2-3 「ウミガメのスープ」
***
『……ふむ、なるほど。それは確かに気になるね』
私の話を聞いたレーゲンは、言葉とは裏腹に淡白そうな、それこそなんの興味も無さそうな声で、そうとだけ漏らしました。
「心が籠もってないですよ。本当にそう思ってるんですか、レーゲン」
少しだけ、吐き出す言葉は傾いた機嫌によって曇ってしまいました。
設備修理を終えた、あの日の晩。
いつも通り、レーゲンから通信が入りました。
彼が今日、用意してくれたゲームは『ウミガメのスープ』でした。
スイヘイシコウゲーム、というものらしく、『はい』か『いいえ』だけで答えられる質問を重ねて、隠された真実を暴くというものでした。
私が今日の出来事を漏らしてしまったのは、二問ほどが終わり、ほんの少しだけ緩んだ世間話の中でのことでした。
『ははは、手厳しいな……本心からそう思っているさ。私はね』
レーゲンの笑う声が、困ったような震え方をしました。きっと、画面の向こうでは眉をハの字に寄せているのでしょう。
そのまま、まるでドライフルーツのような声色で、彼は続けます。
『大人には隠し事が多いものさ。自分のこと、他人のこと、仕事のこと、世界のこと。軽々に口に出せないように、私たちが背負うものはどんどん重くなっていく』
「……私だって、大人ですよ」ほんの少しだけ、胸の奥がムカムカした。
『おや、そうかい。なら、わかるんじゃないかな。誰もが言葉を口に出せない瞬間はあるものだ。誤魔化しは、あらゆる人間に許された美徳だからね』
「誤魔化さずに、私はちゃんと話してほしいんですよ。正直に話さないと、伝わらないものもあるじゃないですか」
『……そうだね、それなら、こんなのはどうかな?』
彼がそう言うと一心拍の間が空いて、目の前に打ち込まれたテキストが表示されました。
「"ある日、隠されていた手紙を見つけた男は、誰にもその内容を明かしませんでした。それは何故でしょう?"って、これ……」
『ああ、そうさ。次の問題だよ、サニィ。あくまでも彼の心情は推し量ることしかできないから、正解とは程遠いかもしれないけれど、しかし、理解を深めることはできるだろうからね』
なるほど、と私は納得しました。
彼の言うとおり、クラウドの考えていることは本人にしかわかりません。
でも、『こうだったのではないか?』を考え続けることは、決して無駄にはならないでしょう。
私は少しだけ、考えました。何を問えば、この鍵穴にピッタリと収まるのでしょう。
考えて、考えて――そして、一つの質問を用意しました。
「……彼は、周りの人たちのことを大切に思っていますか?」
『少なくとも彼は、他人を露骨に嫌えるような人間じゃないだろう。イエスだ』
なるほど、と頷くよりも早く、私は次の矢を番えます。
「それじゃあ、隠したのは悪意があったとか、誰かを傷つけるためだったとか、そういう事実はなかったんですか?」
『イエスだろうね、彼がそういうことをできない性分なのは、君もよく知っているだろう』
そう、そうなのです。
クラウドが、私たちが傷つくような誤魔化しをするはずがないのです。
そんなことは、私にもわかっています。だから。
「……彼は私たちと、ずっと一緒にいたいと思ってくれていますか?」
『……これもまた、本人に聞かなければ定かではないが』レーゲンは、満足そうな声で。『イエス、だろうね。だからこそ、彼は誤魔化さなければならなかった。その事実を、君に伝えるのを躊躇ったんだ』
それだけ聞ければ、十分でした。
「わかりましたよ、レーゲン。もう大丈夫です」
『お、早いね。それじゃあ、答え合わせを――』
と、続けようとする彼に、私は首を振りました。
「いえ、要りません。私はその答えを聞きたくないです」
『ほう、それはまた、どうして?』
理由。
それはとても、漠然としたものでした。
私の頭の中にある言葉では、この気持ちを言い表すのには足りないです。
それに。
「……クラウドは、私たちに意地悪したくて、誤魔化したりしたわけじゃないんですよね?」
『そうだろうね、本人にしか、本当のことはわからないが、きっと彼は、君たちを傷つけたくなかったのだろう』
「だったら、やっぱりいいですよ。いつか、クラウドが私たちに話してもいいって思ってくれたら、その時には話してもらいたいと思います」
無理矢理に聞くのは、よくないですしね。
私たちには時間はたくさんあるのです。本当に大切なことなら、いつか、彼の方から話してくれるでしょう。
『そうか、なら、ここまでにしておこう。それなら、ゲームは引き分け、ってことになるかな?』
「ええ、ええ! そうですね、今日は引き分けってことで、勘弁して――」
『――ここまでの二問は正解できてないから、これでサニィの二敗一分け、ってことでいいかな?』
うぐぅ、と。
思わず、喉の奥から変な声が漏れてしまいました。上手く誤魔化せるんじゃないかと思ったんですが、そうはいかないようでした。
「ま、まだまだこれからですよ、ほら、次の問題! 早く出してください――!」
こうして、夜は更けていくのです。
いつも通りに。或いはいつもより少しだけ、騒がしく。