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Goodbye,Sunnydays.  作者: 文海マヤ
1章「BeginninG」
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1-3 「かくれんぼ」

 ***



「『かくれんぼ』? そりゃあまた、懐かしい遊びをしたがるんだね」


 レインは私の言葉に、意外そうに目を大きくしました。


「はい、前に本で読んだので! レインは『かくれんぼ』が何なのか、知ってるんですね!」


「うん、まあね。私も昔、本で読んだことがあるよ。旧時代の遊びの一つだっけ?」


 私は、できる限りの元気を込めて、頷きました。


 世界が滅んでしまってから、私たちが生きられるのは、こういったシェルターの中だけになったのは、前にも話した通りですが、そのせいで、外で体を動かすような遊びは、中々する機会がなくなってきてしまったのです。


 『かくれんぼ』もきっと、その中のひとつなのでしょう。


「私は全然いいけどさ、流石に二人じゃ物足りないんじゃない?」


「その点は問題ないです! クラウドも参加するので!」


「……あいつ、やりたがるかな?」


「やりたがらなくても大丈夫です! 引っ張ってくるので!」


「ああ、強制参加なのね」レインはどこか、悪戯っぽく笑いました。


 そうなれば、善は急げです。私たちはクラウドの部屋に向かいました。


 彼は今日、採取してきたサンプルの整理をするとかそんなことを言っていたような気がします。


 あんまり忙しそうなら、誘うのは今度にしてもいいのですが――。


「――大丈夫、大丈夫。どうせ明日も明後日も暇なんだからさ、巻き込んじゃえ巻き込んじゃえ」


 どこか子供っぽい口調でそう言いながらついてくるレインに後押しされ、私は勢いのまま、クラウドの部屋の扉を開けました。


 彼は宣言通り、サンプルの整理をしていたようです。

 床に並べられた、いくつものカプセルの中に、植物のようなものや、土塊(つちくれ)のようなものが収められています。


 そのうちの一つを手にしながら――雪崩込んできた私たちに、彼は目を丸くしていました。


「……おい、突然何だ。ノックくらい――」


 先手必勝。

 言い切るよりも早く、私は彼に飛びつきました。


「クラウド! クラウド! 『かくれんぼ』をしましょう!」


「『かくれんぼ』……? ああ、旧時代の。どうしてまた、今さら……」


 呆れたように頭を掻いた彼は、まるで顔に『面倒だ』と書かれているかのようでした。恐らく、仕事を邪魔されたことに対する憤りよりも、億劫(おっくう)さが勝っているのでしょう。


 眉間に寄った(しわ)は、それを如実に物語っているようでした。


「まあ、いいじゃない、クラウド。どうせ次の外部調査までは時間があるんだし、少しくらい息抜きしてもいいでしょ?」


 背後からかけられたレインの声に、クラウドは諦めたように首を振りました。


 そして、手に持っていた小さなカプセル――中に入っていたのは、小さな木の枝のようなものでした――を床に置いて、ひとつ、ため息。


「……まあ、いいか。わかったよ。それで、ルールはどうするんだ?」


「ルール、ですか?」私は思わず、聞き返しました。


「ああ、鬼は一人か二人か、隠れるときに、入っちゃいけない部屋はどこにするか、制限時間は決めるかどうか……。まさか、何も考えてなかったなんてことはないだろうな」


 何も考えてませんでした。

 本の中の主人公たちは、そんなに細かく色々決めたりはしてませんでしたから、私もただただ、考えなしに飛び出してきてしまったのです。


「まあ、いいじゃない。ひとまず、鬼は一人、制限時間は二十分、入っちゃいけないのは電気室と……あとは、それぞれの個人部屋とかは、プライバシーがあるからね、避けとこうよ」


 レインが、両手を打ち鳴らしながら、そうまとめました。


 シェルターの中には、不用意に入ると危ない場所もあります。そのあたりは確かに、避けたほうがいいでしょう。


 さて、そうなると迷うのが、鬼を誰がやるかです。

 当然というかなんというか、クラウドはあまり乗り気ではなさそうです。自分から名乗り出てはくれないでしょう。


 それならば。


「クラウド、そうしたら『ジャンケン』ですよ。ロック・ペーパー・シザーズで決めましょう!」


「……まあ、たしかにそれが公平だな」


 そうして、彼は右手の袖を捲りました。丸太のように太く、私よりもずっと浅黒い前腕が(あら)わになります。


 だんだんやる気になってきてくれたのでしょうか、ともかく、私が音頭(おんど)を取ることになりました。


「それじゃあ、いきますよ、じゃーんけーん」


 ぽん。

 私とレインは、グー。

 対してクラウドは――チョキでした。


「なっ……」彼は思わず目を見開きます。「よりにもよって、俺か……」


「それじゃあ、私たちは隠れますよ! 百数えたら、探しに来てくださいね!」


 私は勢いよく駆け出しました。後から、レインもついてくる気配がします。


 彼女はどこに隠れるのでしょうか? 私とは違って体も大きいので、場所を見つけるのは難しそうです。


 どこなら見つからないでしょうか……しばらく考えた私は、倉庫に向かうことにしました。


 荷物が多く、棚によって視界も狭い。その隙間に、小柄な私であれば潜り込めるだろうと考えたのです。


 たったの百秒。私の足では、そこまで辿り着けたとしても隠れられるかは微妙です。なので、とにかく懸命に、足を動かしていたのですが――。


「――?」私は、思わず感じた違和感に立ち止まってしまいました。


 そして、横合いに視線をやると、そこには一枚の扉がありました。もちろん、倉庫の入り口はもう少し先です。


 ――こんなところに、扉なんてありましたっけ?


