三年と成長と新展開 後編
さて、学園長室から解散となり部屋を出て全員が外の空気を吸って気持ちを切り替える。
さて、まだ明るい時間だ。授業の参加に関しては自由となっている。というのも、元々はこの学園は王を決める以外に優秀な貴族を排出するための学園。授業はあくまでも手段の一つであり、自主的な学習や訓練で得意分野を伸ばすことで卒業のための単位を取ることだって出来る。まあ、それでも優秀でないと一点特化は難しいのだが。
王選の生徒に関しては優秀なので、家の事情や王選に関することを優先しても良かったりする。まあ、ゲームではそれでも能力値のために授業参加するけど。
「あの、レイカさん。この後はお暇ですか?」
と、ヒカリちゃんから声をかけられる。すっかりレイカ様に慣れた……まあ、ダンジョンアタックのせいなんだけども。そのおかげか距離感はとても近い。まあブレファン心理的には結構嬉しいけどさ。
「なにか用事?」
「喫茶店で新メニューが出たんです。一緒に食べたいなって思ったんですけども……」
「……魅力的だけども、あいにく用事があるわ」
泣く泣く断る。本気で行きたいけども、外せない用事なのだ。
あの喫茶店、レイカ様の好みにどストライクなんだよな……もしもゲームでレイカ様が生きていたとしてあの喫茶店に通い詰めてイベントとか……やめやめ! そんな想像をしたら往来で泣いてしまう。
「そうですか……残念です……次の機会に行きましょうね!」
「ええ、そうさせてもらうわ」
さらっと次の約束をしてしまった。まあいいか。
と、そこでジトッとした目で眺めていたロウガくんが呟く。
「……思ったんだが、ヒカリ。お前も相当にすげえよな」
「え、何がでしょうか?」
「俺ですら、アクレージョのやつのダンジョン荒行は付いて行って後悔して二度と一緒に行かねえって思ったんだぜ? だってのに、最後まで楽しそうにダンジョンへ付き合ってアクレージョに恨み言を言わずに絡んで……お前も奇特な趣味をしてんなって思っただけだ」
「あら、よく吐いたり文句を言われたりしたわよ?」
そういうと、恥ずかしそうに言わないでくださいよーという反応をするヒカリちゃん。すっかりロウガくんはドン引きしている。まあ、結構ヒカリちゃんも原作でデスマーチしたり、人間かな? って思うようなスケジュールを強行出来たので当然とも言えるか。
しかし……傍目から見たらレイカ様とヒカリちゃんは狂ってるよな。なにせ、本来は一ヶ月に一回遭遇して倒せれば十分と言われている魔獣退治。それをほとんど週に2~3ペースでエンドレスに挑んでいる。しかも、時間は疲れるまでという適当さ。無理やり病院とかに入れられても文句は言えない。
「まあ、それだけ実力が付いてんのは認めるがよ……試しにこの前、ヒカリと模擬戦をしたら危うく負けかけたからな」
「むしろ、アレだけしておいて勝ち目がない程度なら王選を辞退するほうがマシよ。とはいえ、ロウガを追い詰めたのなら上々ね」
「……お前、将来子供が出来たとしてとんでもねえスパルタ教育しそうだな。乳母とかつけろよ? 命がいくつあっても足らねえ」
ロウガくん、連れて行ってから本当に辛辣になったな……確かに、ロウガくんとヒカリちゃんで潜ったときには火力役のロウガくんがいるから、と未探索階層を連続で潜ったせいで魔獣の群れに囲まれて詰みかと思ったけども。
あの時はなんとか撒いたんだよな。通常時のダンジョンではフロアを跨ぐと魔力の濃度の関係で登ってこなくなるのだ。
「……僕としては、なんでしれっと王候補よりも平気な顔でアクレージョさんが魔獣退治を出来ているのかのほうが気になりますけどね。本当に人間ですよね?」
「あら、セイドーは酷いことをいうわね」
「自分の行動を省みてそれは言ってもらえますかね?」
「まあ、師匠は師匠だからな。オレたちと同じようなステージには居ないのだろう! 師匠は一種の怪物だからな」
「……オウドー、君のアクレージョ贔屓も修正したほうが良いですよ。フォローに成ってないですし」
ホークくんとカイトくんも打ち解けたなぁ。まあ、王選という争い合う舞台ではあるが……魔人という存在もあるおかげか意外と揉めることもない。
ゲームだと、まだここではちょっとギスギスはあるんだけど……個別ルートでやるようなイベントを色々と済ませちゃったからか、やけに仲良くなっている。裏ではギスギスしてるとかだと嫌だな……と、そろそろ時間がマズいな。
「用事があるから、失礼するわ」
「うん、またねアクレージョさん」
シルヴィアくんが笑みを浮かべて見送られる。さて、早く帰って成果を聞かないとな。
