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三年とサイドストーリー

 さて、トテくんと二人でアラタちゃんを慰めて、泣き止ませたのだが……


「――それで、ヒカリちゃんがなんて言ったと思いますか! 『レイカさんがやってたから大丈夫!』ですよ! 普通に考えて死ぬかもしれないんですから大丈夫なわけないじゃないですか!」

「……そう」

「最近は本当に帰ってくるたびに生傷を作って、いっぱい怪我をして……なのに本人は大丈夫だっていいますけど、絶対に大丈夫じゃないですし……」


 すっかり愚痴モードになってしまったアラタちゃんの話を聞いていた。

 愚痴の内容を聞いていると、明らかに俺がヒカリちゃんに無茶振りをしたのが原因なのが見て取れるので申し訳ない気持ちが芽生える。普通の人間なら死んでるし、友達がそんなのをしてるなら心配するよな……普段から無茶をしてるので勘違いするが、この世界でもレイカ様のやってることは普通にヤバいのである。

 そのまま終わらない愚痴を聞きながら、ふと気になって団長とカーマセに視線を向ける。


「ってことでよ。確かに華はねえが役者としちゃ一流だ! いやあ、舞台のクラウン伝説であの名脇役を演じた時にはしびれたってもんよ!」

「おお、よく分かっている! 彼は主演を立たせる事をしっかりと意識して出来るのだ! アクレージョくんの部下は素晴らしいな! ここまで演劇の理解が深いとは!」

「いやあ、俺も劇場のオーナーさんがまさかここまで語れるたあ思わなかったですぜ! 俺の周りにゃ芸術のげの字も理解しねえやつらが多くてなぁ!」


 すっかり意気投合してる。そこにあるのは貴族と傭兵ではなくて完全に同じ好きなものを語る同士の空気感だ。

 しかし団長の感情はとっても理解は出来る。俺もプリブレについて語れる人間と知り合った時にはああなった。最初は相手がどのくらいガチなのか見極めるためにジャブっぽく話を振るんだよな……まあ、相手が付いてこれるとヒートアップしてああなるんだけどさ。


「――だから、ヒカリちゃんは私の大切な友達なんです。でも、ヒカリちゃんは最近言うことを聞いてくれなくて……もしかして、どうでも良いと思われてるのかなって」

「……きっとヒカリさんもアラタさんの気持ちをちゃんとわかってますよ」


 と、意識を外していたレイカ様の代わりにトテくんがしっかりと話を聞いてくれていた。

 原作でも記憶にないというか、出てきた覚えのない子だが……なんというか、とても優秀で聞き上手だ。影が薄いけども。そして、内容からレイカ様からもフォローを入れる。


「そうね、私も貴方の事をヒカリからよく聞くわ。自分にはもったいないくらいにいい友達だって。だからこそ、友達と安心して過ごせるように無理をしてるはずよ」

「……本当ですか?」

「嘘は嫌いなのよ」


 そういうと、安心したような表情を浮かべる。魔人騒動では、どこに被害が及ぶかわからない。もしも友達が巻き込まれたら……と考えて強くなるように頑張っている側面はあるのだろう。

 と、飲み物を飲んでからアラタちゃんの顔色が突然悪くなる。


「……どうしたのかしら?」

「あっ! い、いえ! そ、その……アクレージョ様……申し訳ありません……その、色々と失礼なことを……! こう、ついつい過ぎた言葉を使ってしまって……! それに、つまらない話を……」

「今更よ。まあ、面白かったからいいわ」


 どうやら感情が高ぶっていたのが冷静になったらしい。冷静になると目上の自分をなんとでも出来る人間に愚痴とか言ってたからな。

 まあ、色々と不満も溜まってたのだろう。なんというか、ゲームでは決して見られてないキャラクターの一面みたいな感じで楽しんではいたので全然許せる。


「す、すいません……トテさんも愚痴を聞かせてしまって……」

「いえ、僕も楽しんだので……こういうのも、たまにはいいですね……」


 そういって薄く微笑むトテ・モジミー。うん。いいヤツだな。マジで記憶に残らないけど

 そういえば、剣舞会の実況が言っていたが忍者らしいけどもその話について聞くのも忘れていた。正直、興味はあるので聞いてみるか……と、突然こちらにやってくるカーマセ。


「やあ、そちらも一段落したようだね! いやあ、すまない。すっかり演劇の話で盛り上がってしまった。今回の話はとても参考になるものだったよ」

「いやいや、俺もオーナーさんがここまで話せる人間だと安心出来るってもんでさ」

「また話をしようじゃないか!」

「ええ、そりゃ願ったり叶ったりってもんで」


 そう言いながら握手をする二人。今回一番の予想外はここかもしれない。完全に立場を超えた友情を築いている。


「と、まあ新しい友人が出来てとても嬉しいんだ。その感謝の気持ちとして、新作のお菓子をご馳走しようと思ってね。みんなで食べようじゃないか。まあ、ちゃんと感想も聞かせて貰うけどね。どうかな?」

