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竹刀の剣士、異世界で無双する 17 ティングとリーファ

17 ティングとリーファ


 僕はティング、10歳だ。父さんヨナスと言って、村で猟師をしている。近くの森に入っては、ウサギや鳥を取ってくるんだ。母さんは針子だ。キエルさんの布工房に勤めている。最近新しい注文が村長さんから入ったそうで、とても忙しいんだ。そんな僕は、近所の子どもたちを集めて村の雑用をしている。ごみを捨てに行ったり、畑の雑草を取ったり、村の柵を点検して傷んでいるところを門番に報告したり、結構忙しいんだ。僕の家は村の南側にあり、森に近い。近所の子どもは僕を入れて15人。6歳から10歳までだ。その中に同い年で幼馴染のリーファもいる。

 ある日、いつもと同じように畑の雑草取りをしていたら、村長さんが呼んでいるって聞いた。仕事を終わらせて村長さんの家に行くと、僕たちだけじゃなく、村の東、西、北の子どもたちも集められていた。何だろうと思いながら村長さんの庭に集まっていると、リーファが話しかけてきた。

「ねえ、ティング。これって、あれじゃない?この前噂になってたやつ。」

ああ、そうか。4日ほど前から、村に稀人が来たって噂を聞いていた。

「あの、稀人の話だね。でも、それが僕らに何の関係があるのかな?」

「そうね、よくわからないけど。私の父さんの話じゃ、稀人さんはめちゃくちゃ強いんだって。」

リーファの父さんは門番の一人だ。確か副団長のシラックさんの班にいるって聞いた。

「へえ、リーファの父さんの情報なら、あてになるかな?」

リーファは女の子だけど結構強い。力よりスピードタイプだ。将来は女兵士になりたいって言っていた。もちろん、ぼくも将来は兵士になって村を守りたい。この村では、強いことが将来の道を開くために重要だ。だから、女の人でも強い人は兵士になる。

 そんな話をしていると、家の中から村長さんが出てきた。

「みんな、急に集まってもらってすまんのう。大切な話があるんじゃ。」

村長さんは村で一番偉い人なのに、ぼくたち子どもにもとても丁寧に話してくれる。決して威張ったりしないんだ。

「みんなも、うわさで聞いておるじゃろうが、この村に200年ぶりに稀人が現れた。その人は、ヨウスケ殿という。戦いの達人じゃ。わしもこの目でヨウスケ殿の技を見た。門番長が一瞬で負けたんじゃ。」

 おおーっとどよめきが上がる。門番長のグリッツさんは、この村で一番強い。去年の闘技大会ではイーファンド地区大会の準々決勝まで行ったんだ。そんな人を一瞬で打ち破るなんて、信じられない。

「村長、いくら何でもグリッツさんを一瞬で負かすなんて、ありえないでしょう。」

東の子どもグループのまとめ役、ランスが手を挙げながら発言した。ランスは13歳。あと2年したら兵士になる予定だ。グリッツさんだけじゃなく、門番兵士の人たちと時々練習しているのを見たことがある。この村の子どもグループの中では、一番強い。ランスの声を聞いた東の子どもたちも、うんうんとうなずいている。

「そうじゃな、話を聞いただけでは信じられんのも無理はない。じゃが、これは本当じゃ。わしもその場におったからの。正直わしも、何が起こったのかさっぱりわからんかった。グリッツがヨウスケ殿に向かって蹴りを入れようとした途端、グリッツの足と手首がはね飛んで、グリッツの木剣が落とされたのじゃ。」

「ほんとかよ・・・・。」

「あの、グリッツさんが・・・。」

「そんなことって・・あるのかな?」

子どもたちは、思い思いに仲間とささやき合っている。信じられない気持ちは、ぼくも同じだ。となりのリーファも難しい顔をしている。

「そこでじゃ、わしはヨウスケ殿にこの村のことを伝え、村のみんなにヨウスケ殿の技を教えてもらうようお願いしたんじゃ。ヨウスケ殿は、快く引き受けてくださった。」

村長さんは、どんどん話を進める。みんな戸惑っているようだ。

「ただしじゃ。条件がある。」

「条件?」

ランスが聞き返す。僕も同じことを思った。

「そうじゃ。ヨウスケ殿が言うには、この技は本当に強い。じゃから、強くなっても村のため、家族のためにこの技を使う人にしか教えられん、ということじゃ。強さを自分のために使うもの、誰かに乱暴をするようなものには教えられんというわけじゃ。」

