはいろんな種類のものがある。自然の象徴たる、炎・水・雷・大地・風・氷や他にも光や闇など、一般的には1番攻撃に向いていると言われるものから、異常なまでの記憶力・常人を超える演算能力や素材を自由自在に加工できるという統治者や土地建設に携わる者が欲しがりそうな能力まで様々なものがある。
だがそんな世界にも下等だとされるチカラはあり、それが……
とある教会にて、
「こ、これはッ!」
「ん? なんだ? どうしたのだ? 当然我が息子には超人的に優れた心術が授けられているのであろう?」
「そ、それが……」
「なんだ、どうしたというのだ。言葉にするのも躊躇われる程のものなのか?」
「え? ああ、そう、ですね。ある意味仰る通りです。落ち着いて聞いて下され、子爵殿」
「う、うむ。はよ申せ」
「では、お伝えいたします。ご子息の心術は竜操師でございます」
「なッ!?」
男は絶句した。まさか自分の息子が竜操師だなんて……
もちろんこれは嬉しさのあまりの絶句では断じてない。むしろ逆である。
そしてこの日この瞬間、この男の興味や期待は自分の実の息子から消え去ったと言っていい。
そう、この世界には心術の質による差別がある。優れた心術、劣った心術、種類は千差万別。
その中でも竜操師は特にハズレ心術と言われている。
それは何故か、理由は単純。大した強い竜を従えることができないからである。
原因は"心力"と呼ばれる心術を扱う力の許容量と言われている。竜は一体呼び出すだけで膨大な量の心力を消費するのだ。
呼び出せるのはせいぜい下級の竜だ。だがこの種の竜はブレスなどを使えない。
言ってしまえばただ力が強いだけの空飛ぶ獣ということだ。
それこそ獣操師と言われる獣や魔獣を従える存在の方が優秀なくらい。
そんなわけで、本来なら格下のはずの魔獣たちにも追い越し追い越されする程度の存在しか呼び出せないのだから、期待されなくなっても仕方なき事なのだ。
故に、その男は実子に対してとあることを言おうとした。だがその前に発言した人物がいた。
「あはははッ! だっさッ! なんかお前、昔から何でも出来てたからすごいのかと思っていたけど、心術が竜操師って、なんだよそれ! プッ! あははは!」
「本当にびっくりだね。自分の実の弟がこんな劣等心術だなんて、友人たちに知られたら一気に僕の心象が悪くなりそうだ」
次男のヴァルターと長男のエリックだ。
このように兄二人からも散々な言われよう。それほどまでに竜操師とは世間から必要のない心術とされている。そして遂に子爵と呼ばれた男が言葉を発する。
「私は貴様に期待していたのだがな……どうやら間違いだったようだ。只今をもって貴様の継承権を剥奪する。ただ、まだ7歳ということだから放逐もできない。故に一般的に職に就いてもいいとされる10歳までは面倒を見てやる。だが、それ以降は自分の力で生きろ。なに、多少の金は渡してやる。私も子供がいきなり一人で生きていけると思うほど無慈悲ではない。わかったな?」
「はい、父上……」
こうして彼、イザーク・アーレンスは貴族としての権利のすべてを剥奪された。10歳以降はアーレンスと名乗るのも許されない。
彼の父である、ブルーノ・アーレンスとも、これからは会話の数が減っていくことだろう。
何せ貴族は継承権が全てだ。そのために醜いお家騒動を引き起こすような貴族家まであるぐらいなのだから。
そんな、幼い一人の少年には重すぎるであろう処遇、のはずだったが、
なぜかその少年の顔からはむしろ窮屈なものから解放されたとでも言うような、そのような晴れ晴れとした表情が浮かんでいた。
ちなみに父ブルーノが何故これほどまでにアーレンス家三男のイザークに期待していたか、そこにはちゃんとした理由がある。それは兄2人が心術とそれを用いた戦闘は強いが、いかんせん勉学に不安があった。勉強を補助してくれそうな心術でもないので余計に。
だが、三男イザークはとても聡明な上に、
心力が幼い年齢の時点で既に自分を上回っていたから……
心術は教会に行って診断してもらわないと分からないが、心力に関しては家でも計測できる器具がある。そこで測ってみると、とてつもない量だったのだ。
期待してしまうのも仕方ない。何にしても、ブルーノ子爵は心術がイマイチであったという理由から、将来大物になるかもしれない未来の種を育てて発芽させることを断念した。これが後にどういった結末を生むのかは今はまだ誰にもわからない。
