三年とダンジョンと前準備
次の日、昨日ダウンしたメアリちゃんを連れて三十階層までの道掃除を完了した。
「もうやだぁ……ダンジョンいやぁ……」
「もう地上よ」
「えっ……あぁ、地上だぁ……お空綺麗……」
すっかりグロッキーになっている。とはいえ、容赦はしない。王選候補であるならこのくらいは出来ないと……ということで心を鬼にする。
ゾンビのようになっているメアリちゃんを引っ張って地上に上がると、シルヴィアくんに出迎えられた。
「あら、今日はシルヴィアだけ?」
「おかえり。うん、ヒカリちゃんは別の用事で離れてるよ。あいにく僕だけだね……そして、酷い事になってるね」
シルヴィアくんを無視して、近くの地面に転がるメアリちゃん。地面で寝るのに一切の抵抗がないのは素質があるな。
暗闇で、ひたすら魔獣に狙われ続けてろくに休憩もできないせいで、地上に出ると明るい場所で眠りたくなるらしい。人体の神秘である。
「容赦をしてあげなよ……流石にそれはひどいと思うよ?」
「断ってもいいと言ったけど、この子が大丈夫というから連れて行ったのよ」
レイカ様の誘いでメアリちゃんが引きつった笑みでいきますと言う当たりは、根性があるなぁと感心したものだ。まあ、ダンジョンの中で半泣きだったんだけど。
ヒカリちゃんもメアリちゃんもなんだかんだ、ちゃんと付いてきて完走するのは偉い。自然と認めたくなるというものだ。
「……毎回思うんだけど、なんで他の子はグロッキーになってるのにアクレージョさんはそんなに元気なんだい?」
「あら、この程度は出来て当然でしょう?」
「……そうかなぁ?」
首をひねるシルヴィアくん。
「才能がない私が追いつくためには足りないものだらけ。なら、追いつくために危機に身を置くしか無いでしょう?」
「いやいや、アクレージョさんに才能がないなんて……」
「王選候補に比べたらないわ。だから、突き放されないように努力してるのだからそう見えないのも当然よ」
その言葉に黙るシルヴィアくん。実際、レイカ様の才能は頭打ちという感じはある。
レイカ・アクレージョは天才である。だが、それは貴族に成り上がった人間としての天才でしかない。最初からスタート地点が違うのだ。魔法は血筋と魔力が全てであり、持たないものを覆すためには死ぬほど努力が必要になる。
レイカ様として居るための努力は全然苦ではないのだ。むしろ、ちょっと推しの姿になって推しとして活動するのは変な趣味に目覚めそうでちょっと怖い……まあ、それはともかくだ。
「そう見えるようにしているだけ。こう見えても必死なのよ?」
「……そう言われて、僕には何も言えないね。話を変えようか。ダンジョンはどうだったかな?」
「以前よりはマシね。魔獣の数も落ち着いていたわ。今回、メアリと私が潜って掃除をしたからしばらくは魔獣の数に関しては問題はないでしょうね」
「なるほど……そういえば、いつの間にかホオズキさんを名前で呼んでるんだね」
そんな言われて、うなずく。
前回名前で呼んだが、もう定着してしまった。内心ではずっと皆のことを名前で読んでるけどもレイカ様として名前を呼ぶというのは意味が変わるのだ。
「ええ、私に着いてこれたのなら認めるわよ。どういう経緯でここに来たとしても、どういう出自であろうとも。認める人間は認めるだけよ」
「なるほどね……なんというか、こうしてアクレージョさんと一緒に活動するまで気付かなかったけどさ……アクレージョさん、君は凄い大物だよね?」
「あら、当然でしょう? 私だもの」
そう、レイカ・アクレージョなのだ。
俺の人生で最も好きな推しであり、だからこそ俺はレイカ様に恥じないように生きる。大物だと思われるのは当然であり、俺がちゃんとレイカ様を出来ている証明だ。
なのでもっと褒めて欲しい。俺の推しが褒められてとんでもなくテンションが上がる。
「あはは、さすがアクレージョさんだね。それで、最後の五階層に出てくる魔獣の討伐……誰が倒すかだけどどういう風にするか考えているかな?」
「ええ、担当する人間を分けるつもり」
「分ける方を選ぶんだね」
シルヴィアくんにそう言われて頷く。シルヴィアくんもある程度は予想していたのだろう。