「俺は、強くなって、村を助けたい。」

ランスが真っ先に声を上げた。

「僕も、村を守りたい。」

「わたしも。」

僕とリーファも思わず声を上げた。ほかにも何人かの子どもたちが声を上げている。

「この村の子どもたちは、良い子ばかりじゃ。わしゃ、うれしいぞ。じゃあ、ヨウスケ殿の技を習いたいものはここに並んで、この名簿に名前を書くんじゃ。」

村長さんの指示で、ぼくたちは一列に並んだ。体が弱くて、戦う自信のない子ども以外全員が並んだ。文字が書けない子は、メイドさんが代わって書いてくれた。

「ヨウスケ殿の稽古は、3日後から始まる。場所は村の集会場じゃ。始まりは朝3つの鐘。遅れるでないぞ。」

 こうして、ぼくたちはヨウスケさんの稽古を受けることになった。


 そして、3日後。朝、夜明けとともに起きて、ぼくは南の子どもたちを連れて集会場に向かった。ヨウスケさんって、どんな人だろう?どんな技を教えてくれるんだろう?本当に強くなれるのかな?そんなことをリーファと話しながら歩いた。

 集会場につくと、靴を脱いで、裸足になって中に入れという。なんで裸足?と思いながらも、靴を脱いだ。床が冷たくて、思わず足踏みしてしまう。これは辛いかも、と思った。会場に入ると、正面に大きな垂れ幕があり、何か書いてある。僕もリーファも読み書きは習ってないので、何が書いているのかわからなかった。その垂れ幕の前に、一人の男の人が静かに目を閉じて座っていた。見た感じ、それほど強そうな体には見えない。隣にすわっている60を過ぎた村長さんのほうがよほど体が大きい。この人がヨウスケさん?疑問に思いながらもみんなと一緒に村長さんのほうに集まる。

 村長さんの呼びかけで、みんな思い思いに座った。それまで、静かに目を閉じていた男の人がゆっくりと目を開いて皆を見回した。それだけで、何か威圧されるような感じがした。よく見ると、男の人の後ろに大きな狼が箱座りをしている。まったく動かなかったので気が付かなかった。

 男の人はやはりヨウスケさんだった。自己紹介の後、よくわからない話を聞き、「礼」というのを教えられた。正直、これが大切だとは思えなかった。でも、ヨウスケさんは大切なことだと言っていた。

 そのあと、立ち方。足の動かし方を練習した。普通の歩き方じゃないので、少し戸惑った。会場にいるのは大人と子どもが半々ぐらいだったけど、みんなも戸惑っているようだった。雑巾を踏んで床の上を滑ったり、前後に動いたり・・・。本当にこんなことで強くなれるのかなあ?すごい技をいつ教えてくれるのだろう?と思いながら練習した。

 日が昇り、もうすぐ朝食の時間になった。ヨウスケさんは今日の練習はこれまで、と言った。

 えっ?これだけ?歩き方だけじゃん?技は?グリッツさんに勝った技は?そんな混乱でみんな少しざわめいた。僕は思い切って質問することにした。

「先生。こんな練習で、本当に強くなれるんですか?」

怒られるかと思った。びくびくした。でも、確かめなければ。そんな気持ちだった。隣のリーファもうんうんとうなずいてくれた。


 怒られなかった。それよりすごかった。先生は副団長のシラックさんを相手に、本当に歩き方だけで勝ってしまった。シラックさんの強さはよく知っている。団長のグリッツさんほどじゃないけど、イーファンド地区大会で何回か勝っている。僕も練習させてもらったことがあるけど、本当に大人と子どもの差がある。森にイノシシが出たときは、一番先頭に立って戦うんだ。そんなシラックさんの本気の打ち込みをやすやすとかわして、追い詰めるなんて。一体何が起こったのか?ただ、歩くだけで勝てる?そんなのおとぎ話だ。こんな話をしても誰も信じないだろう。でも、現実なんだ。僕はこの目で見たんだ。隣のリーファも呆然と目を開いていた。集まってきたみんなも同じだ。

「みなさんも、できるようになりますよ。」

本当か?本当にできるのか?

よし。信じてみよう。やってみよう。

みんな、そんな気持ちだった。

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