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三年とボス戦と その1

 ダンジョン前に集合した三人に向けて、俺は説明を終える。


「というわけで、今から三十一階にいる魔獣を倒しに行くわ」

「……」

「……」

「……」


 三人はぽかんとした表情でこちらを見ている。

 おそらく、今から行くと言われると思っていなかったのだろう。


「準備はいいわね?」

「ま、待ってくださいレイカさん! 聞いていないんですけども!?」

「あ、あのレイカ様! せめて心の準備をさせてくれませんか!?」

「師匠! 流石に唐突すぎないか!?」


 とんでもなくガヤガヤと言われる。今回のチームはレイカ、ヒカリ、メアリ、カイトのオウドー家の事件にあたった四人だ。

 選んだ理由は一番時間の都合が付けやすかったからである。まあ、カイトくんはちょうど帰ってきたばっかりで家のことも心配ないって言われたからね。まあ、誰を選んでも苦労するの変わらない。


「あら、貴方達は明日突然魔人が攻めてきても待って欲しいっていうのかしら?」

「……確かに、私達が待ってと言っても駄目ですよね……」

「さすがレイカ様……あたし達が油断をしてるから活を入れるために……!」

「むう、なるほど……師匠の考えを読み取れてなかったオレ達が愚かだったのか……」


 その言葉に感心する三人。

 まあ、実を言うとテンションが上がりすぎて色々すっ飛ばしちゃったんだけどね……罪悪感が湧いてきた。


「とはいえ、今回は魔人が攻めてきているわけじゃないわ。準備の時間は作るべきだったわね。待っているからいってきなさい」

「はい! すぐに準備をしてきますね!」


 その言葉に三人とも慌てて戻って、ダンジョンに潜るための装備を整えてくる。


(……やっぱりワクワクしてるなぁ、俺)


