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竹刀の剣士、異世界で無双する くつろぎ

おかげさまで、「いいね」が増えています。とてもうれしいです。これからもよろしくお願いします。

10 くつろぎ




「今夜は、村の集会所で稀人殿と狼殿の歓迎の宴席を設けました。ぜひ、楽しんでください。」


村長の家に案内され、客室に通されたとき、村長からこう言われた。


「えっ?宴席って・・、私は堅苦しいのは苦手でして・・。」


「まあまあ、こんな辺境の村ですが、今年は豊作でしたから、料理はおいしいですよ。」


そう言われれば、ここ数日生臭い獣肉しか食べていなかった。今さらのように空腹感を思い出す。


「分かりました。そうだ、ちょっと待ってください。」


俺は防具鞄に、森でイシャがとってくれた肉を詰めてあることを思い出した。鞄のポケットから木の葉に包んだ肉を取り出し、テーブルに乗せる。


「これは、森でこの狼が狩ってくれた獲物です。どうか宴席で使ってください。」


「こんなにも?さすが狼殿。狩りは得意のようですな。では、遠慮なくいただきましょう。」


村長はドアのほうを向いて、「おーい。」と声をかける。するとドアの向こうから若い女性が出てきた。年のころは十代後半に見える、金髪を後ろでポニーテールに結んだ、きりっとした美人さんだ。現代日本のアクション女優、綾〇は〇かさんに似た雰囲気だ。服は茶色いワンピースを着ている。


「この肉を、今夜の宴席の材料に使いなさい。」


「承知しました。」


美人さんは頷くと、持っていたお盆に肉を乗せていく。


「では、失礼します。」


美人さんは声をかけると、部屋から出ていった。


「えっと、今の方は?」


何せ、目の前に突然金髪の美人さんが現れたのだ。しかも、俺がひそかに憧れていた〇瀬〇るかさんに似ている。俺はびっくりしていた。


「ああ、うちの女中ですよ。メリサと言います。これからは、ヨウスケ殿のお世話をしますので、よろしくお願いします。」


女中?・・・メイドか!でも、メイド服を着ていなかったぞ!そう言えば、綾〇は〇かさんは空手の稽古着とか、革鎧とかが似合っていたよな。映画の「精〇の〇り人」なんか、あの、短槍での立ち回りは最高だった。セーラー服やキャビンアテンダントの制服も似合っていたな。もしあの人がメイド服だったら、すっげーかっこいいよな。いや、まて、ここに居るのはメリサさんだ。〇瀬はる〇さんじゃない。混乱するな、落ち着け、俺。

 でも、せっかくあんなかっこいい人なのに、メイド服じゃないなんて・・・!まてまて、まだ混乱しているぞ。落ち着け!深呼吸だ!スーハー、スーハー。

 よし、落ち着いた。状況を確認するぞ。ここは、現代日本じゃない。異世界だ。よし、そこまではOKだ。そして、あの美人さんはアクション女優じゃない、メイドさんだ。よし、納得した。メイドさんがどれだけ似ていようと、女優の綾〇は〇かさんとは関係ない。よし、これも確認した。そして、メイドのメリサさんは、俺の世話をする。ええっ?俺の世話?それって、何をするの?もしかして、あんなことや、こんなこと?いや、まて、興奮するな!いくら、憧れの人に似ているからって、考えが飛躍しすぎだ。俺には元の世界に妻も子どももいるだろう。いい年をして、何を考えているのだ!この、大バカ者!スーハー、スーハー・・・・・。俺が絶賛混乱中で身もだえていると、


(お主。メイドとか、メイド服とかは、なんじゃ。強いのか?)


強さにしか興味のないイシャが、念話で突っ込んできた。


(・・・メイドの話はあとで。)


と、とりあえずイシャに念話を送った。ほう、と息をつく。イシャのおかげでいくらか落ち着けた。慌てたそぶりを隠して、村長に話しかける。


「肉を使っていただきありがとうございます。でも、宴席に着ていく服がないのです。身一つでこの世界に放り込まれたので。」


「なるほど、それもそうですな。では、服は後程届けさせましょう。でも、村の者はみなヨウスケ殿の武勇伝を聞きたがっております。今のその姿でよいのでは?」


そういわれて、俺は自分の格好を見下ろす。稽古着に袴を着け、胴・垂れをつけている。そういえば門番長のグリッツさんと試合をした後、着替えることもなくそのまま来たんだった。袴って腰をギュッと締めるから、あまりたくさん食べられないんだよな・・。と思いつつも、村人が望むなら、何か今後の状況にプラスになればと思い、この格好で宴席に出ることにした。


 部屋でイシャとくつろぐ。部屋は6畳くらいの広さで、床は板張り。端にベッドがあり、部屋の中央に丸いしゃれたカーペットが敷いてあり、椅子とテーブルが置いてある。俺は元のスーツに着替え、テーブルについて、お茶を飲む。お茶は、先ほどのメリサさんと言うメイドさんが持ってきてくれた。このタイプの美人さんには弱い。再び混乱しそうになるところを、ぐっとこらえた。

 イシャは、俺の足元のカーペットに伏せている。お茶は、現代日本の紅茶のような風味がした。俺はお茶には詳しくないが、この世界の文明度から見ると、かなり高価なものなのだろう。


