三年と新たなイベント
「ねえ、シルヴィア」
「何度も言うけど、手助けはしないからね? というか、僕が関わっても解決しないだろうし」
「……そう、役立たずね」
「あはは、こういうのは第三者が来ても拗れるだけだよ」
学園事務に来る用事があったので、手続きに来たついでになんとかしてもらおうと頼もうとしたらすげなく断られる。くそう……
いや、違うんだ。レイカ様ならどんな事も笑顔でこなすイメージはある。だけども、俺のイメージするレイカ様ですらこの状況は想定外だった。なので、もう他人に頼ろうかと考えたが、相談すると断られるのだ。何ならルドガーですら、申し訳ございませんだった。
「……仲良くしろとは言わないけど、私を挟んでうるさいのは面倒なのよ。辞めろと言っても聞かないし」
「まあ、自分でなんとかするしかないんじゃないかな……とはいえ、ノセージョさんにはいい刺激になっていると思うよ。元々、彼女は周囲にライバルと言える人間が居なかったからね。カイトくんは競い合うと言うよりも協力する関係だし、セイドーくんもノセージョさんとは元々仲が良かったみたいだからね。ノセージョさんには他者に勝ちたいって欲求が薄かったから良い機会だと思うよ」
「あら、私には挑みかかってきているわ」
「それは違う感情だね。ノセージョさんにとって、君は目標でゴールなんだ。彼女にとっては君に勝つことよりも君に並び立つことを目標にしている。だからこそ、彼女の成長はいずれ止まると思っていたんだけど……今回のホオズキさんの存在は大きいね。彼女にとって、初めて本心から負けたくない相手というのが出来たから」
そう言われて、まあ確かにそうかも……と考える。
ヒカリちゃんはレイカ様と仲良くなってしまった影響か、強くなってはいたが気持ちの面での成長が出来ていないようには感じていた。原作よりも少しおとなしすぎるな……と思っていた。
そういう意味では、メアリちゃんの存在はヒカリちゃんの精神的な強さや成長につながると考えたら悪いことではない。ただ……
「私を巻き込んでほしくないけども」
「無理じゃないかな? 君が中心だし」
バッサリと切り捨てられた。薄々自分で感づいていたけど、はっきり言われるとがっくり来てしまうな……
そんなレイカ様を面白そうに見ていたシルヴィアくんは、手に持っていた書類に判を押す。
「……はい、手続きは完了だよ。それで、わざわざ届け出をして学園を休んでまで何をするつもりだい?」
「ちょっとした個人的な調査よ」
「個人的な調査?」
さて、実は……ゲームで学内イベントは二年生までしかない。三年生から貴族としての活動などもあるので学内で見る機会は減り、ゲームでも舞台が変わっていく。まあ多分容量的な問題なんだろうというのがユーザーの意見だけども。
ということで、剣舞会とか剣聖徒みたいなイベントには参加出来ないのだが……実は、ちゃんと他のイベントがある。
そう、ゲーマーなら大好きな……サブイベントだ。
「魔人についての話よ。いずれ貴方達にも仕事をしてもらうから準備をしていなさい」
「……それは怖いね。覚悟をしておくよ」
とんでもない話を持ってくると理解したのか、にこやかな笑みに冷や汗を流すシルヴィアくん。
今回、助けてくれずに切り捨てられた恨みはいずれ散々働かせることにしよう。
さて、次の日。学園を休んでの外出だ。そして行く先は……市井の裏路地である。
そして待ち合わせ場所に居た傭兵団の団長に声をかける。
「悪いわね。わざわざ来てもらって」
「いや、別に大丈夫ですぜ。まあ、当主さんから今の所割り振られた仕事もなくて暇をしてたんで」
「これでどうかしら?」
「ええ。コーディネートはバッチリですぜ。むしろ、似合いすぎて最初からこっちの人間かと思うくらいでさ」
「……褒め言葉として受け取っておくわ」
今の服装は普段のようなしっかりした貴族のドレスに近い衣装ではない。村娘が着るような安っぽい服だ。
そして、団長はこちらに質問をする。
「んで、今日のご予定は?」
「マフィアのボスから貰った情報でここに居る業者を締め上げるわ」
「ほお、何の業者で?」
「魔獣よ。あくまでも噂らしいけどもね」
さて、これもサブイベントだ。本来はロウガくんとツルギくんを連れて世直し部隊という名前で裏社会に独自の地位を築いていくサブイベントなのだが……現状ではそれはどう考えても不可能なのでレイカ様がやっちゃおうというつもりでやっている。
