55、臨時パーティー
今日はマテオ達と受けた依頼の出発日だ。俺は朝起きて眠い目を擦りながら準備をして、ミルと共に食堂に降りた。するとマテオ達三人は、既に朝食を食べて俺を待っているところだった。
いつもはグダっとしているパブロがシャキッとしてる、
やっぱり仕事となるとちゃんとするんだな。いつもこうしていたらモテるのに……
「皆おはよう」
「トーゴおはよう。体調は大丈夫か?」
「うん、問題ないよ。皆は?」
「俺達も大丈夫だ。じゃあ予定通りに依頼を受注できるな」
「うん」
冒険者の中には少し体調が悪くても依頼に向かってしまう人も多いのに、マテオ達はそこのところがしっかりとしている。命に関わることだからと、依頼が失敗になっても体調不良者がいれば休みにするのだ。
本当にしっかりしてるパーティーだと思う。それもこれも全てマテオの采配だろう。マテオって敬語もできるし読み書きもできるし、話してると頭も良いしリーダーシップもある。どこか良い家の生まれなんじゃないかなと、最近はちょっと思ったりもしている。まあ詮索することはしないけど……
「神に祝福を、糧に感謝を」
食前の祈りを口にして、ミルと共に朝食を食べ始めた。
『ミル、食べづらかったりしたら言ってね』
『はい。ありがとうございます』
「マテオ、依頼主ってどんな人? マテオは会ったんでしょ?」
「ああ、今回この街に来た依頼主とは会った。村の村長ではないけどな。そうだな……一言で言えば真面目な好青年ってところだったぞ。だがどこか影もある青年だったな」
「影がある……?」
どういうことだろう……悪人の雰囲気があるってことかな。それとも引きこもりな感じ?
「なんて言えば良いのかわからないが、辛い過去を抱えているような……そんな感じだ。まあこれは俺の勘だがな。それに依頼とは関係ないだろう」
「確かにそっか。じゃあ、あんまり気にしないことにするよ。道中で依頼主の機嫌が悪くなって大変とか、そういうことはなさそうなんでしょ?」
「それはないだろうな」
「それなら良かった」
とりあえず依頼が円滑に進めば良いだろう。初めての遠出依頼だし頑張ろう。
「道中の護衛とかはやる?」
「ああ、御者席に依頼主が座るんだが、その隣に俺が座る予定だ。パブロとサージ、トーゴ、ミルは獣車の中だな。後ろの幌を開いて見張りをしてくれ」
「了解。街道では危険ってあるの? もちろん魔物の危険はあると思うけど、それ以外に盗賊とか」
なんとなくこういう世界では、街道に盗賊が出るっていうイメージだ。
「盗賊もいるぞ。ただ俺達が乗るのは幌獣車だし、荷物もほとんど載せないからスピードも出る。そうなると盗賊に襲われる危険はないだろうな。盗賊が襲うのは歩きの旅人や荷物をたくさん乗せたゆっくり走る獣車がほとんどだ」
「そうなんだ。じゃあ盗賊への警戒はそこそこに、魔物への警戒を強めるよ」
「ああ、よろしくな」
俺にはマップの能力があるから、見張りの仕事は完璧にこなせるだろう。皆に危険が及ばないように頑張ろう。
それよりも盗賊なんて存在がいるんだな……やっぱり怖い世界だ。
それから朝食を食べ終えて、マテオ達と一緒に宿を出て門まで歩いてきた。そして門前広場で少し待つと依頼主が獣車に乗って現れる。
獣車はこの世界で一番一般的な形のものだ。一角獣が二頭立てで引いている獣車で、車部分には幌がかけられている。
「夜の星の皆さん、今日からよろしくお願いします。それからあなたがトーゴさんでしょうか?」
依頼主の方が獣車から降りてそう挨拶をしてくれる。十代後半ぐらいに見える男性だ。予想以上に若い。でも落ち着いた雰囲気だな。
「はい、トーゴと申します。よろしくお願いいたします。こちらは従魔のミルです」
「ご丁寧にありがとうございます。私はベルニと申します」
「ベルニさんですね。責任持って依頼を達成するために頑張らせていただきます」
「ありがとうございます。期待していますね。では早速行きましょうか」
