三年と奇妙な魔獣
今回やることについて、会話が一段落した当たりでオウドー家の人間らしいメイドが走ってくる。
その表情は真剣そのもので、俺たちも臨戦態勢になる。
「カイト様! 来ました! 魔獣です!」
「来たか。場所は」
「はい! 平原前の壁です! 今は兵士たちが対応をしています!」
「分かった。今回は助太刀がいるので、魔獣の対処はこちらでする。お前は屋敷の安全なところに避難していてくれ。いいな?」
「はい、分かりました!」
その言葉に屋敷へと避難していくメイド。普段、師匠と言いながら懐いている姿と違う当主としての威厳ある姿。
これはカイトくんの成長の一つなのだろう。自分に足りないものを自覚して、そして優秀な周囲の人間を見て自分を高みに登らせる。ゲームだと最後まで子供っぽさのあるカイトくんと少し違う姿は、原作のカイトくんファンが感動して卒倒しそうだ。
「カイトくんも当主さんなんですね……」
「そうね」
感心したようにいうヒカリちゃん。学校の友人としての姿しか見ていなかったので驚いているのだろう。
そしてこちらに振り向くカイトくん。
「というわけですぐに現場に行くとしよう。今は当家の兵士が対処しているはずだ」
「兵士だけで倒せないのかしら?」
「その理由なのだが……現場を見てくれれば分かると思う」
「そう、なら行きましょうか」
そして、四人でその魔獣の襲撃しているという現場へと走り出すのだった。
外周を回って、オウドー家を取り囲んでいる城壁の外に出る。そして、広い平原側から走ってオウドー家への城壁、その問題の地点に辿り着いた。
「……うわ、なんですかこれ」
ドン引きした声のメアリちゃん。本気で引いているのだろう。
しかし、その気持ちもわかる。なにせ……
「なるほど、これは無理ね」
イメージとしては虫が密集して餌に群がっているような光景だ。正直、見た目が酷すぎる。
魔獣が越えて来ないように作られている城壁。そこにまるで津波が押し寄せるように魔獣がぶつかって来ている。密集しているので表面上よりも数は多いだろう。おそらく数十匹……百に届くか程度にはいる。
「うわぁ……ダンジョンでもあんな風に集まってる魔獣を見たことはないですね……」
「あたし、正直アレは見ただけで生理的に無理ですね……虫とかネズミなら見慣れてますけど……」
ヒカリちゃんとメアリちゃんはもうドン引きだ。
魔獣自体、色合いがヘドロみたいで気持ち悪いのにそれがウゾウゾ動きながら城壁に群がっている光景は正直、見ていて気持ちいいものではない。
しかし、行動はたしかにおかしい。
「あれが異常行動をしている魔獣だ。攻撃をするわけでもなく、壁を壊そうとしている」
「壁を?」
「うむ、そうとしか言えないのだ。魔力を捕食せず共食いをするわけでもない、ただ魔力の存在しないはずの壁に向かって攻撃を続けているのだ」
たしかに群がっている魔獣は石で出来た城壁に対して体当たりをしたり、噛み付いたりしている。しかし、魔獣は魔力を食う生物なのだ。物理的な壁などに対しての破壊は得意ではないので効果は怪しい。
そして、よく見ればぶつかりながら崩壊して死骸になっていく魔獣もいる。魔獣は自分の生存を優先するはずだから、本当に異常だ。場合によっては共食いをして自己を繋ぎ止めるというのに。
「これが兵士たちが手を出せない理由だ。生半可な攻撃をしようとしても巻き込まれてしまい被害が増える。遠距離攻撃をしようにも、ああも密集していると着弾地点が見えない。万が一城壁に亀裂などが走ると決壊する可能性もあるから念を入れて警戒して控えている」
「そうね。それが懸命だと思うわ」
津波を止めるのに、海に突撃しても巻き込まれるだからな。
魔獣が死んでドロドロと地面が汚染されていく。そこへオウドー家の兵士たちが駆け寄ってすぐに蝋燭を使っての浄化をする。
「そして何よりも、あの量は汚染が深刻なのだ。兵士たちが1匹を浄化する頃には二匹が大地を汚染している。イタチごっこだ」
なるほど……たしかにそれは厄介だ。
魔力を込めないと発動せず、その範囲もそう大きくない蝋燭の浄化だと時間がかかるのは仕方ない。魔獣の厄介な所は死骸による汚染なのだ。放置をすれば、そこから魔獣が発生する温床になる。だからこそ、緊急性のない場合には浄化を優先するしかない。
疲れたような表情のカイトくん。
「これが連日のように発生するんだ。いくら相手が抵抗せず勝手に死ぬ魔獣といえども、このペースで突撃し攻撃を続けていくと城壁が決壊する可能性は十分にある。だからこそ、原因の究明を手伝ってほしいんだ」
「そうね。とりあえずは……」
剣を抜くと、ヒカリちゃんとメアリちゃんも同じように武器を構える。
「目についたアレを片付けましょうか」
