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魔女の遺言書  作者: はる あゆむ。
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第6話 第二次魔女狩り - 2

――――



 意を決し自宅を離れたエパルグは、道なき道を右へ左へと駆け抜け、森の中の各所に点在する小屋をしらみつぶしに確認していた。

 まだ息がある人がいたら治療を施し、すでに亡くなった人には弔いの言葉を送り、中には小屋自体が全壊しているものもあった。

 そうしていくうちに、森の端まで近づいていたエパルグはさらなる帝国騎士たちの存在も確認していた。

 帝国騎士たちは森を囲むようにして侵攻してきており、もはや逃げ切る事は叶わないのだとエパルグは顔をしかめながら悟った。

 そして、エパルグは何かの目的を果たすかのようにさらに森を駆け巡った。


「早くしないと、クリムたちが……」


 そう溢しながら、走る速度をさらに上げた。

 魔法を使っているのか足には微かな光がまとわりつくように発光しており、地面についた足跡にはキラキラとした光が残っては消えていった。


 そして、最後に到着した先はこの森の中唯一存在する湖だった。

 月明りがその湖に差し込み、湖もそれに応えるかのように月明りを反射させ、見る人に安らぎを与えるような光景となっていた。

 エパルグを駆り立てる焦燥感もその光景を目の当たりにし、少しだけ和らいだ。

 エパルグは走り続けて切れていた息を整えるため一度深呼吸をした後、おもむろに湖のほとりに指を使い魔法陣を描き出した。

 しかし、誓約式魔法の儀の時とは違って魔力は込められてはいるが、その魔法陣が光り輝くという事はなかった。

 エパルグがほとりに魔法陣を描いていると、エパルグの背後から足音が聞こえてきた。


「誰だい!?」


 聞こえてくる足音に金属の擦れる音も含まれていた事から聞くまでもなかったが、願わくばクリムたちであってほしいという想いから足音を響かせる人物に声を掛けた。

 しかし、やはりというべきかエパルグの想いとは裏腹に森の暗がりから徐々に姿を現し、月明りに照らされたその人物はべリウスだった。


「あはは。昨日もお会いしましたよ、アイティ・エパルグさん」


 エパルグに向け何の変哲もない笑顔を見せてはいたが、どこか嘘くさいその笑顔にエパルグは不気味さを感じながらべリウスに向かってさらに問いただした。


「これはあんたが企てたことかい!? 目的はなんだい!?」


「あはは。そんな怖い顔しないでくださいよ。昨日も申し上げた通り、【悠久の魔法書】さえ渡してくだされば悪いようにはしませんよ」


「そんなものは無いって言っただろう!」


 エパルグはべリウスの言った【悠久の魔法書】について何かは知っているが、無いと言った事は本当なのだろう。

 昨日も話したという事もあり、苛立ちを隠せずにべリウスに向かって言い放った。

 そしてそれをべリウスも感じたのかこう続けた。


「いやね、無いなら無いで構わないんですよ。あんな物あってもらった方が困る」


「だったらなんでこんな――」


「重要なのは存在の有無ではなく、その事について知っている人間がいるという事なんですよ」


 エパルグの問いかけを遮るように、べリウスは相も変わらず不気味な笑顔を浮かべながらさらりと放った。

 そして、べリウスは歩みを進めながらエパルグに近づいていく。


「十年前、世界各地で戦争が勃発しているにも関わらず、どの国も何故か攻め込むことはせず、全くの無傷だった”魔法大国・アーリス王国”。そこに世界で初めてライリー帝国が攻め入り、その圧倒的なまでの武力と魔術力によってアーリス王国は一夜にして陥落した。人々はこれを”魔女狩り”と呼ぶ」


「それがなんだってんだい? 昔話は嫌いだよ」


 エパルグはべリウスが突如語り出した歴史に鼻であしらいながら言った。


「しかし、どの国も全く攻め込む事をしなかったアーリス王国にライリー帝国がいきなり攻め込んだのはなぜか?」


「知るわけないだろ。どうせ世界に向けての力の誇示か何かだろうさ」


「それは【悠久の魔法書】の存在に気付いたからですよ」


 エパルグは予想とは違った回答だった事についてはあまり驚かなかった。

 やはり、悠久の魔法書について何か知っているのだろう。

 エパルグの反応は想定の範囲内だと言わんばかりにべリウスは話を続けた。


「【悠久の魔法書】は世界に壮大な魔法をかけていた。自身の国を戦争に巻き込ませない為に、世界からの認識を逸らす魔法。その魔法によりアーリス王国は、戦争から逃れられていました。だが、ライリー帝国は当時魔術についてかなりの時間を労し研究を重ねておりその研究の甲斐あってか、ライリー帝国にかけられた魔法は解かれる事になり、ついにアーリス王国を墜とすことに成功した」


