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巫女姫剣士浪漫譚 さくら姫 舞う  作者: 藤井ことなり
第二章 それぞれのひと月
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籠牢の戦い

──時を戻し、地下牢座敷に閉じ込められたさくら姫が毒を盛られているのに気づいた日、ここから自力で出るか助けを求めなくてはならぬと決意していた。


 さくら姫は辺りをあらためて見まわすが、やはり何もない。手持ちに何があるかをあらためる。


髪止め、かんざし、髪を纏めている布、愛用の扇子、懐紙それと身につけている長着、袴、襦袢、晒、足袋と褌。


──これでは何も出来ん……わけでもないな──


 さくら姫は膳の食べ物に謝ると、懐紙に移し厠に棄てる。そして空の膳を格子近くに置き、自分は座敷の真ん中で背を向け正座する。


 四半刻くらいして牢番がやってきた。膳を下げる時にさくら姫は振り返り、牢番に食って掛かるように大声で言う。


「瀬月を、爺を呼べ。爺を呼べ、爺を呼ばぬかっ」


 牢番は慌てて空膳を持って逃げるように帰っていく。


 座敷牢の外は畳三畳分くらいの通路で、出口は直角に右に折れ、畳一畳分の通路の先の階段を上がるようになっている。牢番の足音が聴こえなくなり、気配がなくなると、あらためて持ち物を畳の上に並べる。


「さてと」


髪止めが二つ

 これはどちらも銀の棒を仕込んだ物である。

 かんざしは七寸ほどの長さで、両刃の形で朱色の玉が付いている。切るは出来ないが、紙を裂くとか突き刺す武器にはなる。そしてなにより玉の中だ。

 少し大振りの玉は中が空洞になっており、いくつかの丸薬が入っている。

 丸薬は三種類で、一つはおしのに使った眠り薬、一つは毒消し、そしてもう一つは兵糧丸。それらが三つづつ入っている。


 髪を纏めている布。

 白い綿のもので、巾三寸で二尺ほどの長さ。


 愛用の扇子。

 子供の頃、叔母から貰ったもので大分くたびれている。なぜか男物。


 懐紙は女物で、ほぼひと束分ある。


──ふむ、とりあえずいま役に立つのは、兵糧丸と毒消しだな。たしか兵糧丸はひと粒で一食分だったな、節約して一日ひと粒として三日分か──


 さくら姫は、ひと粒口の中に放り込む。そして並べた持ち物をふたたび身に付けると、立ち上がって牢の上のほうにある明かり取りに近づく。


──やはり高いな──


 高さはさくら姫の三人分ほどの高さはあり、石造りの壁だがでこぼこも隙間ない。とても登れそうになかった。

 ひょっとしたらと思い、襦袢の上をはだき胸に巻いていた晒をほどいて投げてみる。


──駄目か──


 長さも足りないし、明かり取りに届きもせず、へろへろと落ちてきただけだった。


──ここから自分のちからで出るのは無理か──


 今すぐ抜け出すのを諦めせっかく身に着けたものを外して襦袢だけとなると晒をたたみ、畳んだ長着と袴のところに置き、ふて寝する。


──牢番を騙して扉を開けさせて出るしかないか。ならどう騙す。苦しんだふりをするか。しかしそれは毒のためと思われるだけだろうな。ならば……──


「……色仕掛けか」


 牢番の姿を思い浮かべる。少し白髪混じりの初老の男で、腰も少し曲がっている。痩せぎみの身体で、顔はまあふつうか。


「しかしなあ」


──やり方がわからん──


 はなおか一座の女芸者に教えてもらったことを思い出し、上半身を起こし、少し横座りして足元の襦袢をはだけ白い足をちらりと見せ、片方の肩の肌を出しは髪を少し口に咥えてみる。


──たしかこんな感じだったような気がする、それでうふんとか言いながら目を流すんじゃったのう──

 ついと目を流すといつの間にか牢の外に来ていた牢番と目があった。


「うわあ」


 顔を真っ赤にし、慌てて居ずまいを正し正座する。

 呆気にとられていた牢番は無言で、持ってきた水瓶と柄杓を置くと去っていった。


 色仕掛けはやめよう、さくら姫はそう心に堅く誓った。


※ ※ ※ ※ ※


 門番が持ってきた水瓶の中はなみなみと入っていたが、髪止めの銀で試すと、やはり毒が入っていた。

正直、喉は渇いている。しかも目の前に置かれたせいでよけいに渇いてきた。


──意地の悪いやり方だな。爺め、こんな意地悪なやつとは思わなんだぞ──


 さくら姫が、ぶすっとすると、ふと疑問が浮かんだ。



──爺らしくない──



 さくら姫は、おやと思い考えをめぐらせる。


──爺なら、わらわの知っている爺なら、こんな事をしない。まてまてまて、ひょっとして何か思い違いをしているのではないか。思い返せ、何がどうしてこうなったかを──


──座敷牢に入れられたのは、城を脱け出したからだ。なぜ脱け出したかというと、平助が死んだと聞かされたからだ。誰から聞かされた、爺だ。


ん?


おかしいぞ


 その前はひと月ほど城から出られなかった。

 なぜ出られなかった、爺が上意でとめたからだ。

 なぜ上意をしてまでとめたかというと、黄昏の森の事を知ったからだ。だから……──


「違うぞ、そうじゃない」


──城から出るのを止めたのは、きさらぎであって爺ではない。爺は諌めはしても、最後にはしょうがないですなと言って笑ってた。

 だがいつからか、きさらぎと同じように遊びに行くのを駄目だ、と止めるようになっていた。


 なぜ止めるようになった──

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