「うむ、助かる。反撃はしてこないが巻き込まれる場合があるから気をつけるのだぞ?」
「大丈夫です!」
「レイカ様の前でそんな無様は見せないわよ」
そして群がる魔獣を死骸に変えにいく。抵抗もしない魔獣に魔法を使って切りつけ、死んでいく。しかし、それを気にすることもなく壁に群がり続ける魔獣達。
……なんというか、アレだな……害虫退治みたいだ。全員気味が悪いものを感じながら機械的に処理をするのだった。
そして、流れ作業のように魔法を使って魔獣を処理し続けて、ようやく終わる。時間にして30分程度か。
四人で分担したのにこんなに時間がかかるとは。特に死にかけていたりして脆かったり、勝手に自壊するような魔獣も多かったのでそこまで苦労する作業ではないのだが、数が多すぎて精神的に疲弊する。
終わって息をつき、死骸から離れて休憩をしているとカイトくんがやってくる。
「それで、どうだった? ホオズキ、師匠。魔獣についてなにか感じたことはないか? 手がかりがないので感覚的な話も聞きたいのだ」
「そうね……」
その言葉にメアリちゃんを見る。
メアリちゃんは魔獣の様子を思い出し悩みながら答える。
「……んー、本当に魔獣ですかあれ? 違和感が凄かったんですよ」
「あら、ホオズキもそう思ったのね」
「む、どういうことだ?」
どうやら同意見のようだが、カイトくんは気付かなかったらしい。
不思議そうな表情のカイトくんにメアリちゃんは答える。
「ちょっと数匹程、魔獣の事を観察をしたんです。見てたら動き方がぎこちないというか、突然止まったり意味のない行動をしてるのが多かったですね。本来ありえないですよ」
「そうね……でもホオズキ、よくわかったわね? 普段から魔獣を見慣れていないと気付かないと思うけども」
「あはは、ほら……国の間を移動する時に出会うので」
その言葉にカイトくんは首を捻るが、そういうものかとスルーする。
……ああ、なるほど。国から国の移動を正規ルートでいかない場合はそりゃ魔獣に遭遇するだろうな。正規ルートは魔獣が出ない安全な道だから。レイカ様前だと迂闊だね、メアリちゃん。
まあそれはいいとして、メアリちゃんも結構修羅場をくぐってるんだな。
「あと、中型の同じタイプばっかりでしたね。それも気になります」
「む? 中型ばかりだとおかしいのか?」
「ああやって指向性がある動きをするにしても、魔獣が大型も小型も混ざっていないのは不自然よ。特に小型が存在しないのはありえない」
大型はまだ飢えて先に自壊していると考えれば分からないでもない。しかし、魔力の消費効率に優れている小型が混じっていないのはおかしいのだ。
全員が同じようなサイズの中型。それも全員が同じような行動をするというのは不自然すぎる。
「……確かに言われればそうだな。ううむ、対処に気を取られすぎて気付かなかった」
「守る立場だと気が回らないから仕方ないわ。そうね……でも情報が足りない。もっと情報を収集しましょうか」
「情報収集?」
「ええ……あら、ヒカリが終わったみたいね」
と、そこで浄化を手伝い終わったヒカリちゃんがやってくる。
先程から会話に参加していなかったのは始祖魔法を使えるヒカリちゃんに、あのとんでもなく酷い汚染の浄化を優先して手伝ってもらっていたのだ。
「皆さん、浄化が終わりました。やっぱり範囲が広いですし、思ったより汚染がひどくて時間がかかっちゃいました……」
「いいわ。1時間もかからないなら上出来よ」
「えへへ……それならよかったです」
「……くっそ……レイカ様に褒められやがって……」
後ろで小声で言いながらぐぬぬという表情をしているメアリちゃん。微妙にドヤ顔をしているヒカリちゃん。やっぱり仲いいだろ、この二人。
しかし、浄化作業は本当に苦痛だったのだろう。後ろにいる兵士たちはヒカリちゃんの事を女神と思わんばかりに讃えている。
「助かった、ノセージョ。魔獣の浄化は一日作業でな……こんなに早く終わるのは本当にありがたい。兵士たちもそのせいで疲弊しているのだ。一日二回。終わりの見えない作業だからな……浄化が終われば次の襲撃だ。本当に、終わらない数字の計算をしている気分になる」
「……それも狙いかしらね」
魔獣の絶え間ない襲撃で気力と体力を削り、どこかで予想外の仕掛けをしてくる可能性もある。だが、わからないことだらけだ。
なので、情報収集だ。
「まだ次の襲撃まで時間はあるわよね?」
「ああ。少なくとも数時間後だ」
「なら、話を聞きに行きましょうか。事件を捜索する時は何事も小さい所から探していくのよ」
さあ、犯人探しといこうか。意気揚々と引き連れて情報収集へと向かっていく。
……まあ、ミステリーとか推理とかすごい苦手なんだけどね、俺。
軽く休憩をしていたら普通にガチ寝をして朝になっていたので初投稿です