 やはりゲームでも難易度が高くやりこみ要素であるダンジョンに現実に挑むとなると浮足立ってしまう。

 危険なダンジョンに挑むのにそれじゃあ駄目だと自分を戒めながらも、やはりワクワクする気持ちは収まらないのだった。



 準備を終えた三人が集まってから、すぐにダンジョンへと潜っていく。

 暗い道をドンドンと歩いていく。魔獣は出てくるが、それも見つけ次第倒していく。

 降りるほどにメアリちゃんとヒカリちゃんの表情が険しくなっていった。そして何かを呟いている


「……うぅ……この道で何回も死にかけて……」

「ああ……ここで魔獣が雪崩みたいに……うぅ……」

「……師匠、あの二人大丈夫なのか? 呻いているが」

「気にしなくていいわ。ちょっとした嫌な記憶が蘇っただけでしょう」


 まあ、二人共レイカ様に連れられて魔獣退治で相当な目にあったのでトラウマもやむなしであろう。

 とはいえ、先日メアリちゃんと一緒に掃除をしたので魔獣は気をつけるほどはいない。ほとんど魔力を使わずに倒せる程だ。

 そして、メアリちゃんがポツリと質問をする。


「……レイカ様。ダンジョンにあれだけ魔獣がいたのに、退治したら出てこないものなのですか? 地上の魔獣は中々減らないのに……」

「前も言ったけど、ダンジョンは独自の生態系になっているのよ。だから地上の魔獣とルールが違うの。とはいえ、詳しいことは学者が調べてみないとわからないけどもね」


 まあ、ゲームをやっていた時はそういう仕様なんだなぁで流していたが現実になると色々と複雑な理由があるっぽい。詳しいことは調べてないが。

 とはいえ、魔獣を間引けば一定期間増えないのはありがたい。ボスに挑む前に消耗はしたくないし。


「なるほど……不思議ですね。まあ、一番下までいったら二度と入れないように埋め立てたいです」

「癪ですけど、その意見には同意です……二度と入れないように……」


 ヒカリちゃんとメアリちゃんの恨み節が強い。

 ヒカリちゃんも大変だったけど、ぶっ倒れても連行されて二日連続で突撃させたのはメアリちゃんだけだしな。二人共稀有な体験をしてトラウマを抱いた仲間だ。

 そんな会話をしながら、目的の地点にたどり着く。


「さて、ここから先よ」

「……この先にいるんですよね? 番人みたいな特殊な魔獣が」

「ええ。ここから先は大きい部屋になっているらしいわ。そして、そこに階層のヌシとしての魔獣がいるわ」


 まあ、ゲームをやってた時の知識ではあるけども。

 三十階層でもわりと開けている空間だが、この先はさらに大きい空間になっている。いわゆるボス部屋だ。三人に向けて改めて注意をしておく。


「覚悟は良いかしら? 高濃度の魔力と汚染の中で育った魔獣はもはや別種と言えるほどの存在よ。魔獣だと甘く見ないことね」

「……えっと、そんなにですか? ダンジョンの魔獣は地上より弱いという話でしたけど……」

「弱いわけじゃないわ。地上よりも飢えてないだけ。地上と同じ姿なら問題はないけども……この環境で魔獣同士で食い合って育ちきった魔獣は本当に別物よ」


 そう、いうなら本来はそこまで育たないというレベルで進化している魔獣なのだ。

 階層からでてこない理由もそれである。歪に育ちすぎて、自分のいる階層の外に行くと魔力不足などで自分の体を保てなくなるからだ。

 そして気づいたかもしれないが、わざわざそこに飛び込んで倒そうというのはよく考えなくても狂人の所業である。


「行くわ。覚悟は?」

「……大丈夫です」

「はい! レイカ様にお供します!」

「師匠、準備はできているぞ!」


 元気な返事が返ってくる。

 これなら大丈夫だろう。そして、下の階層へと踏み出した。



「……あれが、魔獣?」

「何……あれ……」

「なんだ、あの姿は……」


 三人は絶句している。それは、魔獣の形状が今までに見たことのないものだったからだろう。

 こちらをじっと観察するように見ている魔獣。やはり飢えていない魔獣の行動は不気味だな。


「あれがこの階層の魔獣ね」


 その見た目は犬のように見えるが……決定的な違いがある。それは、首が三つあることだ。

 そしてその体のサイズは大型の魔獣を大きく超えるほどに大きい。そう、この魔獣は現実の動物と違ってモデルが伝説上の生物になっている。

 魔獣ケロベロス。これが三十一階のボスだ。


「さあ、行くわよ。死なないように気をつけなさい」

「は、はい!」


 そして飛び込んでいく。魔獣はそれを見て体を持ち上げてこちらに向けて臨戦態勢を取る。

 ゲームでも何度も全滅したエンドコンテンツ。さあ、その実力を見せてもらおうか!



 そして、戦いは苛烈を極めている。

 魔獣が薙ぎ払うように足を動かす。それを回避しながら魔法剣で斬りつける。クソ、硬い!