皆で獣車に乗り込んで、街の外へ出た。ミルも獣車の中だ。
「じゃあトーゴ、最初は俺が見張りをするからサージと休んでて良いぞ。一時間で交代しよう」
「分かった。よろしく」
「おう!」
「……パブロって、依頼の時はちゃんとしてるんだ」
俺が思わずそう呟くと、パブロにジロリと睨まれた。
「トーゴ、俺がいつもちゃんとしてないみたいじゃねぇか」
「だって……そうじゃない?」
「このやろー!」
パブロがサージに見張りを任せて俺の隣に来た。そして頭をぐりぐりされる。
「い、痛いって!」
「ふんっ、酷いこと言うからだろ? 俺はいつもちゃんとしてるからな」
「いや……いつもはなんというか、だらっとぐでっとしてるイメージあるけど?」
「そんなことねぇし」
パブロが少し目を逸らしてそう言った。ちょっと思い当たる節があるんだな。
「パブロは仕事の時みたいにしてたらもっとモテると思うのに、もったいないよ」
「……え、本当か!?」
「うん。さっきまでのパブロなら女の人もかっこいいと思うと思うけど。パブロは軽すぎるんだよ。女の人はしっかりした頼り甲斐のある人が好きなんじゃないの?」
「マジか……」
というか今更そこの話? 結構普通のことだと思うんだけど。
「女はチャラい男が好きじゃないのか!? だってモテてるやつは、チャラチャラしてて色んな女に甘い言葉を囁くようなやつだろ?」
いや、それどんだけ限定的な話なんだ。確かにそういう人がモテることもあると思うけど……それはアイドルが好きっていうのと同じような感じな気がする。
「多分それ間違ってる。一度真面目にしてみなよ」
「分かった……やってみるぜ」
パブロとそんな話をしつつ一時間獣車に揺られ、その後パブロとサージが見張りを変わりまた獣車に揺られた。サージは基本的に無言なので、途端にゆったりとした静かな旅になる。
『ミルー、ずっと獣車に揺られてるのも暇じゃない? お尻が痛くなるし……』
『そうですね。近くに魔物や盗賊はいませんか?』
『うん。遠くにはたまにいるんだけど、今の所襲ってきそうなのはいないかな。まあ平和が一番なんだけどさ』
『そうですね。でもかなり暇です……ふわぁ、ちょっと眠くなってきます』
『寝ても良いよ? 俺が起きてマップで警戒してるから』
『いえ、トーゴ様が起きているならば僕も起きてます』
ミルはそう言いつつ頭がガクッとたまに下がっている。なんとか目を開けているけれど今にも閉じそうだ。ちょっと、いやかなり可愛い……
そうして眠そうなミルと話しつつ獣車に揺られていると、進行方向の街道沿いに魔物が三頭いるのがマップに映った。このまま行くと確実にぶつかるな……
俺は前方の幌を開き街道の先をじっと見つめた。しかしまだ魔物の姿は見えないようだ。
「トーゴ、どうしたんだ?」
御者席に座っていたマテオからそう声をかけられた。マップのことは言えないし……
「前方からちょっと嫌な雰囲気がしたんだ」
そんな曖昧な返答になる。だけどそれに対するマテオの答えは予想外のものだった。
「トーゴは索敵ができるようになったのか? あれは確か闇魔法だったよな」
闇魔法に索敵なんて魔法作ったんだっけ……完全に忘れてた。めっちゃ良いこと聞いたな。やっぱり一度魔法の本は手に入れて読まないとダメだ。
「そうなんだ。でもまだなんとなくしか分からなくて」
「分かった。ではベルニさん、少し速度を緩めてもらえますか?」
「分かりました」
それからは今までの半分ほどの速度で街道を進んでいくと、道の先に三頭狼のような魔物がいるのが分かった。
「あれはグレーウルフだな」
「それって今回の依頼の魔物?」
「そうだ。街道にいるのはかなり珍しい……依頼の練習にもなるし倒していこう。サージはベルニさんを守っていてくれ。パブロとトーゴとミルは俺と一緒にグレーウルフを倒しに行くぞ」
「おう!」
「任せてくれ」
皆と戦うのは初めてだ。足手まといにならないように頑張ろう!