まさに神のみぞ知る、と言うやつだ。
元々三男でお家継承権は無いに等しい存在だったイザークだったが、その可能性を完全に断たれた診断の日から早3日が経った。
この日は少し雨が降っていたのだが、イザークはとある実験のために家から少し離れた位置にある空き地に来ていた。
ここはアーレンス子爵領の中でもかなり閑散とした地域で、滅多に人も近寄らない。
というより近寄るわけがないのだ。何故ならイザークはその閑散とした土地で、さらに林の奥に入っていったのだから。
今回ここに来たのは心術の使用実験のためだ。そして心術というのは基本的にひけらかすものではないので、人が少ない場所でやる必要がある。
なら家でやればいいだろ? という話だが、それは無理というものである。何故なら出来損ないであるとされるイザークに、父であるブルーノが家の訓練施設を使わせるわけがないからだ。
そんなわけでイザークは自分の足で30分以上も歩き、この林まで来たというわけだ。
「僕の心術はいわゆる劣等心術って呼ばれるものなんだよね。でも実際どれぐらいなのか確認しておかないと、できる事もできないと思い込んでしまうかもしれないし」
意外と周りが誇張表現しているだけで、ちゃんと使い道のある能力かもしれない。
いや、それはイザークがそう思いたいだけであろう。
兎にも角にも、始めて見ないとなにも分からない。そんなわけでイザークは早速、意識を心力の制御に回す。
そして少しずつ心力を解放していき、竜操師の力を展開していく。
そこでふと浮かんだ思い……それは、
思い出してみれば、イザークは生まれてから一度も人に心を開いたことがない。それは彼を取り巻く環境的に仕方がないと言える。母親は3人目であるイザークを産んで直ぐに亡くなってしまった。
そして父ブルーノはそんな母に対し、貴族の妻としての義務を立派に果たしたなどと言って、悲しむ素振り一つ見せなかった。
子供もお家を存続、又は発展させるための駒のようにしか考えていなさそうな感じが見受けられた。なので、ブルーノからは常に家族的な温かみを感じたことはなかった。
故に、イザークは父親にあまりいい感情は抱いていない。
何故かブルーノはイザークに勝手に期待していたみたいだが、ぶっちゃけ父親からの期待とか心底どうでも良い、というのがイザークの本音である。
なので正直なところ、今回の件はイザークにとって好都合だったのだ。
これらの複雑なお家事情からなのか、イザークは少し閉鎖的な性格をしていた。
友達も貴族の集まりで何人か知り合った人物がいるが、あまり親密にはしていないし、最近はほとんど会っていない。
そういうわけでイザークはずっと1人だった。頼みの綱の兄弟たちだってあんな感じなのだ。もはや彼の周りに頼れる人はいない。だからだろうか……?
こんなにも、
(信頼できるパートナーが欲しい)
と思ってしまうのは……
そんなことを考えていた次の瞬間。
いきなり眩い光が目を突き刺し、イザークは目を瞑る。
そして光が収まり目を開けた次の瞬間、視界に飛び込んできたのは息をするのも忘れてしまうような光景だった。
「こ、これが……竜?」
イザークは思わずそう呟いてしまった。分かってはいるのだ。自分は竜操師なのだから呼び出したのは竜なのであろうと。しかし話に聞いていた下級竜と今目の前にいる、深々とした透き通るような緑色の鱗と、雄々しき翼と角と爪、相手を圧倒するような威圧感を持つ存在は別物のように思えた。
どれもこれも下級の竜に出せるもののように感じなかった。いや、下級の竜にすら会ったことがないのだから分かるわけが無いのだが、それでも今目の前にいるのは物凄い存在のように感じる。
「ム? ああ、お主か。我を呼び出したのは」
「え、えっとはい。呼び出したのは僕ですけど……」
「であろうな、ははは! なかなかの心力である。我を呼び出せるわけだ。この森を住処として実に、"数百年ぶり"に呼び出されたわ。面白い! 我は翠緑"龍"だ。今はどうか知らんが、昔の人間にはそう呼ばれていた。よろしく頼むぞ、召喚主よ」
「は、はい! イザークです、よろしくお願いします」
なんだかかなり褒められたようだがイザーク本人はよく分かっていない。散々貶されてきた後なので、実感が湧かないのだろう。
だが取り敢えず竜を呼び出すことには成功したイザーク。
とにかく心術をしっかりと扱うことができ、それに加えてなかなかに強そうな竜を召喚できたことに満足するのであった。