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巫女姫剣士浪漫譚 さくら姫 舞う  作者: 藤井ことなり
第二章 それぞれのひと月
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クラとの再会

 平助の人懐っこい性格のおかげでたえは少し心を許したのか、ぽつりぽつりと今までのことを話しはじめた。

 住んでいるところは中村で母はナカ、父は──ここでまた泣きはじめたので落ちつかせると、なんと父に売られてしまったという。


「お父は働かなくて……お母と喧嘩ばかりして……」


 よくわからないけど、昨日の昼に母がいないときに連れ出され知らない男に売られたという。


「本当に売られたの」


「たぶん……お父、銭をもらってたから……」


「それからここに」


「……うん、男にひっぱられてここまで来て、神主様にまた売られたの」


  話を聞きながら、中村のたえとナカ……どこかで聞いたような気がするなと思い出していた。


「それからね、お社の中に連れられて閉じこめられていたの」


「たえちゃんだけで」


「ううん、女の子がいた。でも何処かに連れてかれてから見てないの」


 平助は着物の切れ端を思い出し、それを見せようとしたときだった。突如、戸を蹴破られ戻ってきた禰宜達にロウソクの灯りで照らされる。


「いたぞ、小屋に隠れていたぞ」


「小僧、その娘を渡せ」


「いやだぁ、やだやだやだやだ、いやだー」


 平助にすがりつくたえ。こんなとき、さくら姫や兄貴分の林太ならすぐにどうするか決められるのに、平助は迷ってしまう。渡すか渡さぬか、御役目か自分の気持ちか……。


 すがりつくたえに、さくら姫をみる。


「そうだな、姫様ならそうするよな」


 意を決して平助は袂に隠し持っていた土礫をロウソクに向けて打つ。持ち手に当たり、痛いとロウソクを落として火が消え、続けて残りのロウソク持ち手に打ち、小屋の中がふたたび暗くなると平助はたえを抱きかかえ、後ろに下がる。

 その背にはむしろで塞いだだけの壁があり、そこから外へ抜け出すと一旦様子を見る。


 暗闇の小屋の中では勝手がわからぬと、禰宜達は手当たり次第に探りまわす。


「居たぞ、捕まえた」


「離せ、たわけ、それは俺の足だ」


「道理で毛むくじゃらなわけだ」


「遊ぶな、どこかにいるはずだ探せ」


 まだ小屋の中を探すとふんだ平助は、たえを抱きかかえ音もなくそこを去る。

 こうなってしまってはここに居てもしょうがない。平助はとりあえず城下町に戻ることにした。


 弐ノ宮の真ん中辺りにある稲置街道に続く道に出ると、西に向かって走り出す。だがどういうわけだか塞がれていた。間違いなくこの道のはずなのに、森で塞がれて行き止まりになっているのだ。


「間違えたのか? いや、そんなはずはないのに……」


南も西も森。東に戻るわけにはいかない。となると北側だけだが──。


 平助の足が震える、北側は溜め池なのだ。おそらくそんなに深くはないだろう。だが平助にはそれでも堪えられなかった。


 戸惑っている間に、気がついた禰宜達が追いついてきた。窮地、平助は追いつめられ袂に隠し持った小刀を握りしめる。禰宜達を殺るしかない、しかしそれではさくら姫との約束を破ることになる。たえを抱きかかえながら、おろおろしかけたその時だった。


「貴様らぁ、娘を何処にやったぁ」


 地鳴りかとおもわんばかりの怒号が夜空に響き渡った。


「えっ? この声って」


 禰宜達の後ろから大男が斧を片手に駆けてくる。平助は間違いないと思うと大声で叫んだ。


「おっさん、ここだ。娘はここにいるぞー」


 大男は一瞬の間をおいて問い返す。


「平助、その声は平助か」


「俺らだ、おっさん。娘は俺らが預かってる、無事だぞー」


 大男は鍛冶屋のクラこと鍛冶屋蔵人であった。


「よくやった平助、今そこに行くからな」


 禰宜達を伐採するかのごとく斧を振り回すクラに恐れをなした禰宜達は、溜め池に落ちたり這いつくばって避ける。

 平助らしき人影を見つけると、くるりと踵を返し禰宜達を威嚇する。


「平助、どうしてここに」


「おっさんこそ。俺らは役目でここに来たんだ、そっちは」


「おたえちゃんを探しに来た。おたえちゃん、鍛冶屋のクラだよ、お母に頼まれて取り返しに来た」


「おじちゃん」


たえの声に喜びが宿っていた。


「平助、ここを逃げ出すぞ」


「おう。ってもどうしていいか分かんないんだ。この道はたしかに繋がってたはずなのに、行き止まりになってんだよ」


「ふん、小細工を。平助、どけ、追っ手に気をつけながら離れていろ」


 クラは行き止まりに向かって立つと斧を振りかぶって一気に振り下ろす。

 バキバキバキと伐り倒される森、その下の道は続いていた。


「やはり目くらましか。平助、木や草にも気をつけろ。儂が道を切り開くからついてこい」


 怪力の大男が斧を振り下ろすたびに樹木の壁が削られていきどんどん道ができる。その光景を見て禰宜達が騒ぎ立てる。


「嗚呼ー、神木が、弐ノ宮の森が」

「やめろ、やめんか、罰当たりめが」

「樹様に叱られる、やめろ、やめてくれ」


 聞く耳持たぬとクラはどんどん伐採していき、平助も気をつけながらたえとともについていく。


「よし、境内を抜けた。平助、走るぞ」


「応」


 斧を片手に背荷物とともに走り出すクラについて、平助もたえを抱き上げ走る。そしてそのまま夜の闇に消えていくのであった──。

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