「……ちっ! カイト!」

「ああ、分かっているぞ師匠!」


 レイカ様が攻撃を加えた場所に、カイトくんが続いて双剣を使い攻撃を畳み掛ける。

 昔やった魔人の守りを突破するような攻撃だが、硬すぎて意味がない。巨大な岩を削っているような物だ

 だが、ケロベロスはこちらを見てうっとおしそうに足で振り払う。攻撃に当たらないように回避するカイトくんを見て、すぐにメアリちゃんへ指示を飛ばす。


「メアリ!」

「ええ、準備はできていますわレイカ様!」


 その言葉に合わせて、メアリちゃんは隠し持っていた魔道具を投げた。こちらに意識を取られていた魔獣は回避できずにその魔道具が直撃する。

 そして体にぶつかると突如として魔道具が爆発した。魔力に反応する爆弾だ。その爆発によって体がよろめくケロベロス。


「よくやったわ。ヒカリ!」

「はい! いきます!」


 ヒカリちゃんは始祖魔法を使う。始祖魔法によって刀身が倍以上になった剣を持って魔獣の足へと斬りかかる。


「やああああああ!」


 叫びながら、ギリギリと始祖魔法の刃が食い込んでいき……そして、一部分ではあるが体が切れた。

 小さい傷ではあるが、ダメージを与えれることが分かったのは収穫だ。ケロベロスから切り飛ばした体の一部が飛び散って降り注ぐ。


「あっ……」


 そして、そこにはヒカリちゃんが息を荒げて止まっていた。まずい、このままでは直撃する。

 レイカ様が行動に移す前に、飛び出した影があった。


「この馬鹿!」

「うぐっ……!?」


 ドロップキックをしてメアリちゃんがヒカリちゃんを突き飛ばした。弾き飛ばされていくヒカリちゃん。

 そして、ケロベロスの体の一部が地面に落下するとドロドロと汚染をしていく。ケロベロスの体は、それだけで汚染をする毒のようだ。


「よく助けたわね、メアリ」

「ありがとうございます! やった! 褒められた!」


 嬉しそうなメアリちゃんに、恨みがましそうな目で見ているヒカリちゃん。まあ、助けられたとは言えドロップキックをされて褒められているライバルって微妙な気持ちになるのは分かる。


「……ありがとうございます、ホオズキさん……」

「ま、レイカ様の邪魔になられたら困るものね。もっと感謝しなさい!」


 死ぬほどドヤ顔をしているメアリちゃん。この状況でもブレないっていうのは、いいキャラしてるな。

 しかし、状況は芳しくない。


「ヒカリもよくやったわ。やっとダメージを与えれたわね。メアリ、残りは?」

「もう二発です……あたしはやっぱり大物退治は苦手なんで……」

「カイト、体力は?」

「十分ある! しかし、効果がないと気が滅入るな……」


 ケロベロスとの戦いが始まってから十分以上が経過しているのに与えられたダメージはようやく足の一部を切り落としただけ。

 レイカ様とカイトくんが全力で魔獣の気を引いて、メアリちゃんの持っている魔道具を使い体勢を崩し、ヒカリちゃんが全力の始祖魔法を使って何とかダメージを与えられた。

 強さという面で言えば魔人に勝るとも劣らない。


「救いは攻撃が積極的じゃないことね」

「……なんででしょう? 一気に暴れられたらこっちは大変なのに……」

「エネルギーの消費が大きいからでしょうね。とはいえ、当たれば流石に危険だけども」


 ケロベロスの動きは緩慢だ。巨大なケロベロスだが、そこまで動きが機敏ではないおかげでなんとか攻撃も回避できる。

 それでも攻撃の範囲が広いので回避には神経を使う。危ないシーンも幾度となくあった。


「このままだとジリ貧ね。ヒカリ、体調は?」

「大丈夫です……いけます!」


 そう言うが、顔色は良くない。いくらヒカリちゃんでも魔力消費が大きい始祖魔法を全力で使うとなると疲労が激しいのだろう。

 あのケロベロスの体を切り落とすには始祖魔法が必要だ。ヒカリちゃんが脱落すれば、間違いなくケロベロス戦は敗北で終わる。


(……なら、長期戦じゃなくて一気に体を切り落とすべきだ)


 どれだけ見た目が変わって変異しても魔獣を倒すルールは変わらない。体の半分を喪失した魔獣は崩壊するのだ。


「……ヒカリ、準備をしていなさい。メアリ、カイト。覚悟を決めなさい」

「えっ……?」

「レイカ様、何をするんですか!?」


 その質問に答える。


「あの犬の胴体を真っ二つにするための準備よ」


 さあ、ここからが正念場だ!

ボス戦のケロベロスは王道なので初投稿です

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒカリさんとメアリさんがダンジョンに対する恨みが強いですw まさかあの優しいヒカリさんですら恨み有る程ですか? ケロベロスは王道ですねw
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