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竹刀の剣士、異世界で無双する 門番との戦い

じわじわとPVか増えています。読んでくださった皆さん、ありがとうございます。お楽しみいただければ幸いです。

8 門番との戦い


 俺たちは門番が戻ってくるまで待つことにする。ただぼんやりとするのはもったいないので、今来た門番に話しかけて情報収集をする。俺の隣に新しく立った門番は、前の人より一回り体が大きい。身長は俺より5cmほど高く、胸に分厚い筋肉の鎧をつけているのが、革鎧の上からも分かる。焦げ茶色の髪を刈り上げ、顎髭を生やして、いかにも武人と言った雰囲気だ。


「ところで、この村は何と言うのですか?この狼についてきてここまで来たのですが。この辺りのことがさっぱりわからなくて。」


と話しかけると、髭の門番が相手をしてくれた。


「ここはダヒトの村という。ダイデロッチ王国の東の辺境にある。それより、お前のことだ。稀人と言ったが、伝承によるとここ数百年は稀人と言うものはいない。お前はどこから来たのだ?」


情報収集するつもりが、されるほうになったようだ。でも、さっきイシャと念話で相談して「正直に、全部話す。」と決めていたので、俺は素直に答える。


「はい、私は二ホンという国のアワの町から来ました。突然この森にとばされたので、何が何分からないのです。でも、この狼が親切に私を助けてくれました。」


「ほう、二ホン、アワ。確かに聞いたことがない。でも、待てよ・・。確か数百年前の稀人も二ホンから来たと言っていたと聞いたことがある。ならば、お前は本物の稀人なのだな。」


ほう、前の稀人は日本人か、でも、数百年前なら、もう会えないだろうな。


「それで、お前は何の用でこの村に来たんだ?」


髭の門番がさらに尋ねる。


「はい、森の中をさまよっているときに、この狼が助けてくれまして。人のいるところに行きたいと言ったら、この村に案内してくれたのです。私は、この村でこの世界のことを学び、できれば元の世界に帰る手立てがないものかと思いまして。」


「なるほど、大きな狼だな。森の狼は凶暴だと聞く。お前は運がよかったな。」


確かに、運はよかった。狼の群れに襲われても生き残れたのだから。


(あれは、お主の強さと戦術がよかったからだ。運で我らの攻撃をしのぐことはできん。)


後ろから念話が飛んできた。やっぱり俺の考えを読めてるじゃん。俺はイシャの考えを読めないのに。


(念話は、狼の群れを統率するための技術だ。人間には簡単に真似はできぬ。)


ぶっちゃけたよ、このイシャ。おっと、黙り込んだので、門番が不審そうにしている。


「はい、食べ物も何も持っていないところ、この狼が親切に世話をしてくれたのです。」


「ふむ、狼とは群れで行動するはずだが、これは1頭だけなのか?この村が狼に襲われることはないのか?」


髭の門番の不審ももっともだろう。イシャに視線を向けると、


(はぐれ狼とでも言っておけ。森の外に出たいなどと考える狼は、変わり者だそうだ。)


へー、イシャは狼の中では変わり者なんだ。心の中でくすりと笑う。イシャはプイっと横を向いた。


「はい、どうもこの狼ははぐれ狼のようで、周りには群れはいませんでした。それに、私を襲う様子もありませんでした。」


嘘です。ホントは思いっきり戦いました。


「そうか、確かにこの近くにほかの狼の気配はなさそうだが・・・。ところで、お前、稀人とは伝承では珍しい物や特技を持っていると聞く。お前は何を持っているのだ?」


「そうなんですか。別の世界から来たので、珍しいものに見えるのでしょうね。私は特に持っていないと思います。あっ、先ほどの門番さんに預けた機械、スマホと言いますが、あれは壊れてしまったので、私にも直せません。」


(お主の、剣道とやらの技のことだぞ。)


そうか、剣道のことを話せばいいのか。


「それから、私は剣道を少々たしなみます。剣道とは、剣を使った戦い方です。」


「ほう?戦えるのか?それは面白い。では、ここで模擬戦といこうか。」


ニカッと笑った髭の門番は、奥の門番に何やら合図をした。えっ?戦うの?今すぐ?この世界の人(狼も含む)って、戦い好きなの?それとも脳筋系?俺がうろたえている間に、奥のほうから木剣、棍棒、革鎧、兜などの武器、防具が運ばれてきた。


「どれでも、好きなものを使うといい。」


髭の門番が俺にすすめる。これは戦うしかないか、と腹をくくったとたん、


「常在戦場。」


と、剣持先生の低い声が聞こえた気がした。その声で、俺の背筋が伸びる。


「すみません。武器や防具や自分のものがありますので、それを使ってもよいでしょうか?」


髭の門番に尋ねると、


「そうか、見せてみろ。」


と言われたので、防具袋を開けて、胴・垂れ・面・小手・稽古着を並べる。体のどこを守るのかも、簡単に伝える。竹刀は新しいものを袋から出し、鍔をつけて防具の横に並べた。


