57、村長宅
村の中を獣車が進んでいくと、何人もの村人達とすれ違う。普通は魔物を倒してくれる冒険者が来たとなれば歓迎すると思うけど、この村の人達はそんな雰囲気がない。どちらかといえば歓迎されていないような……奇妙な雰囲気だ。
ジロジロとこちらを見ると、その後にひそひそ話しながら獣車から遠ざかってしまう。ちょっと気分が悪いな。
「皆さん申し訳ありません……」
ベルニさんが村人達のその様子を見て、俺達に向かって謝った。
「ベルニさん、この状態はどういうことなんでしょうか? 門番の男性との会話も気になったのですが……もちろん話したくないのならば、俺達は依頼を遂行するだけなので構いませんが」
「……そうですね。この村に数日滞在していただくことになるかもしれませし、皆さんにはしっかりとお話をしようと思っています。村長宅に着きましたらお話しさせていただきます」
「分かりました。ではそれまで待ちます」
それからは何となく気まずい雰囲気が流れて、誰も言葉を発さないまま村長宅に辿り着いた。村長の家というだけあって、他の家よりは大きくて立派なようだ。隣には一角獣の為の厩舎があるのも見える。
ベルニさんは家の前に獣車を止めると御者席から降り、村長宅のドアを叩いた。
「父さんただいま。冒険者の皆さんをお連れしたよ」
ベルニさんは村長の息子だったのか……確かに村として依頼に来るんだし、立場がある人の方がスムーズだろう。
「本当か!?」
家の中からドタバタッと足音が聞こえてきたと思ったら、家のドアがバンッと勢いよく開いた。そして出てきたのは、まだ三十代後半か四十代になったばかりか、そのぐらいに見える男性だ。確かにベルニさんに少し似ている。
「父さん慌てすぎだよ。お客様がいるんだから」
「あ、ああ、皆さん申し訳ない。私はこの村の村長であるホルヘと申します」
ホルヘさんと名乗った男性は、慌てて出てきたことを申し訳なさそうに謝った。
「初めまして。私は今回のパーティーリーダーを務めるマテオです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
簡単に挨拶を交わすと、ホルヘさんは俺達を家の中に案内してくれた。ミルも一緒に入って良いようだ。
家の中は簡素な作りだった。装飾などなくかなり貧しいように見える。村では村長宅もこんな感じなのかな……
「何もない家で申し訳ない」
「……それは大丈夫なのですが、このような現状には理由があるのでしょうか?」
「それはこの後お話しします。ではこちらへ」
そうして案内されたリビングには、木で造られた簡素な机が一つと椅子が四脚、それに木箱がいくつか置かれているだけだった。
「皆さんは椅子へお座りください。私達は木箱に座りますので。お客様用の椅子がなくて申し訳ない。ソファーもなくて……」
「椅子に座ってしまっても良いのでしょうか? 私達が木箱でも構いませんが……」
「お客様を木箱になどとんでもない。ぜひ椅子を使ってください。従魔は床になってしまいますがすみません」
「いえ、大丈夫です。ご配慮ありがとうございます」
『ミルは床に座ってくれる?』
『分かりました』
そうして皆がとりあえず席に着くと、ホルヘさんの奥さんが飲み物を持ってきてくれた。
「お茶がなくて水ですが、どうぞお飲みください」
「ありがとうございます。……それで早速ですが、お話を聞いても良いでしょうか?」
「はい。今回皆さんに出した依頼は魔物の討伐ですが、もうこの村ではここ十年で何回も出している依頼なのです。年に二回、多い時は三回ほどは依頼を出しています」
「なんと……なぜそこまで魔物がこの村を襲うのでしょうか」
マテオ達は驚愕に目を見開いている。年に数回も魔物に襲われる村なんてかなり珍しいみたいだ。
「理由は分からないのですが、この村では私の娘のせいだと噂になっていまして……」
「ホルヘさんの娘さん、ですか?」
「はい。ちょうど娘が生まれた時から魔物の被害が増えたからと。ですが実際には娘が産まれて二年経ってからなのです」
「そうなのですね……ですがそれだけで決めつけることはできないのでは? それに二年も誤差があるようですし」
「はい、私は信じていません。しかし実際に娘が友達と外で遊んでいると魔物に襲われたとか、娘が森に採取に行くといつも魔物が現れるとか、色々と物事が重なり疑われてしまって」
……これは実際どうなのだろうか。疑われるということはそれだけの事実があるからだと思う。でも魔物に襲われる体質なんてあるのかな? そんなことはなさそうだけど……
……あれ、でも魔物に襲われるんじゃなくて魔物に好かれるスキルならあるよな。テイムのスキルだ。それを持っているとかじゃないの?
