三年と成長と新展開 前編
――暗い闇の中に、カンテラの光が灯る。
暗い洞窟の中、歩いてくるのは二人の少女。一人は美しい少女であり、もうひとりは可愛らしい少女だ。
主導しているのは、美しい少女……そして、その二人を狙う怪物がひっそりと襲ってくる。
「早く来なさい」
「は、はい! すぐに行きます!」
その二人に忍び寄るのは、真っ黒に染まった獅子のような怪物。人の体を一口で丸呑みできそうなほどに巨大だというのに、足音一つさせず迫ってくる。
そして、そのまま二人の少女が足を止める。
その瞬間、音もなく獅子は二人の少女を喰らおうと飛びかかり……
「――ヒカリ」
「はい! 準備できてます!」
突然の光に、体が弾かれる獅子。地面にぶつかるとスライムのように体が溶け、そしてすぐに獅子の形に戻る。
すぐさま追撃をしようと構える獅子だが何故か体が動かない。
「それじゃあ、さようなら」
最後に獅子のような怪物が見たのは、美しい少女の燃え盛る剣による一閃だった。
……さて、ダンジョンの30階層。
そこに出てきたライオンっぽい魔獣を倒した。大型に分類されるタイプの魔獣だが、あっさりと討伐できた。というのも……
「ヒカリの始祖魔法はやはり使えるわね。魔獣をこうも簡単に倒せて楽をさせてもらってるわ」
「あ、ありがとうございます! 私も必要だから覚えただけなので……」
純粋に俺たちのレベルアップもあるのだろうが、ヒカリちゃんがシルヴィアくんから教わっていた始祖魔法を習得したのが大きかった。
魔獣に対しては効果抜群な始祖魔法によるアシストとレイカ様の戦闘能力を組み合わせると大型ですらあっさり倒せる。まあ、あの魔獣に関しては存在が分かっていたので罠を張ってたんだけどね。
「20階までは相当に苦労したけどもヒカリが始祖魔法を覚えてから、魔獣も楽に倒せるわね」
「そうですね……もっと早く覚えたかったなぁ……それだったら、もっと楽だったはずですし……あんな死に掛けそうな思いをすることもなかったんですね……」
「失礼ね。死なないように算段は付けていたわよ」
レイカ様の言葉に反応せずに遠い目をするヒカリちゃんの横で、倒した魔獣は死骸になって溶けだす。
……さて、何をしているのかと言われればレベリングだ。あれから日課のようにダンジョンに潜っている。上の階層から魔獣をひたすらに倒し続けて進んでいく。ヒカリちゃんが泣きながら無理ですと何度か弱音を吐いたり、心配して付いてきたシルヴィアくんがドン引きしながら「人道って言葉知ってるかな!?」って言われたレイカ様デスマーチ。ゲームと同じだったので安全なポイントとか回避の仕方を分かってるのに信用されずに泣かれたのも懐かしいな。
「大丈夫だと言うのに、最初の頃は泣き出したりして進まなかったのも懐かしいわね」
「それはそうですよ!? だって、レイカさんについて来たら「とりあえず疲れるまで潜る」って言われて、終わりのわからない中でひたすら魔獣を倒し続けて……! 最初はもう帰れないかって不安で泣いたんですからね!」
「あら、私を信用してなかったのかしら?」
「それとこれとは別ですからね!?」
……すっかりヒカリちゃんも打ち解けたなぁ。
レイカ様に対してこうやってツッコミを入れれる程度には一緒に魔獣を倒してきたからな。さて、時期としては新入生が入学する前だ。半年もあっさりと経過した。
「でも、強くなったのは実感しているでしょう? 模擬戦とはいえ、オウドーもセイドーもあっさり倒せたのは見ていたわ」
「あ、見てたんですか……はい……それはもう、強くなりました。むしろ、これで強くなれなかったら本当に泣いて寝込んでますよ……」
やはり半年もの間、時間が空いたらダンジョンアタックという生活をしていれば本当に強くなっていく。ゲームなら好感度上げとかサブイベントなどやることは多いが、レイカ様には関係ないのでドンドンダンジョンに挑めたからな。
おかげでレイカ様もヒカリちゃんもめっちゃ強くなった。負けじと他の王候補の皆が奮起したので全体的に相当レベルは上がっている……はずだ。データを見れないからレベルとかわからないけど強くなったのは事実だ。
「それで、レイカさん。このダンジョンってどのくらい下まであるんですか?」
「そうね……私の家にあった資料で調べたら、三十五階が最下層らしいわ。とはいえ、残り五階の魔獣の強さは今までの比じゃない程とも書いてあった。だから、準備が整うまではここから先はお預けね」
「本当ですか!?」
……凄い嬉しそうな顔になっているヒカリちゃん。
レイカ様一人で行ってしまうと経験値とかレベルの問題が出るので基本的に連れて行ったからな。結構死にそうな思いをしているので相当キツかったのだろう。
「ええ。そろそろ時期的に新入生も来るわ。それに王選も動いてくるでしょうし……気になる話もあるわ」