「ふーむ。珍しい。この胴とやらは竹でできているのか?しかし、表面のこのつやは何だ。こんなもの見たことないぞ。それに、あとは布の防具か。これで本当に守れるのか?・・・・」


門番はぶつぶつ言いながらも俺の道具を一つ一つ手に取って見ていく。


「うむ、妙な仕掛けもないようだな。よかろう。これを使え。」


許可が出たので、俺は道具を持って門番小屋の脇に行き、稽古着に着替える。さすがに真昼間に路上で着替えはしない。どんな変態だと思われてしまう。来ていたスーツとワイシャツをきちんとたたみ、防具袋に入れる。剣道は板張りの床の上で戦うから裸足で行うが、枯れているとはいえ草むらで戦うのなら靴を履いていたほうがいいだろう。革靴でなく、スニーカーを履いていてよかった。俺は、枯れ草の上に正座し、作法通りに垂れ・胴をつける。作法通りに行うことで、気持ちがゆっくりと落ち着いてくる。


 小手を面の中に入れ、手ぬぐいをたたんで懐に入れる。右手に面を抱え、左手に竹刀を持って、髭の門番のところに向かう。


「ほう、準備はできたか?」


「いや、もう少し待ってください。」


そういうと、俺はその場で正座する。小手を取り出して地面に並べ、面をその上に置き、手ぬぐいをかぶせる。そして作法に従って姿勢を正して相手の門番を見つめた後、ゆっくりと両手をつき、礼を取る。


「おねがいします。」


いつもの稽古の調子で声をかけた。顔を上げると、髭の門番は不審そうな顔でこちらを見つめていた。


 突然の模擬戦になり慌てたが、剣道の作法を繰り返すことで、心に落ち着きが生まれた。俺は、正座のまま髭の門番を観察する。右手にやや短い木剣を持ち、革鎧のほかに、頭に革の鉢金のようなものをまいている。腕は太くたくましい。かなりの強剣を使うようだ。しかし、手の内があまい。力いっぱい柄を握っているため、無駄なこわばりが肘や肩にみられる。そこまで読み取った俺は、手ぬぐいを頭に巻き、面をつけ、後ろ手で面ひもを結んだ。俺の左後ろにいるイシャからは、ワクワクした気配が伝わってくる。そういえばこいつも戦いが好物だった。


 小手をはめて、左手に竹刀を持ち、立ち上がると、その場で軽く礼をし、声をかけた。


「お待たせし、申し訳ない。私は、矢賀洋祐、ヨウスケという。そちらのお名前は?」


「おっ?おう。門番長のグリッツだ。」


「では、グリッツ殿、いざ、尋常に勝負!」


 俺は右手で竹刀を抜くと同時に右足を半歩踏み出し、中段に構える。子どものころから何度も練習して、すっかり身についた構えだ。俺の構えに気おされるように、あわててグリッツさんも構える。木剣を持った右手を前に出し、やや中段半身の構えに近い。しかし足の位置がおかしい、右足が前に出すぎている。あれは蹴りもある形だ。左手は腰だめにして、ぐっと握られている。なるほど、剣だけでなく、蹴りもこぶしも使う総合体術のようなものか。あいての狙いは?っと目を見ると、視線が定まっていない。とりあえず、間合いが詰まったところで蹴りを放ち、その勢いで剣でたたく、最後にこぶしでという流れに見える。ただ、相手が俺の足を狙っているのか、腕を狙っているのか判然としない。グリッツさんも迷っているのだろう。迷っているなら、こっちから仕掛ける!


「キエー!」


 大きく気合をかけて俺は進み出る。送り足ではなく、あえて走り出した。グリッツさんが蹴りを放とうと、一瞬腰を落としたところでピタッと止まる。グリッツさんは前に出していた右足を軸にして、左足を回してくる、狙いは俺の太ももだ。おれは、それに合わせて小さく踏み込むと、手首のスナップだけで、グリッツさんの左足首に竹刀を叩き込んだ。そのままの勢いで、左足で地面をけり、今度は大きく右足を踏み込んでグリッツさんの頭の上に振りかぶられていた右手首を強くたたく。


「小手ー!」


と叫んでそのままグリッツさんの右側を走り抜け、2mほど距離を取ったところで向きなおり、残心をとる。グリッツさんは木剣を取り落として、右手首を抱えている。もはやグリッツさんからの闘気は感じないが、油断はしない。竹刀を中段に構えたまま、じりじりと間合いを詰める。そこで、俺の気配に気づいたのか、グリッツさんが顔を上げた。目の前に竹刀の切っ先が迫っているのを見て、目を見開く。


「参った。」


グリッツさんがかすれた声を上げた。俺は、その場で竹刀を収め、帯刀の姿勢を取る。そして3歩下がって礼をした。


 先ほど、面をつけた所まで歩き、着座。小手、面、手ぬぐいを取り、静かに呼吸を整える。そしてグリッツさんに向かい、深々と礼をした後、


「ありがとうございました。」


と、声をかけた。


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