別にやらなくてもいいとは思うのだが、ブレファンとして「どうせやらないなら、実際に体験したいしやっちゃうか」という感じでイベントを進めている。最終的に好感度とかアイテム関係のイベントだから問題ないだろうという考えもちゃんとあるのでセーフ……だと思う。
まあ、それはそれとしてだ。
「ほお、そんな馬鹿な業者がまだ居たんですかい。魔獣の輸出なんざ、取引したことがバレりゃ生きてたことを後悔するような目に合うでしょうね」
「ええ。そんなバカがまだ残っていたのよ。上手いことやっていたようだけど……ついにあの老人の耳にも噂が届いたらしいわ。ただ、どうにも手がつけられないということで私に話が来たの」
これも半年の間にやっていた活動の一環だ。
ゲームだと、ロウガくんとツルギくんとヒカリちゃんの三人がマフィアのボスに犯罪をやめろと乗り込んでいき、最終的にロウガくんがマフィアの裏のボスになるとかいう、おバカなノリのイベントだったんだよな……とはいえ、レイカ様だと普通にシリアスなイベントになったが。まあ正直、めっちゃ楽しかった。
「ほお、あの爺さんが手がつけられねえって言うのは驚きですな」
「どうにも、魔獣を操るらしいわ。それが原因でどうにも出来ないと」
「ほう、そりゃあ……」
確かゲームだと、これは魔獣使いイベントって呼ばれていたやつだ。
貴族崩れの男が黒幕で、魔獣を操る特異体質だったみたいな説明があった覚えがある。単なるギャグイベントかと思っていたが、こうして現実になって色々と考えるとめっちゃきな臭い。
「そりゃ怪しい。このタイミングってえのは」
「ええ。おそらく、あの老人もリスクは取りたくないのでしょうね。魔人で当たりなら私に恩も売れるわけだからわざわざ頼んだのでしょう」
闇魔法に関することは伏せられているが、魔獣を操る魔人騒動などの話は世間的にも広まっている。特に話題に敏感な傭兵やある程度立場のある人間からすれば警戒するべき情報として周知されている。
マフィアのボスも、それで犠牲を出してレイカ様に頼むくらいなら最初から任せたほうが良いと考えたのだろう……こうして考えると、他にも繋がりそうなイベントがありそうだな。
「それで当主さん、手筈は?」
「噂の店に普通の客を装って入るわ。魔獣の取り扱いが判明したらすぐに捕縛しなさい。事情を聞ける頭以外は潰せばいいわ」
「はいよ、了解でさ」
そして裏路地を通って問題の店に行く。そこはスラムにある肉屋だ。
平和なクラウン国だが、何故かスラムがある。ユーザーからも度々話題にされて「急に生えてきたスラム」「王政国家の闇」とか言われていたが、他国の亡命者や税金を払ってない人間が目の届かない場所に住み始めたのが始まりらしい。
まあ、取り締まっても国際間の問題になったり引受先の話になるのでスルーされているのが現状のようだ。そのせいでマフィアも裏社会に一種の規律をもたらすので黙認されていると。まあ現実には複雑で面倒なことがいっぱいあるのだと考えていればいい。
「ああ、それと中にいる客はどうしますかね?」
「連れてきている3人を避難に回しなさい」
「あいよ……っかしいな、ちゃんと隠れてるんですがねぇ」
首をひねる団長を無視して扉を開く。中に入ると薄暗く辛気臭い店内で肉が所狭しと並べられている。
ぱっと見て質のいい肉はなく、高級肉と銘打っている肉もどこから取ってきたのか分からないようなものばかり。客はいるが、まだ時間としては半端なのか一人しかいない。
(ううむ、これぞスラムって感じだな! さてと……まず魔獣の取り扱いを聞かないと)
そして店員を探しながら周囲を見渡して……客の一人と目があった。
そして、お互いに目を見開いた。
「メアリ?」
「……あ、アクレージョ様!?」
そう、スラムの肉屋で買い物をしていたメアリちゃんに出会ってしまったのだった。
新キャラと一緒にイベントということで初投稿です
感想や評価ありがとうございます。最近「ガールズラブ要素……詐欺になってない?」という疑惑もありましたがここにきてようやく出せてきました
良い子と悪い子とレイカ様でお送りしますのでこれからも楽しんで頂ければ何よりです