「気になる話ですか?」
「ええ……それで、学業の方はおろそかにしてないわよね?」
「はい! アラタちゃんと勉強会をしたりしてるんで大丈夫です!」
……そこで出てくるのアラタちゃんか。いや、いいんだけども……好感度稼ぎによく使う勉強会でカイトくんやホークくんを誘わずにアラタちゃんを選ぶようだと、このまま友情エンドに向かいそうなんだなぁ……
ヒカリちゃんが友情エンドを迎えると色んな伏線が放置されてしまうから不安だ。まあ今は考えても仕方ないのだけどさ。まあ、学力は十分カバーしているならいいか。
「そう。なら上に戻るわ」
「はい!」
そのまま歩いてダンジョンを上がっていく。上の階層は浄化されきってほとんど魔獣は出ない。下の階層も、取りこぼした魔獣が出てくるくらいだ。
レベリングの成果が目に見えると凄いな……そりゃあのロウガくんですらドン引きさせた甲斐はあったということだ。そしてテクテク歩いてダンジョンの入口から出る。すると、眩しい光が差し込んだ。
「まだこんな時間なのね」
「はぁ……やっぱり太陽があると安心しますね!」
「そうね」
ダンジョンの中だと時間の感覚が狂うので、つい長居してしまうことは多いが今回は随分と早かった。一度、半日以上潜っていたせいで死んだのではないかと騒動になったりもしたものだ。
と、なぜかダンジョンの前でシルヴィアくんが笑顔で待っていた。
「お疲れ様、アクレージョさん、ノセージョさん。ダンジョン探索はどうかな?」
「30階層まで到達したわ。ここから下はいずれ挑戦するつもりよ」
「ははは……本当にそこまで行ったんだね。驚きだよ」
完全にドン引きした笑顔になるシルヴィアくん。
超大型に分類される魔獣が最後の5階層には待っている。普通にゲームではエンドコンテンツだったので、余程ヤバいのが待っていると考えるべきだ。
「それで、どうしたのかしら? わざわざ待っているなんて珍しいわね」
「うん、実は学園長から呼ばれているんだ。王候補の全員が」
「そう。準備をしたらすぐに行くわ」
「あっ、私もすぐに行きます!」
さて、どうやら新しいイベントが来るようだ。
さて、時期的には……あの子だろう。その事実に、思わず緊張するのだった。
準備を済ませて学園長室に入ると、すでに全員集合していた。
「おせーぞ、アクレージョ」
「あら、ごめんなさい。ダンジョンに潜っていたのよ」
「……あれまだやってんのか」
ロウガくんですらその一言でマジかよコイツ……という表情になる。カイトくん、ホークくんも同様の表情だ。
何度か、王候補も一緒にレベル上げておくといいかな……と思って適当に連れて行ったのだが毎回「イカれている」「正気を疑う」「人間を過信しすぎている」と評判だった。ツルギくんくらいか、文句なく付いてきてくれたのは。ただ、ヌルゲーになりすぎるのであんまり誘っていない。
「ふむ……拙者もまた付いていきたいが」
「えっと、これで一旦終了らしいです」
「そうか」
ちょっと悲しそうな雰囲気になるツルギくん。半年もそこそこに付き合いがあると感情の変化も読めるように成ってきた。
「ようやくか……ノセージョよ、師匠の修行は大変だったな……」
「そ、そんなことはないですよ? レイカさんも頑張っていたので共同作業と言うか……」
「僕たちからすると、それを含めて大変だといいたいんですが……」
ヒカリちゃんが同情されて慰められている。
……おかしいな。俺が想像していたタイプの仲良さじゃない。被害者の会みたいになっている。
「……まあいいわ。それで学園長は?」
「すぐに来ると……お、来たみたいだね」
と、シルヴィアくんの言葉の後にすぐに奥の扉が開いて学園長が現れる。
「いやはや、すまない。待たせてしまったね」
「爺さん、そんで俺たちを呼び出した用事はなんだ?」
「うむ。拙者たちを呼ぶのなら相応の理由があるのだろう?」
ツルギくんとロウガくんの質問に頷く。
そして椅子に座り、ちょっと疲れた顔を見せる学園長。
「うむ……まあ、突然の話だったのでこちらも色々と慌てているのだよ……これは、君たちに関わる重要な話だ」
「つまり、王選絡みだと?」
「……そうだ」
そして、学園長はどこか重い口を開いて全員に告げる。
ゲームでも驚かせた新展開、それは……
「新しい王候補が見つかった。始祖魔法の才能はヒカリ・ノセージョに匹敵する……いや、それを超えるかもしれない才能の持ち主だ。その子が、転入してくる」
そう、俺が不安に思っていたキャラの登場。
……レイカ様の後釜としてゲームに登場するライバルキャラの出現だ。
2日連続遅刻をしてしまった事と、新章スタートなので初投稿です
ちなみに、作中でレイカ様が言っているダンジョンの資料というのは「ゲーム知識を使うための方便」だったりします




