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春の雪

作者: 泉田清

 先輩が腹痛を訴え早退した。事務室には「またか」という空気が流れる。半年に一度はこういう事がある。


 更衣室へ行くと帰りがけの先輩とバッタリ会った。「大変ですね」声をかけると「この何日かずっとおかしくて、お先するわ」そういって帰った。私もこの二、三日腹の調子がおかしい。皆「またか」といっていたが彼の気持ちが良く分かる。持病を抱えれば抱えるほど気候の変化、とりわけ気圧の変化には敏感になるものだ。胃腸が何かに怯えるように時折り痙攣する。

 ようやく業務を終え、帰る準備をしていると「雪が降るぞ」どこからか声がした。雪、は確かに降らないこともない。20年前か30年前か、連休中に確かに降った。とはいえ、週間予報では最高気温は低くても16℃。雪の予報は北国か山沿いであろう。ビクビク、気候の変動を予感し、また胃腸が痙攣した。


 雨、最高気温16℃。冬物の上着を羽織りドライブに出かけた。何日か前は26℃あったというのに。五月の連休に入って冬物を着る、こんなことはちょっと記憶にない。

 土手沿いの県道からは山裾に広がる田園地帯が良く見える。ところどころ水を入れ始め、代掻きが始まっていた。「田んぼ手伝うと小遣い貰えるんだ!」同級生が言うのをうらやましく思ったものである。

 「お花見とは本来、山にあるサクラを見に行くものでした」カーラジオから意外な知識が聞こえてきた。満開のサクラを目にしたのは二週間前。仕事中だった。花見に行ければいいな、と思っているうちに雨が降り、強い風が吹き、あったという間に葉桜となった。いま、田圃の向こうの山に、所々桜の木が見える。標高の高い場所では未だ満開、北の地では今が見ごろだ。


 次の日の21:00。友人と一緒にファミリーレストランを出る。闇夜に深々と降り積もるモノに、彼は驚きの声を上げた。「え、雪降ってるんだけど!?」。何となくこうなる気がしていた私は黙って夜空を見上げていた。「地球がバグでも起こしたんじゃないか」友人は中々シャレたことをいった。昨日みた景色、代掻きした田圃、山桜、葉桜、に雪を降らせてみる。まさにバグが起こったとしかいいようがない。ビクビク、ビクビク、我が臓腑がこれまでにない大痙攣を起こしたのだった。


 次の日の昼。マイカーのフロントガラスにはたわんだ雪の層が張り付いていた。ワイパーを動かしても残ったままだ。気温は18℃に予報。遅かれ早かれ溶けてなくなるだろう。そのままスーパー行った。

 スーパーを出ると見事な五月晴れ。駐車場はいつもより混んでいて、連休が始まった!と感じざるを得ない。もうフロントガラスにもどこにも雪など残っていない。昨夜の大雪など無かったかのように、世界は回り始めた。

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