竹刀の剣士、異世界で無双する 村長
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9 村長
パチパチと拍手の音が聞こえた。門のほうを見ると、先ほどの門番の隣に、白髪をオールバックにした60歳ぐらいの老人が立っていた。白い顎髭を伸ばしている老人であるが、背筋も伸びているし、胸も厚い。若いころはかなりのムキマッチョだったろうなと思った。老人が、近づいてきながら、なおも拍手をやめない。
「いや、お見事、お見事。門番長のグリッツを一瞬で戦闘不能にするとは。言い伝え通り、稀人の力とはすさまじいものですな。」
ニコニコしながら近づいてくるので、俺も立ち上がり、老人に礼をする。
「ありがとうございます。よい稽古をさせていただきました。」
(ふむ、横から見ていると、お主のすごさがよくわかる。一瞬で相手の足と手の両方を封じるとは。うむ、良いものが見られた。)
後ろからイシャも念話を飛ばしてくる。
(ありがとう、イシャ。でもこの技は剣道の基本技の一つなんだよ。)
そう、俺の使ったのは基本技の二段打ち、「小手ー面」の応用だ。グリッツさんの蹴り足を「小手」の要領で迎え撃ち、上がった右手を「面」の要領で打ったもの。
(そうか、あれが基本技とは、剣道とは奥が深いものだな。)
(そうだね。そこが剣道の良いところだと思うよ。)
俺がイシャと念話を飛ばし合っていると、老人が声をかけてきた。
「ところで、ヨウスケ殿とおっしゃったか。あなたのスマホとかいう持ち物と、今の技、間違いなく確認しました。あなたはおよそ200年ぶりの稀人です。」
「そうですか。ご理解いただいて何よりです。ところで、グリッツ殿は怪我をされていませんか?」
俺は、老人の後ろに立つグリッツさんに声をかける。
「ああ、痛みと腫れはあるが、骨も折れていないし、もう大丈夫だ。」
「それはよかった。」
「ところで、さっきは何をしたんだ?一瞬のことで、何が何だかわからないうちに、足首と手首に激痛が走ったのだが。」
「わしも見ておりましたが、あまりの早業。目で追いきれませんでした。」
と老人も興味深げに頷く。この世界の人たちは、本当に戦いが好きだな、と思いつつ、解説する。
「私が距離を詰めたところで、グリッツ殿が蹴りを打とうと腰を沈められました。重心は前の右足にかかっていましたから、左足の回し蹴りだとわかりました。そこで、蹴りにスピードが乗り切る前に、左足首をたたきました。蹴りは私の足を狙っていましたので、上半身はあまり動いていませんでした。それで、蹴りの次に剣の打ち下ろしが来ると思いました。ですから、私は左足首をたたいた後、その反動と勢いを利用してグリッツ殿の右手首を打ったのです。手首の小指側に痛みが走れば、木剣を取り落とすはずです。そうして、グリッツ殿がひるんだすきに、グリッツ殿の右側の走り抜けて距離を取りました。」
「その、足と手を同時に打つというのはどうやるんだ。ちょっとやって見せてくれ。」
グリッツさんは食い気味に聞いてきた。老人も目をキラキラさせている。後ろからイシャも見たいというオーラを送ってきた。まあ見世物になるがいいか、と俺はあきらめた。稀人と名乗った時からこうなる気がしていた。
「はい、こう中段に構えます。」
「ふむ、こうか。」
グリッツさんは俺の隣でまねをする。なかなか様になっている。さすが門番長といったところだ。細かい修正点はあるが、今は技の説明を先にする。
「そして、左足に力を入れ、右足を小さく踏み込みます。」
まずは、足の動きだけをやって見せる。スローモーションの様にゆっくりとだ。
「そして、わずかに左足を引き寄せ、再び左足に力を入れると、今度は右足を大きく踏み込みます。」
トン、ドーンと二段踏み込みをして見せる。ここで、グリッツさんはついてこれなくなった。この世界の闘技術は足さばきを重視していないらしい。
「今度は、足の動きに合わせて、剣を2回振ります。」
トン、ドーンの踏み込みに合わせて竹刀を小さく、大きく連続で振る。もちろん、スローモーションだ。
「あとは、何度も練習してこの動きを早くしていきます。」
トン、ドーンという二段打ちを。ト、ドンと素早くやってみる。
「なるほど、足と手を同時に打ったのではなく、めちゃくちゃ素早く2回打ったのか。」
グリッツさんは納得顔だ。
(ふむ、基本技と言っていたが、かなりの修練を必要とする技のようじゃな。)
後ろからイシャの念話が飛んできた。老人も同じ感想を持ったらしく頷きながら、
「なるほど、この動きをあそこまで使いこなせるようになるには、相当修練を積んだのでしょうな。これでは、うちの門番長が手玉に取られるわけです。
ああ、申し遅れました。私はダヒトの村の村長をしております、コサロと申します。さて、ヨウスケ殿、あなたは、しばらくこの村にとどまっていただけるので?」
「改めまして村長殿。私のことはヨウスケでよいですよ。そうですね、私はこの世界のことが何一つわからないので、しばらくこの村にご厄介になりたいと思っています。私をここまで案内してくれたこの狼も一緒でもよいでしょうか?さんざん世話になっておいて、今さらさようならというわけにはいきませんので。」
「村長、この狼は安全だと思うぞ。先ほどのヨウスケ殿と隊長の試合を見ていても、喜んで尻尾を振っていたが、興奮することはなかった。」
よこから、別の門番が口添えしてくれた。
「ありがとうございます。あの、お名前は?」
と尋ねると、
「いいってことよ。俺は隊長の副官を勤めている、シラックという。よろしくな。」
と気さくに答えてくれた。シラックさんは、グリッツさんと同じようにムキマッチョな体格だが、髪はやや色が薄く、髭は剃っている。ニコッと笑った顔がイケメンだ。
「そうですか。では狼殿ともどもわが村へようこそ、稀人殿」
村長はそういって俺たちの背中を押すように、門に向かう。
「ちょっと待ってください。荷物を取ってこなければ。」
俺は慌てて、防具鞄と竹刀袋を取りに行った。