「……さてと、アクレージョさんは帰ったしここからは気を使わなくていいね」
アクレージョが帰り、王候補達が残った空間。シルヴィアがそんな一言を呟く。
そこでは不穏な空気が……
「――やっと、ダンジョン通いを控えてくれるみたいだよ……」
「やっとですか……」
なかった。心から安心した表情をするシルヴィアに同意するホーク。そんな二人に同情的な視線を向けるロウガ。
なぜなら、一番アクレージョのダンジョンアタックに心労していたのは二人だったからだ。
「まあ、事故がありゃ本当に王選どころじゃねえからな……候補が二人も死んだら流石に「このまま継続です」みたいな空気にしづらい。てか、アホかよ……あんな自殺志願みたいなことを王選候補……しかも当主がすんじゃねえよって話だ」
「キシドー殿! 師匠はその……つ、強くなるために努力をいとわないだけだからな! それだけ敵のことを高く見積もって……!」
「いや、それで死んだらただのアホだろ」
カイトのフォローも虚しくバッサリと切り捨てられる。
王候補たちは奇妙な友情が芽生えていた。外敵がいれば集団は纏まるという話があるが、一人の問題児が居てもお互いの連携が強まるようだ。あまりにも本人に重要人物という自覚なく、無謀に見える道を進むアクレージョに対して残った王候補は知らない間に仲良くなっていた。主に愚痴などで。
「ふむ……拙者が付いていけば事故はないのだが」
「何故かアクレージョさん、ムラマサくんをそこまで誘ってくれないからね……僕らとしても、ムラマサくんが見ていてくれたほうが安心するんだけど……」
「えっと、その……レイカさん、ムラマサさんがいると「特訓にならない」って言ってました」
「……あの人、本当に自分が当主って自覚あるのかな……」
流石のシルヴィアでも、空を仰いだ。
アクレージョ本人からすればマトモだと思っているだろうが、全員が一番の問題児はあの人だと認識していた。
「敵に回すとアレほど怖くてすげえやつも居ねえが……味方の立場でみると危なっかしすぎるんだよアイツは」
「まあ、ここで落ち着くなら本当に一安心ですよ……徴兵もなくなりますし」
この徴兵というのは、ダンジョンに二人だけではパワーバランスが偏りすぎると思ったアクレージョが定期的に誰かを交えてダンジョンに潜り始めてから自然と使われるようになったフレーズだ。
呼ばれた王候補は、絶望の後に次の日の予定をキャンセルして休養に費やすことになる地獄のイベントだったりする。
「うむ……オレとしても呼ばれて師匠と一緒に潜れば強くなる実感はあるが……流石にだな、こう……命というものは一つしかないと考えて欲しいな……」
「あんなネジの外れ方してりゃ、そりゃ強くなるわな……あのアクレージョの強さの秘密が一つ分かったぜ」
アクレージョからすれば、ゲーム知識でダンジョンがどういうものかなどはある程度は把握している。だが他の王候補からすれば、未知のダンジョンに無謀に突っ込んでひたすら強さを求める狂人に見えるのだ。
実際、結構危ない場面もあったのだが……中身がレイカ様を信じすぎて信仰しているせいで、レイカ様なら大丈夫だという思想が狂人っぷりに拍車をかけていた。
「まあ、ヒカリよ。お目付け役頼んだぜ。同性のほうが何かとやりやすいだろうし、アクレージョもお前相手なら割ということ聞くからな」
「はい! 大丈夫ですよ、キシドーさん! 頼まれなくても、レイカさんにちゃんと四六時中お付きしますから!」
「……まあ、俺はいいんだけどお前もやっぱり変なやつだわ」
そして、積み重ねた時間で更にレイカ様にベッタリになっていくヒカリ。
こうしてアクレージョの知らない間に王候補たちの団結は強まり、アクレージョとヒカリが一緒にいる時間が増えていくのだった。
「クシュン! ……埃かしら?」
「おや、風邪ですかい?」
「違うわ。心配無用よ……それよりも、こっちの報告は久々ね」
「ま、何度かちょくちょく他の仕事受けに来てましたが……闇魔法に関係する調査はかなり慎重にしてたから半年ぶりってもんですかね」
さて、家に戻ってきた俺は久々に団長に出会っていた。
半年という時間を使い闇魔法を奪った下手人について調査をしてもらっていたが……ついに情報が掴めたという。
「それで、キシドーの分家が絡んでいて……そこから上は分かったのかしら?」
「バッチリですぜ。いやあ、中々尻尾を掴ませてくれねえんで大変でしたぜ。とはいえ、ちゃんと報酬の分は働いているんで心配なく」
「ええ、心配はしていないわ。魔導書も数冊受け取って、仕事に真面目なのは分かったもの」
