竹刀の剣士、異世界で無双する 森の旅
6 森の旅
ダヒトの村に向かう途中、何度か獣に襲われた。しかし、すべてイシャが撃退した。小型の獣は獲物として俺たちの食料になった。狩りの様子を見て、本当にイシャは強いんだと思った。あの時は初見殺しと、群れが竹刀剣術を相手にして動揺したために勝てたのに過ぎないのだ。
イシャが本気で狩りをするところを見るのは、俺にも勉強になった。まず、イシャは決して獲物の風上に立たない。獣の気配をとらえると俺に静かについてくるように合図して、大回りに風下に回る。下生えの草を、音をたてないように慎重にかいくぐり、獲物に近づく。その途中で獲物がイシャに気づき、逃げ出したら、それ以上は追わない。体力と時間の無駄になるからだ。実際、森の中にはウサギなどの小動物があふれていた。次の獲物に困ることはない。イシャが近づくのを気づかれずにいた場合は、およそ5mの距離まで近づき、一気に飛び跳ねて、獲物の首にかみつく。これで、狩りは終わりだ。イシャは獲物の内臓を食べると、残りを俺によこしてきた。生肉を食べるのはさすがに抵抗があったので、火を使うことをお願いする。獲物の周りの下草を刈り取り、地面を掘って即席の竈を作る。そこに落ちていた木の枝を放り込みライターで火をつける。俺は喫煙者だったため、ライターは常に持ち歩いている。はじめはなかなか火が付かなかったが、枯葉を竈の下に敷くことで火が付いた。ナイフで獲物の肉を切り分け、木の枝にさして竈の火であぶる。調味料もないし、血抜きもしていないため、味がなく生臭い肉だったが、我慢して焼いて食べる。イシャにも勧めてみたが、あまりうまいものではないため、食べようとはしなかった。
「人間とは、変わった食べ方をする。これでは肉のうまみがないではないか?」
「その通りなんだけど、生肉を食べると、寄生虫と言う小さな虫が腹の中に入り、病気になりやすいんだ。塩とか胡椒があればもっとおいしいのができるのだが・・・。」
俺は、必死に弁解する。
「村につけば、塩があるかもしれない。獲物を解体して、いくつか持って行ってもいいか?」
「うむ、我の食った分の残りは好きにするといい。」
イシャの許可を得られた俺は、森歩きの途中で見つけた朴に似た木の葉に肉を包む。もちろんしっかり血抜きをした後だが、今は冬なのか朴の葉は茶色いものしかなかった。枯れた朴の葉で殺菌作用があるのかなあと思いつつも、ほかに方法がない。肉の包みは防具鞄のポケットに詰め込んだ。臭いが気になるが、今は我慢だ。
「獲物の血が我らを強くするといわれているが、人間は血を飲まんのか?」
「ここの住民は、血を飲むかもしれないが、俺は飲まない。」
「そうか、変わった風習だの。」
それっきり、イシャは俺のすることに口をはさむことはなかった。
狼は基本的に夜行性の生き物だ。それに合わせて、俺も夜移動し、昼間は休むようにしていた。
ある日の明け方近く。そろそろ休む場所を探そうか、というときになって、イシャは俺の袖をくわえて引いた。
「もうすぐ、森の端に出る。そこからは人間の領分だ。我は、お主の従者としてふるまう故、ここからはお主が先に立て。」
「ちょっと待って、いきなり知らない村に来て、村人と会話しろと言われても困るんだけど。」
「ふむ、ならばお主は村人にあったなら、稀人であることを言い立てるがよい。我は警戒されないように人間の言葉は話さないようにする。」
「今、イシャに話さないようにされても、やはり困るよ。」
「ではここで、念話の修行をするべきだな。お主、我の血を飲め、我もお主の血をなめる。それで念話はつながりやすくなる。」
初耳だが、そんなものかと思い、ナイフで俺の指を切りイシャになめさせる。イシャは自分の前足に噛みついて血を出し、俺になめさせた。
(さて、互いに血をなめ合ったわけだが。我の言葉は聞こえるか?)
俺は頭の中で響くイシャの声にびっくりしながら答えた。
「ああ、聞こえる。これが念話か。びっくりした。」
(声に出さずともよい。頭の中で考えるのだ。)
(そうか、こうやって考えればいいのか?)
(ああ、それでよい。お主の考えがよくわかる。)
(あの、これって、心のすべてがわかるのか?)
(そんなわけはない。お主が我に問いたいことを頭に思い受かべれば通じるのだ。村のメスに懸想したとしても、我に言おうと思わなければ、我にはとどかぬ。)
それ、嘘だよね。絶対全部筒抜けだよね。
(そんなことはない。我にもお主の気持ちがわからぬことがある。)
わあー。やっぱり筒抜けだ。これは、まずいかも。
(何もまずいことなどない。これでお主と我の絆が深まったのだ。)
絆って、自由が奪われる、ていう意味だって知っていた?
(そういう一面もあるな。だが、今は問題ない。)
問題ありまくりだよー!・・・俺の心の絶叫はイシャに華麗にスルーされた。