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竹刀の剣士、異世界で無双する その18 反省

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18 反省


 やらかした。ここは日本とは違う、異世界だ。日本の伝統文化の上にのった剣道指導は、通用しない。考えてみれば、わかるはずだった。でも、俺は考えることを怠った。「鼻っ柱が強い?」「自分で考える子?」「強さにどん欲な子?」よくもまあ、上から目線で判断したものだ。俺は、自分の頬をひっぱたいてやりたくなった。剣道とはどんなものかを全く知らない状況で、いきなり足さばきを稽古しろだなんて、普通は嫌がるか疑うのが当たり前だ。そんなことさえ思いやれずに、俺は初日の稽古を強行した。何が人間形成だ。俺のしたことは、傲慢以外の何物でもない。そして、副団長のシラックさんを犠牲にした。本当に申し訳なく、恥ずかしい。

 稽古の後、俺は村長からあてがわれた離れの部屋で身もだえていた。ティングとリーファの疑問に答える形で、シラックさんと模擬戦をしたのだが、後から考えると、自分の浅さがよく見えてきた。このままではいけない。このまま稽古を続けても、一定の強さにはなれるだろう。でも、それではこの村の人たちが、俺に依存してしまうことになる。剣道は師に依存するものではない。師の教えを基に、自分で道を切り開くものだ。だから、剣術ではなく剣道なのだ。俺の教え方は、村の人たちから、考えることを奪い、俺にひれ伏させるだけだった。

 悶々としていた時、イシャが声をかけてきた。


「ヨウスケよ。どうした?何を困っておる?」


 俺は悩んでいたことを話した。


「ふむ、お主は群れの長にはなりたくないようだの?」


「えっ?どういうこと?」


「そのまんまだ。群れの長は、群れの行動にすべての責任を持つ。それは、長の決定に必ず従うことを要求する。しかし、長の行動が群れの利益に反した場合は、群れは長を排除することができる。長は、そういう責任を持つのだ。群れの仲間が自分で考えて行動するなら、長はいらん。そやつの行動は、そやつの責任だ。そやつが狩りに失敗して死のうと、知ったことではない。しかし長が指示して、その結果、群れの仲間が死んだときは、長は責任を取らなければならん。わしは、ヨウスケとの戦いに敗れた。だから、責任を取り、群れをムシャに託したのだ。」


 あの、群れの長の交代劇にはそんな深い意味があったんだ。初めて知った。


「まあ、狼と人間では長の在り方も違うと思うがな。お主には人間の長の、ほれ、村長のコサロと言ったやつがおるだろう。難しいことはそいつに任せれば良いのではないか?

 それに、今日のシラックとかいう者との対戦も興味深かったぞ。足さばきという技だけで、あそこまで戦えるとは思わんかった。わしら、狼はどうすればあのように戦えるのだ?」


 相変わらず、イシャは戦いには目がないな。でも、少し気が楽になった。


「ありがとう。

 狼はもともとの身体能力が高いから、足さばきを練習する必要はあまりないと思うよ。ただ、相手の攻撃を読むことは大事だと思う。」


「それだ!どうしたら、相手の攻撃を読めるのだ?」


「う~ん。俺の場合は、相手の構えや、重心の位置、力の入り具合を見て動きを予測するかな。それと、相手の視線を見ることもあるな。人間の場合は攻撃する場所に視線を集中することが多いから、視線を見るとどこを狙っているのかある程度わかるよ。」


「なるほど。しかし、門番長のグリッツや副団長のシラックほどの使い手では、視線を読むのは難しいのではないか?現に、お主も視線を読んではおらんかったようだが?」


「よく見ているな。その通りだよ。あの二人は本当に強い。視線を読むことはできなかった。」


「では、なぜ、あそこまで一方的に勝てたのだ?」


「一方的に見えたかもしれないけど、そうじゃないんだ。本当にすれすれのところだったんだ。俺は、構えからある程度予測するけど、十分じゃない。そういう時はあえて自分から間合いを詰めて、相手に仕掛けさせるんだ。相手が動いたとき、その動きから相手の攻撃を予測して対処するんだ。」


「ほう、相手にあえて攻撃させるのか。狼の狩りでは考えられんことだ。」


「門番長のグリッツさんは、右足に重心をかけ、左足を浮かせた。だから、蹴りが来ると分かった。副団長のシラックさんは、俺が間合いを詰めたとき、木剣を自分の右斜め上に振りかぶった。だから袈裟切りが来ると分かったんだ。」


「それは、かなりの賭けではないか?予測が外れることもあるだろう?」


「そうだね。相手が俺の予測を上回る動きをすることもある。そういう時は本当にどうしようもない。どうにか最初の一撃を防げればいい、と思っているよ。俺も師匠の剣持先生からは一本も取れていないんだ。あの人は、俺の予測のことごとくを外してくるから。でも、色々なタイプの相手と稽古していくうちに、だんだんと読みが当たるようになっていくんだよ。」


「ふむ、経験が重要ということか。」


「その通り。いろいろな相手と工夫しながら立ち会えるから、剣道は進化するんだ。」


「では、その進化とやらを村の皆に見せれば良いのではないか?」


 ここで、俺の悩みに戻ってきた。こういう風に思考を誘導されるのは悔しいけど、イシャはさすがだ。一つの群れを率いていただけのことはある。


「なるほど、そういうことか。ありがとう、イシャ。何か、考えがまとまりそうだ。」


「それならばよい。」


そう言って、イシャは部屋の隅で丸くなった。


 俺は考えて、剣道の技のつながりを図にしてみることにした。


 足さばき

 歩み足ー送り足ー速い送り足ー八方足さばきー一足一刀の間合いー踏み込み


 一本技

 一足一刀からの面ー遠間から詰めての面ー鍔迫り合いからの引き面

 一足一刀からの小手ー遠間から詰めての小手ー鍔迫り合いからの引き小手

 一足一刀からの胴ー遠間から詰めての胴ー鍔迫り合いからの引き胴


 連続技

 一足一刀からの小手・面ー一足一刀からの面・面ー一足一刀からの面・胴

 遠間から、上記と同じ技

 小手・面・胴の連続

 小手・面の九連続

 左右面の九連続ー切り返し


 応じ技

 小手抜き面ー面抜き面ー面抜き胴

 小手すりあげ面ー面すりあげ面

 小手打ち落とし面ー胴打ち落とし面ー面打ち落とし面


 仕掛け技

 払い面ー払い小手ー払い胴


 これを一覧表にして、村のみんなに見せ、どんな技なのかを見せてイメージを持ってもらうことにした。そのためには、打ち込みの相手が必要になる。俺は、副団長のシラックさんにお願いして、打ち込み稽古の相手をしてもらうことにした。門番長のグリッツさんは、門番の仕事のほかに兵士の教育や統率で忙しいと聞いていたからだ。

 翌日から、普段の稽古は足さばきのみとし、全体稽古が終わってから、シラックさんとの特訓をお願いすることにした。村長さんを通してシラックさんへのお願いを伝えると、シラックさんは快く引き受けてくれた。グリッツさんは、自分よりシラックさんが早く技を覚えることに複雑な思いがあったそうだが、最終的には許可を出してくれた。

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