「あの、横から失礼します。娘さんが魔物使いの素質を持っているということはないのですか?」
「それも考えはしたのですが、魔物使いの方に話を聞くと魔物から寄って来られることはないと聞きまして……そういえばあなたも魔物使いなのですね。魔物から寄ってくることはあるのでしょうか?」
「……いえ、私には分からないです。申し訳ありません」
俺はテイムのスキルを持ってるわけじゃないから、テイムのスキルが実際どんなものかなんて分からない。テイムのスキルについても学んでおいた方が良いな。
「いえいえ、良いのです。何人かの魔物使いの方に話は聞きましたが、なぜか他の魔物と違う、心を通わせられる魔物と偶然出会ったという方がほとんどで、たくさんの魔物が寄ってくることはないと皆さん仰いましたので」
「そうなのですね」
じゃあテイムのスキルじゃないんだな。他に魔物が寄ってきそうなスキルなんてあったっけ……あ、もしかして、もしかしてあれかな?
『ミル、魔物に愛されし者ってスキル覚えてる?』
『……確かに、そんなスキルありましたね』
『もしかしてホルヘさんの娘さんってこのスキルじゃないかな?』
『うーん、ですがあのスキルはテイムの上位互換ですから、本人が魔物と意思疎通が取れて襲われているわけじゃないと分かると思いますが……』
『確かにそっか……じゃあなんなんだろう。実際に魔物が襲ってきてることは事実だけど』
『何か別の原因があるのかもしれません』
何か魔物を引き寄せるアイテムとか、魔物が好む植物とか、そういうものがあるのかな?
「マテオ、魔物を意図的に引き寄せられるアイテムとか植物ってないの?」
俺がマテオに顔を近づけて小声でそう聞くと、マテオは少し思案した後にはっと何かに思い当たったように顔を上げた。
「前に聞いたことがある。ダンジョンから出るかなりのレアアイテムの中に、誘引の香炉というものがあると。確か属性関係なしに魔力を込められて、込めた魔力量によって魔物を引き寄せる強さが変わるものだ。昔そのアイテムを研究するためにどこまで魔力が込められるのか調べた馬鹿がいて、そのせいで街が一つ滅んだと記録が残っているらしい。別の国の話だがな。その時は誘引の香炉は壊されたらしいが、もしかしてまた誰かが手にしたのか?」
そんなものがあるのか……めちゃくちゃ怖いな。悪用しようと思ったら相当な脅威だ。もしそれを手に入れた人間が、この村で実験を繰り返しているとしたら……
いや、でもそんなことをやる意味ってないよな。実験を繰り返すにしても村でやったらすぐにバレそうだし。
「確かにそのアイテムは怖いけど、流石にそれをこの村に使ってるって考えるのは飛躍しすぎな気もする。十年間も続いてるのもおかしいし」
「確かにな……ではそれと似たものがあるのだろうか?」
「うん。それか新種の植物とかの可能性は? 突然変異で魔物を引き寄せる匂いを出してるとか」
「確かにその可能性はあるな」
俺とマテオはそうして意見を交換しあった後、ホルヘさんの方に向き直った。




