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Goodbye,Sunnydays.  作者: 文海マヤ
3章 「ClyinG」
9/25

3-1 「ばーすでい?」


 ――雨に歌えば、って?――



『今日はたった、百年前の七月二十四日、雨模様。

 生まれ落ちた日を想うなら 私は今日も続くのでしょう』




「そういえば、サニィってそろそろ誕生日じゃなかったっけ?」


 レインがそんな風に語りかけてきたのは、七月二十四日の朝のことでした。


 クラウドが外部調査に出なければならないため、今日はいつもよりも一時間ほど早い時間に朝食を摂ることになりました。そのため、私の瞼もまだ、少しだけ重く感じています。


「あれ、そうでしたっけ?」


「そう、そうだよ。確か明後日がサニィの誕生日……。だったような?」


 私とレインは、揃って首を傾げました。

 地下暮らしも長くなると、そういった行事にも疎くなってしまいます。


 今日と明日の違いは計器の数字でしかなくて、きっと、コンピューターと喧嘩でもしてしまえば、途端に私は今日が何日なのかもわからなくなってしまうでしょう。


 おめでたい日なんかはできるだけ行事を開くようにはしていますが、忘れてしまうことも多いです。私たちにとって、イベントとはそのくらいの認識のものなのです。


 なので、誕生日と言われても、今一つピンとこなかったのです。


「えーっと……ああ、ほら、やっぱりそうだ」


 レインは卓上のカレンダーを私の方に近づけてきました。明後日の日付、そこには赤いシールのようなものが、ぽつりと貼ってあります。


「ホントだ、明後日だったんですね。私も忘れていました」


「しょうがないよ、それなら、明後日はクラウドにも外部調査はお休みにしてもらおうか。みんなで、お祝いしよう」


 それは、とても嬉しいです。


 お祝いということは、レインも腕によりをかけてご馳走を作ってくれるでしょう。

 もしかすると、『クリスマス』に作ってくれた『ショートケーキ』が食べられるかもしれません。


 私はぶんぶんと、そのまま転がっていってしまってもおかしくないくらいに(うなず)きながら、頭は食べてもないお菓子の甘さでいっぱいになっていました。


 代わりに、千切ったトーストを口に放り込みます。

 いつもの味と変わらないはずなのに、今日は何だか、鼻から芳ばしい香りが抜けていくようにも錯覚してしまいます。


「よしよし、そうしたら、そっちは準備をするとして……当日は、何をしようか」


「当日、ですか?」私は、ぽかんとしてしまいました。


「うん、パーティは夜やるにしてもさ、どうせなら昼間は何か、催しをやりたいと思わない? 例えば、オセロ会とかさ!」


 なるほど、確かに彼女の言う通りです。

 せっかくクラウドにもお休みしてもらうのですから、みんなで何かやらなければ、勿体ないです。

 それは、そうなのですが……。


「……オセロ大会だと、クラウドが全勝して、おしまいじゃないですかね?」


「……それもそうだね」レインは少しだけ、バツの悪そうな顔をしました。


 オセロもそうですが、クラウドは私たちの中で一番、そういうゲームに強いです。

 強すぎるくらいに強いのです。


 だから、私たち二人は、基本的に彼とゲームをするときには、何も賭けないようにしています。うっかり、来週の掃除当番なんかをかけてしまうと、勢い余って再来週の分まで替わることになりかねないからです。


「うーん、クラウドも、流石に手加減してくれるんじゃないかな。そんなに、サニィの誕生日会を壊すほど連勝したりはしないと思うよ?」


「それじゃ、だめなんですよ! 手加減してもらっても、嬉しくないですもん!」


 口にしながら、自分でも子供っぽいなと思ってしまいました。

 でも、本当のことです。手を抜かれてしまっては、本当に勝ったことになりません、モヤモヤするばかりなのですから。


 と、そんなことを話していると、食堂の入口の扉が開く音が聞こえました。


 見れば、眠たげに伸びを打ちながら、クラウドが部屋に入ってくるところでした。

 彼は欠伸を引き連れながら、ゆっくりとテーブルの方に近づいてきます。


「……おはよう、ふたりとも。朝から随分と騒がしいんだな」


「クラウド、おはようございます! 今、明後日何をしようか、というのを話し合っていたところなんですよ!」


 明後日? と、一瞬首を傾げた彼でしたが、すぐに眉を上げました。


「ああ、そういえばサニィ、誕生日だったな。何をするって、いつも通りにみんなで遊ぶだけじゃ駄目なのか?」


「……駄目ってわけじゃ、ないですけど」


 みんなと遊べば、楽しいことはわかっているのです。


 それでも、折角、誕生日パーティを開くのですから、何かもっと、特別なことをしたいなと思ってしまう自分もいるのです。


 けれど、その明確な答えを持っていなかったので、私は黙るしかありませんでした。


 そんな私を、クラウドは静かに見下ろしていました。彼はいつも言葉が足りないので、何を考えているかがわかりません。


 たっぷり、二十秒ほど間を開けて、最初に口を開いたのは、クラウドでした。


「まあ、なんだ……。お前のやりたいことをすればいいんじゃないか? 遊びでも何でも、俺たちは付き合うぞ」


「私のやりたいこと……。ですか?」


「ああ、やりたいことだ。準備の期間もそれなりにあるしな、決まったら教えてくれれば、協力はするぞ」


 やりたいこと……。と、私は繰り返します。

 困ってしまいました。今日明日で準備を終えなければいけないのですから、そんなに大掛かりなことはできません。


 それに、急に言われても、そんなに簡単にいいアイデアは浮かばないものなのです。

 折角、みんな揃うのですから、みんなで楽しめるものがいいに決まってます。


 しかし……。そんなもの、あるのでしょうか?


「まあ、思いついたらでいいさ。そんなに大掛かりじゃなくったって、大事なのはお祝いの気持ちだろうからな」


「そうそう、何なら私が、資料室から面白そうな映画とか探してきてもいいしさ」


 二人の気遣うような言葉を聞きながら、私はじっと考えていました。


 私のやりたいこと。

 それは一体、何なのでしょうか?



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