「……改めて当主さんは型破りだと思いますぜ。なにせ、俺達みたいな金だけで動くゴロツキをここまで重用するってのもそうだ。普通の貴族ならゴロツキを使うなんて考えもできねえってのに」
「あら、必要なのは格じゃないでしょう? 仕事ができるかどうかよ」
「――ははは! 流石だ! 当主さんらしいや!」
大笑いする団長。
ベタ褒めだが、本当に優秀すぎてたまに「これ以上報酬は貰ってないって言って裏切るような展開とかしないんじゃ……」って思えてきているくらいには重用している。
なにせ、半年の間に調査以外でもいろいろな事情に首を突っ込ませていたくらいだ。本人たちも大人しい騒動よりは騒がしいのが好きだと言っていたので、ちょっと裏社会の重鎮と会談する時の護衛にしたり、アクレージョに喧嘩を売ってきた貴族に殴り込みとかをしたり……まあ、色々だ。そのおかげで傭兵団にちょっと愛着が湧いてきてる。
「で、聞かせてもらえる?」
「はいよ。まず、キシドー家分家に出入りしている裏の人間が居たんでそいつの元を洗ったんでさ。何重にも人を経由してたのを手繰って……んで、ようやく見つけましたぜ」
「そう、どこの誰かしら? キシドー家の本家?」
「ブレイド家ですぜ」
思わず、レイカ様ですらガタンと椅子を揺らしてしまった……おいおい、予想外すぎるぞ……それは。
「……そんな馬鹿な話がある?」
「いいえ、間違いありませんぜ。キシドー家に近い人間も関わってんでしょうが……知ってますかい? ブレイド家にゃ、当主さんの通っている学園の生徒の他にも、正妻のガキがいるってのを」
「……ああ、そういえばそうだったわね。でも、始祖魔法の才能も貴族としての実力もない三流だったはずよ」
シルヴィアくんの家庭環境は複雑なのだが……シルヴィアくんがブレイド家の嫡男として認められた理由。それは、才能の大きさもあるが正妻の子供が始祖魔法の才能を引き継がなかったことが大きいのだ。
ゲームでも詳しくは語られないが、シルヴィアくんは元のブレイド家と相当に色々とあったらしい。だから家名を名乗っていないのに繋がっている。ゲームでも影も形もでてこなかったが……
「その三流が関わってるみたいですぜ。どうにもきな臭いんでさ。場合によっちゃ……四大貴族が全部関わっててもおかしくねえ。なんで、これ以上はこっちもマズいんで調べてねえんですが」
「……いえ、十分よ。報酬は十分に出すわ。またすぐに呼ぶことになるとは思うけど」
「ああ、王選に新しい人間が参加するとのことでしたっけね。そりゃあ忙しいはずでさ」
そう言ってにやりと笑みを浮かべる。
……傭兵団も優秀に成ってきたな。どこからかその情報を掴んだらしい。まあ、金をしっかり払ってるからそれだけ設備や人材も充実する。ちゃんと実力アピールもするとは……出来るやつだなぁ。2とかに出る予定だったのか?
「……耳が早いわね。その新しい候補については調べてみた?」
「ははは、まさか。俺がここに首だけ投げ込まれてないなら何も知らないって話でさ」
まあ、調べたら死ぬ。それだけ王選に関わる人間というのは繊細で危険なのだ。まあ、これはお互いにわかっている冗談みたいなものだけど。だって好きなんだもん。こういうやり取り。
そして話も終わり、団長は立ち上がる。
「ルドガー、送って上げなさい」
「いやいや、別に構いませんぜ。ちゃんと護衛はいるんでね」
「あら、5人で足りるかしら? 少し不用心じゃない?」
サラッと言うと驚く団長。魔力をたどればそれだけ伏せているのが分かる。魔獣退治をしまくった成果でこんな技術も覚えてしまった。
その言葉に動揺が見られて周囲で物音がする。フフ、甘いぜ。レイカ様は日々進化をするのだ。
「……はは、当主さんも恐ろしいご成長で。こりゃ、出し抜ける事は一生なさそうだ」
「そうね。雇い主が配下に劣るわけにはいかないでしょう?」
「いや、それはおかしいですぜ」
冷静なツッコミをしてから、見送りを辞退してそのまま帰っていく団長。ノリいいよな……あの人。
……さて、ブレイド家か。どうにも大物が関わっていて不安も大きいが……この世界で知った情報などのおかげで、頭の中に徐々にデッドエンドに向けた道筋が練られていく。
(忙しくなるな……)
まずは新キャラのあの子との顔合わせ。そして、裏で起こっている陰謀の解決のための奔走……忙しくなる。そのための一歩の前準備。本当に時間的な猶予はない。
しかし、見えてきたレイカ様のエンドのための道筋……自然に、楽しみで笑みが浮かんでくるのだった。
次回新キャラがついに登場するので初投稿です