 前にも話しましたが、このシェルターは、三人で暮らすには広いものです。たまに、誰も知らなかった収納が突然見つかったりします。


 とはいえ、流石に扉や部屋であれば、気が付かずに暮らしているということは無さそうなのですが……。


「……まあ、いいでしょう! 私が気付いてないってことは、もしかするとここは穴場かもしれません!」


 私は意気揚々と扉に手をかけました。なに、危なさそうであれば、すぐに踵を返して予定通りに倉庫まで走ればよいのです。


 そして、開け放った先に広がっていたのは――不思議な光景でした。


 いくつもの大きなガラスの水槽のようなものが、部屋の左右に並んでいます。

 そのいくつかは割れており、床にはコップをひっくり返したような大きな水溜りが広がっているのが見えました。


 水槽からは無数のケーブルが伸びており、それは天井を伝って、最奥に設置された、小さなコンピューターに繋がっているようでした。


 モニターが淡く点灯しているところをみると、まだ動いているようではありますが……。


「……なんですか、これ?」私は疑問符を浮かべました。


 明らかに異様な部屋。何に使う場所なのかすら全くわかりません。


 水槽の中も覗いてみますが、何かチリのようなものが浮いているのが見えるだけで、目立ったものが保管されていたりもしません。


 ……だとすれば、怪しいのは奥にあるコンピューターでしょうか?


 好奇心と呼ぶべきものに、足が突き動かされました。

 止めるものがいないというのは、かくも恐ろしきことなのです。


 近づいてみれば、モニターに表示されていたのは、何かの文字列でした。ところどころに旧時代の文字が混じっているため、私にはうまく読み取れません。


「きんきゅう……ほむ……の、ついか……せい……しっぱ……?」


 断片的に拾い上げられた情報を並べてみましたが、やはり、わけがわかりませんでした。

 むー、クラウドなら旧時代の文字にも詳しいですし、何かわかるかもしれませんが、少なくとも私にはちんぷんかんぷんです。


 このシェルターには『魚』のような、水棲生物の類はいませんので、こんなにたくさんの水槽も必要ないと思うのですが……。


 となれば、やはりこのコンピューターに秘密があるのでしよう。ほんの少しだけ、中のデータを覗こうとして――。


『エラー、パスワードを入力してください』


 ――冷たい、メッセージに阻まれました。


 パスワード、なんて私は知りません。

 聞いたこともありませんし、今までこのシェルターの中のコンピューターで、パスが必要なことなんてありませんでした。


 一体、何を行う場所なのか――なんて、私が由無し事を考えていた、その時でした。


「……さあ、そろそろ行くぞー!」


 廊下の奥から、そんな声と足音が聞こえてきました。


 クラウドが、百を数え終わったのでしょう。

 彼はどこか気だるげな、しかし挑戦的な靴音を引き連れながら、この部屋に近づいてきています。


 私は慌てて隠れられそうなところを探しますが、この部屋は相当シンプルな作りになっているようで、身を隠せそうな隙間はどこにもありません。


 こうなると、私に残された選択肢は二つだけです。


 一つは、見つからないことを祈りながら、ひとまず水槽の裏にでも屈み込むこと。

 そしてもう一つは、クラウドがここに来るよりも早く、全速力で倉庫に向かうことです。


 シェルターの廊下は弧を描いており、先の方までは見通せなくなっています。私の足は決して速い方ではありませんが、全力で走れば、見つかる前に倉庫に駆け込むことはできるかもしれません。


 行くか、留まるか。二択になったときに、私の腹は決まりました。


「……よぅし」小さく呟いて、足元の感覚を確かめます。


 クラウドがこの部屋に気付いていなかったのなら、もしかすると隠れていたほうが安全かもしれないでしょう。


 しかし、もしこの部屋の存在を知っていて、倉庫までの道すがらにあるこの部屋に入ってきた場合――そこには、間抜けに透明な水槽の裏に座り込む、私の姿が丸見えになっているのです。


 なら、まだ僅かな可能性に賭けて、駆け出したほうがいいでしょう。


 そうと決まれば、善は急げ。足に力を込めて、私は勢いよく、扉を開いて――。


「――あっ」


 ちょっと部屋の前を通過しようとしていた、クラウドと目が合いました。

 お互いに、一心拍。世界の全てが凍ってしまったかのような、冷ややかな間を置いて。


「……サニィ、みーつけた」


 鬼の前に(おど)り出た、間抜けな逃亡者は捕まることになったのです。


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