ボスを倒すと、それだけ経験値が入る。雑魚の数倍だ。現実でいうなら大型を超えた特殊な個体は相当量の魔力を貯めているので肉体の強化効率も半端なく良いんだとか。
「シルヴィア、ツルギ、カイト、ロウガ、ホーク。それぞれに一階層ずつ挑戦してもらうわ。失敗は死ぬだろうから考えないわ」
「……そうだろうね、ダンジョンの最下層に関しては完全な未知だし特殊個体がいるらしいからね……あれ? 君とヒカリちゃんは?」
「当然いるわよ。だから三人で戦う……ああ、いえ。メアリも入れて四人にしようかしら」
さて、自分の事も大切だがメアリちゃんはヒカリちゃんとライバルである。そこで大きな差を付けすぎるのは本望ではない。
レイカ様という人間のファンであると同時に、俺はプリンセス・ブレイドのファンなのだ。この世界に対して俺は後悔するようなことをしたくはない。無双ゲー何ていうのは周回できるゲームだからこそ楽しめるわけで。競い合うライバルというのは自分と同じくらい強くあるべきだ。
「……それなら、全員で挑むべきじゃないかな?」
「大勢で魔獣を倒しても対して強くならないのは知っているでしょう? 人数は少ないほうが良いわ」
経験値が分散するのは良くない。ゲームをやっていて不自然に一人だけ強くなるのは好きじゃないのだ。俺は満遍なくレベルを上げるタイプだからね。
「結果的には同じになる気もするけど……」
「経験も必要だし、何よりも相手は魔獣を超える怪物よ? 勝てなければ意味はないでしょう」
そう、理性の残っている魔人というだけでも驚異なのだ。
経験値だけでは語れない戦闘経験や判断、そして修羅場を超えたという事実はとても大切なのだ。
「……確かに、それもそうだ。なら、アクレージョさんの案で行こうか……ただ、最下層には何があるのかな? それが見たいから最後になりたがる気もするけど」
「案外魔獣だけじゃないかしら? ダンジョンはあくまで自然に魔獣が集まって発生した場所だもの」
「あはは、ロマンがないなぁ……まあ、でも現実主義者なのはアクレージョさんらしいと言えばらしいかな?」
「あら、こう見えてもロマンチストよ?」
そんな風に談笑する。ちなみにメアリちゃんは近くで倒れて眠っている。
死ぬほど疲れているのだろう。まあ、ヒカリちゃんも通ってきた道だ。ゆっくり体力を回復してもらおう。どうせまた行くことになるし。
そして、話題は鍵についてになる。
「……それで、最後の鍵についてはどういう対応を取るの?」
「ああ、学園長と相談したけど最後の鍵に関しては放置をするってことにしたよ」
その言葉に驚く。相当に大きな決断だからだ。
「……それで大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃないけども、破られた時にはちゃんと分かる仕掛けは作っているらしいからね。防衛のために人材を使って被害が出るのであれば、いっそ切り捨てて時間を作った上で待ち構えるほうが良いという判断だそうだよ」
なるほど、思い切ったな。狙われている事が分かるのであれば、放置するほうがいいというのは一つの答えだ。
「結局の所、僕たちに闇魔法使い達を相手にしても正体がわからず、どこまで敵がいるかわからない現状では後手に回るしか無い……なら、狙うべきはリスクを取ってでも最後の鍵を狙いに行くタイミングだ。それに、動き出してしまえばそこから場所がバレるからね」
「もしも裏切り者がいたり、脅されて喋った貴族が居たら話は変わるんじゃないかしら?」
「さいごのカギに関しては場所自体が複雑でたどり着きにくい。だから、物理的に時間がかかるんだよ」
「なるほど……なら、なおさらこの期間に鍛え上げるべきね」
時間が出来たのなら憂いはない。
「それなら、誰から連れて行こうかしら? ダンジョンの最下層に挑むのだから、ツルギは後にしたほうが良いわね」
「えっと、皆にちゃんと予定もあるからね? 無茶な誘い方をしたら駄目だよ?」
「善処するわ」
「善処じゃなくて約束してほしいんだけどなぁ……」
そんな風にぼやくシルヴィアくん。
そして二人で王選候補のスケジュールを見ながらダンジョンに挑む予定を立てるのだった。
突入するかと思ったら、前準備にもうちょっとかかったので初投稿です