 そこまで話したところでべリウスは、歩みを止め腰に携えていた剣に手をかけた。

 その姿を確認したエパルグに一気に緊張が走った。


「少し話過ぎましたね。とにかく帝国は【悠久の魔法書】について知っている人間を抹殺するため、我々に命を下しました」


 そしてべリウスはゆっくりと剣を抜き、こう続けた。


「第二次魔女狩りの執行と!」


 そう叫びながら勢いよく地面を蹴りだしてエパルグに向かって剣を振りかざした。

 瞬間、エパルグも自宅で交戦した帝国騎士に使用した魔法陣を展開させ防御した。


「さすがの魔法障壁ですね。ここまで硬いとは……」


 魔法と剣で鍔迫り合いをしているような状況となりべリウスは不敵な笑みを浮かべながら称賛した。


「ですが……!」


 べリウスがそう呟き力んだ瞬間、魔法障壁はガラスが割れたような音を響かせながら破片となり崩れた。

 そして、魔法障壁によって阻まれていたべリウスの剣が、水を得た魚の如く一気に加速しエパルグの胸を切り裂いた。

 だが実際には、エパルグは寸前のところで後方へと飛び退き難を逃れ、胸ではなく服が切り裂かれていた。


「くっ……!」


「あはは。驚きましたか? これがアーリス王国の魔法を破った魔術ですよ。魔術は精霊の負の魔力を利用して発動する。特に現在の状況では我々の魔術は最大限の力を発揮する」


《武を司る精霊よ、アイティ・エパルグの名のもとに命ず。武の力を持って彼の者へ鉄槌を!》


 負けじとエパルグも魔法の詠唱するが、べリウスの四方八方へと広がった魔法陣は、現れてすぐ先ほどの魔法障壁と同じように割れるようにして崩れた。


「無駄ですよ。いくら強力な魔法を使おうと私の魔術の前では無力です」


 そう言いながらべリウスは再度エパルグに向かい斬りかかった。




――――




 カルム茸採りを中断し、自宅へと来た道を一心不乱に引き返した僕は、自分が出発した時とは違う光景に驚きを隠せなかった。


「モランじいちゃん!!」


 僕はモランじいちゃんが玄関先で倒れているのを目撃して駆け寄らずにはいられなかった。

 ばあちゃんと仲が良く、度々自宅に招いて一緒に食事をしたりしていて。僕やアイナにもすごく気さくに話しかけてくれる優しい人だった。

 僕はモランじいちゃんがすでに亡くなっている事を悟り、ばあちゃんの身も危険なのではないかと不安になり家中を探し回ったが、ばあちゃんは見当たらなかった。

 そして、家を出ると帝国騎士が横たわっているのを確認し、この場所で戦闘が起きていた事を知った。


「アイナ! ばあちゃんはどこにいるかわからないのか!?」


 僕は不安を隠しきれずアイナにばあちゃんの所在を聞いた。

 アイナは少し集中するように目を閉じ精霊の声を聞こうとしてくれたが、結局それは叶わなかった。


「ダメ! もう精霊の声はほとんど聞こえないわ!」


 アイナも焦っている様だった。

 精霊の声がほとんど聞こえないという事はもうすでにこの森には精霊が残っていないという事だ。


(一体何が起きてるんだよ……!)


 そして僕は、再び走り出したが、アイナに呼び止められた。


「ちょっと待って! あっちの方ですごい音が鳴ってる!!」


 アイナの指さすその先には、暗くなったこの森では不自然な閃光が凄まじい音と共に走っていた。

 そしてその方角はつい先日僕が、パヒカナ草を摘みに行った湖がある方角だった。

 その不自然な状況に僕は、湖で戦闘が行われているという事を悟り、アイナに「行くぞ!!」と一言呼び掛けて一目散に向かった。






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