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Goodbye,Sunnydays.  作者: 文海マヤ
2章 「MakinG」
8/25

2-3 「ウミガメのスープ」

 ***



『……ふむ、なるほど。それは確かに気になるね』


 私の話を聞いたレーゲンは、言葉とは裏腹に淡白そうな、それこそなんの興味も無さそうな声で、そうとだけ漏らしました。


「心が籠もってないですよ。本当にそう思ってるんですか、レーゲン」


 少しだけ、吐き出す言葉は傾いた機嫌によって曇ってしまいました。


 設備修理を終えた、あの日の晩。

 いつも通り、レーゲンから通信が入りました。


 彼が今日、用意してくれたゲームは『ウミガメのスープ』でした。

 スイヘイシコウゲーム、というものらしく、『はい』か『いいえ』だけで答えられる質問を重ねて、隠された真実を暴くというものでした。


 私が今日の出来事を漏らしてしまったのは、二問ほどが終わり、ほんの少しだけ緩んだ世間話の中でのことでした。


『ははは、手厳しいな……本心からそう思っているさ。私はね』


 レーゲンの笑う声が、困ったような震え方をしました。きっと、画面の向こうでは眉をハの字に寄せているのでしょう。


 そのまま、まるでドライフルーツのような声色で、彼は続けます。


『大人には隠し事が多いものさ。自分のこと、他人のこと、仕事のこと、世界のこと。軽々に口に出せないように、私たちが背負うものはどんどん重くなっていく』


「……私だって、大人ですよ」ほんの少しだけ、胸の奥がムカムカした。


『おや、そうかい。なら、わかるんじゃないかな。誰もが言葉を口に出せない瞬間はあるものだ。誤魔化しは、あらゆる人間に許された美徳だからね』


「誤魔化さずに、私はちゃんと話してほしいんですよ。正直に話さないと、伝わらないものもあるじゃないですか」


『……そうだね、それなら、こんなのはどうかな?』


 彼がそう言うと一心拍の間が空いて、目の前に打ち込まれたテキストが表示されました。


「"ある日、隠されていた手紙を見つけた男は、誰にもその内容を明かしませんでした。それは何故でしょう?"って、これ……」


『ああ、そうさ。次の問題だよ、サニィ。あくまでも彼の心情は推し量ることしかできないから、正解とは程遠いかもしれないけれど、しかし、理解を深めることはできるだろうからね』


 なるほど、と私は納得しました。


 彼の言うとおり、クラウドの考えていることは本人にしかわかりません。

 でも、『こうだったのではないか?』を考え続けることは、決して無駄にはならないでしょう。


 私は少しだけ、考えました。何を問えば、この鍵穴にピッタリと収まるのでしょう。

 考えて、考えて――そして、一つの質問を用意しました。


「……彼は、周りの人たちのことを大切に思っていますか?」


『少なくとも彼は、他人を露骨に嫌えるような人間じゃないだろう。イエスだ』


 なるほど、と頷くよりも早く、私は次の矢を(つが)えます。


「それじゃあ、隠したのは悪意があったとか、誰かを傷つけるためだったとか、そういう事実はなかったんですか?」


『イエスだろうね、彼がそういうことをできない性分なのは、君もよく知っているだろう』


 そう、そうなのです。


 クラウドが、私たちが傷つくような誤魔化しをするはずがないのです。

 そんなことは、私にもわかっています。だから。


「……彼は私たちと、ずっと一緒にいたいと思ってくれていますか?」


『……これもまた、本人に聞かなければ定かではないが』レーゲンは、満足そうな声で。『イエス、だろうね。だからこそ、彼は誤魔化さなければならなかった。その事実を、君に伝えるのを躊躇ったんだ』


 それだけ聞ければ、十分でした。


「わかりましたよ、レーゲン。もう大丈夫です」


『お、早いね。それじゃあ、答え合わせを――』


 と、続けようとする彼に、私は首を振りました。


「いえ、要りません。私はその答えを聞きたくないです」


『ほう、それはまた、どうして?』


 理由。

 それはとても、漠然としたものでした。


 私の頭の中にある言葉では、この気持ちを言い表すのには足りないです。


 それに。


「……クラウドは、私たちに意地悪したくて、誤魔化したりしたわけじゃないんですよね?」


『そうだろうね、本人にしか、本当のことはわからないが、きっと彼は、君たちを傷つけたくなかったのだろう』


「だったら、やっぱりいいですよ。いつか、クラウドが私たちに話してもいいって思ってくれたら、その時には話してもらいたいと思います」


 無理矢理に聞くのは、よくないですしね。


 私たちには時間はたくさんあるのです。本当に大切なことなら、いつか、彼の方から話してくれるでしょう。


『そうか、なら、ここまでにしておこう。それなら、ゲームは引き分け、ってことになるかな?』


「ええ、ええ! そうですね、今日は引き分けってことで、勘弁して――」


『――ここまでの二問は正解できてないから、これでサニィの二敗一分け、ってことでいいかな?』


 うぐぅ、と。


 思わず、喉の奥から変な声が漏れてしまいました。上手く誤魔化せるんじゃないかと思ったんですが、そうはいかないようでした。


「ま、まだまだこれからですよ、ほら、次の問題! 早く出してください――!」


 こうして、夜は更けていくのです。

 いつも通りに。或いはいつもより少しだけ、騒がしく。


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