 村長に案内されて、村を歩いていた時のことを思い出す。建物はほとんどは平屋建てで、2階があるのはこの村長宅ぐらいのものだ。土台に石を積み、その上に木材で建屋を作ってある。窓はガラスではなく板がはまっていた。屋根は板葺き《いたぶき》だ。村長の家だけは、薄い金属板で屋根をいていた。ここでは「瓦」は存在しないらしい。そういえば、俺が飲んでいるお茶も木製のコップに入っている。瓦どころか、「陶器」とか「磁器」というものもないのかもしれない。村人は、ズボンに厚手のシャツ、丈がひざ上まであるからチュニックっていうんだっけ、そんな格好だ。柄物の布はなく、ほとんどが生成り色か、茶色っぽい色だった。あれは草木染だろう。となると染料も少ないことになる。当然水道はなく、井戸で水をくんでいた。おそらくガスや電気もないのだろう。全体としてファンタジー小説によく出てくる中世ヨーロッパ風の世界だった。焼き物がなく染料が乏しいのに、金属製品は豊富にあるようで、道行く人たちは金属製のクワやスキを担いでいた。建築中の建物を見たとき、大工さんがノコギリや金づちを使っているのが見えた。あと、トイレだ。ここでは汲み取り式だった。一月に一度、村人が交代で村中の家から汲み取り、農場近くの肥溜めに運んでいるらしい。


(なあ、どんな食べ物が出るんだろうな。楽しみだな。)


俺はイシャに念話で話しかける。


(ふむ、我は食にはあまりこだわりがない。新鮮な獲物があればそれでよい。何も食べなくとも、一週間ぐらいなら問題ないしな。)


(そうなのか、さすがは狼だな。俺は、この世界で初めての食べ物らしい食べ物で、楽しみだ。あっ、でも、森の中でイシャが俺を養ってくれたことには感謝しているよ。お前がいなかったら、俺はとっくに飢え死にしていただろうし。)


(うむ。まあ、我がお主についていくと決めたのだしな・・・。)


イシャはプイっと横を向いた。結構照れ屋らしい。


(うん?照れてなんぞおらぬぞ。我は、我の獲物を狩っただけだ。その残りをどうしようと我には関係ない。)


うん、こういうのってツンデレっていうんだよな。とこっそりと笑う。


(む?なんじゃそのツンデレとは?何か馬鹿にされたような響きに聞こえるが?)


イシャが本気で怒りそうになったので、慌てて話題を変える。


(そういえば、さっきの試合さ。)


(うん?なんじゃ?)


(あの門番長のグリッツさん。イシャから見て強いと思った?)


(いや、しょせん人間であるからな。狼の感覚では5・6歳の子狼ぐらいだと思ったぞ。)


(でも、あの筋肉は本物だよね。ホントに太い腕だった。)


(ふむ、膂力りょりょくという面からだけなら、40歳ぐらいの若い狼ぐらいかのう。)


(だよね。力勝負なら、俺はかなわないだろうな。もう一人の門番さん、シラックさんだっけ。あの人も腕や胸の筋肉はすごかったねえ。)


(そうだな。それに、村長もだ。今は老人じゃから大したことないように見えるが、若いときはかなりの力があったようだぞ。)


(うん、俺も気になっていた。老人って言っても、胸はかなり厚かったよね。若いころはすごい筋肉だったろうね。それに、ここに来るときにすれ違った村人たち、男の人が多かったけど、みんな胸や腕がすごかったよね。)


(そうだな、人間はあのように育つものなのか?)


(いやいや、自然にはならないよ、鍛えないとあの筋肉はつかない・・はず?)


そうだ、ここは俺の知っている世界ではない。だから、俺の常識で判断しちゃダメな気がする。


(うむ、お主はあそこまでの筋肉は持っておらんな。)


でも、それは俺がこの世界の人間じゃないから、という理由かもしれない。


(まあ、我も人間をじっくり見るのは初めてじゃ。早急に結論を出さんでもよかろう。)


そうだな、イシャの言うとおりだ。


(ところで、ヨウスケよ。今日お主が使った技、二段技とか言ったが、あれは誰でもが使えるものなのか?)


急に剣道の話になった。イシャは戦いの技術に目覚めたようだ。


(うん、俺の世界では子どもでも使っているよ。)


(そっ、そうなのか!我は攻撃を連続させるという考えがなかった。そもそも、一撃で仕留められない獲物などいなかったからな。)


(そうだね。森で獲物を仕留める時は、いつも一撃だったね。前に話してたハイイログマだっけ?そいつと戦った時も一撃勝負だったの?)


(そうだ、群れで囲んで、順に一撃を加えたのだ。しかし、ハイイログマは恐ろしく硬いやつでの、我らの一撃が通らんかったのだ。)


(なるほど、硬い相手はやりにくいよね。だったら、この前も言ったように首だけじゃなくて足首や手首、尻尾といったいろいろなところを攻めてみないと、弱点がわからないよね。それと連続技も使えると思うよ。ああ、狼は牙のほかに両前足の爪もあるんだから、同時に3か所を攻撃することもできるよね。それを連続させれば、6連撃とか、9連撃もできちゃうかも。)


(ぬっ?同時に3か所を狙うのか・・。考えてもみなかったわ。)


(3か所同時攻撃っていっても、よく練習しないと全部の攻撃が弱くなるだけだよ。始めは意識して1か所ずつ爪と牙で違うところを攻撃するんだ。段々慣れてきたら2か所同時にやってみる。それも慣れたら今度は3か所同時に攻撃するんだ。それと、連続技は足を止めたらだめだからね、相手の動きに合わせて常に動きながら技を出すんだ。)


(簡単に言ってくれるが、難しいぞ。イメージができん。)


(じゃあ、今度一緒に稽古しようか。)


(おお、それはありがたい。お主のおかげで、我はもっと強くなれるのだな。)


ホントに、イシャは強くなることには貪欲だよね。

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