「ええ。いいわよ」


 迷いなく答える。レイカ様といえど、甘味には勝てないのだ。


「あ、それならわたしも貰います」

「……僕も」

「うん、なら全員分を頼もう」


 そうして、新作のお菓子を食べながらその感想を言ったりアラタちゃんやトテくんのなんてことはない日常の話、団長の傭兵話やカーマセくんの話などを聞く。

 静かに聞きながら、なんとなく……いい時間を過ごしていると思うのだった。



 ――そして店を出る。すっかり時間が過ぎて夕暮れになっていた。

 暇だと思っていたのに、気付けばすっかりと時間が過ぎていた。


「ありがとうございました! カーマセさんにレイカさん! 今日はとても楽しかったです!」

「……僕も楽しかったです」

「それならよかった。それで、アクレージョくん。暇潰しとしてはどうだったかな?」


 笑顔で聞くカーマセ。ううむ、悔しいが認めざるを得ないな。


「……そうね。感謝したいくらいにはいい時間を過ごせたわ」


 演劇もそうだが、こうして今まで出会ってこなかった子達と話すのが楽しかった。

 この世界にやってきて、今まで必死に来たのだが……ある意味でふっと息を抜いた瞬間かもしれない。


(やっぱり、プリンセス・ブレイドの世界は好きだなぁ……)


 レイカ様が好きだが、それと同じくらいこの世界が好きだ。

 ゲームに嵌ったのはそれが最初だった。世界感が好きでキャラが好きで、レイカ様に出会って人生を捧げたようなものだ。


「ああ、それなら良かった。またの機会に演劇に来てくれると嬉しいな」

「そうね。今の忙しさが一段落したら行くわ」

「はい! その時はレイカさん、わたしとヒカリちゃんも誘ってくださいね!」

「考えておくわ」


 約束をして別れる。なんだかんだ、最後にはアラタちゃんもレイカさんと呼ぶようになってた。まあいいんだけども。メアリちゃんがこの呼び方を聞いたら怒りそうだな……とか思ったり。

 あ、トテくんから忍者の話聞き忘れた……まあ、またの機会に聞こう。

 そうして、三人が居なくなってから団長に声をかける。すっかり巻き込んでしまったのだが、楽しんだようで何よりだ。


「楽しそうだったわね」

「……ええまあ。ああ、他のヤツにはあんまり言わねえでくだせえ。趣味くらいは知ってんですが、あんなに盛り上がってる醜態を伝えられたら威厳ってもんがなくなっちまう」

「いいわ。その代わり、無茶を聞いてもらうけども」

「……はぁ、いい日だと思ったら厄日ってもんですぜ」


 苦笑する団長だが、その表情はどこか楽しそうではある。


「巻き込んでごめんなさいね」

「いや、今日に関しちゃ楽しめたんでいいってもんでさ。まあ、当主さんも息抜き出来たでしょう?」

「そうね」


 意識してなかったのだが……気づいたら気分は軽くなって、元気が出ている。

 気づかず、自覚もない疲れが溜まってたのかもしれないな。


「んじゃ、俺もここで失礼を。またそっちに顔だしますぜ」

「ええ。動いてもらう時にはしっかりと働いてもらうわ」

「あいよ。そん時は報酬を頼みますぜ」


 そしてルドガーとレイカ様の二人になり、屋敷に戻っていく。帰り道でふと、ルドガーへ声をかける。


「ルドガー」

「はい。なんでございましょうか?」

「今日はいい日になったわ。ありがとう」

「……それは何よりです」


 なんとなく、そうやって感謝を伝えたくなった。そうして屋敷へと戻っていく。

 レイカ様の暇な一日は、なんというか……この世界を好きだということが再確認できる日になったのだった。

世界観掘り下げっぽいストーリーとか好きなので初投稿です

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