学園と激闘、ボス戦 前編
戦闘が始まって数分。戦況は……劣勢だった。
「ぐっ!」
「ぬう!」
シルヴィアくんとツルギくんが攻撃を受け止め、そのまま斬ろうとして……無理だと判断し、自分から後ろに飛んで攻撃をいなす。
それを見て追撃をしようとする侵入者に対して、俺も攻撃を加える。しかし、硬い。目の前に侵入者の腕が掠めた。こわっ! しかし、相手の勢いは削いだ! 二人はなんとか体勢を立て直す。
「アクレージョさん!」
「大丈夫よ。仕切り直しね」
あの侵入者の強さにこの三人で苦戦していた。確かにシルヴィアくんは武器は壊れかけていて不調であり、戦力としては普段の半分以下の実力だろうが……それでも、俺とツルギくんがいれば大抵の敵は問題ではない。
だというのに、ここまで苦戦している。つまり……いま暴走しているあの侵入者が強すぎるのだ。多分適正レベルより高いんだろうな、うん。
「数撃程、致命の一撃を入れたつもりだったが……拙者の刀も通らぬか」
「どうなっているのかしらね、あの硬さは」
ボヤきながら、冷静に相手の分析を続ける。あらゆる攻撃をしても弾かれ、まるで大型の魔獣を相手にしているような感覚だ。シルヴィアくんも、俺もツルギくんも魔獣に対して使うような魔法を使っているはずなのに、傷一つ付けられない。
侵入者は、突然グリンと首を動かしてダッシュで飛び込んでくる。狙いはシルヴィアくんか!
「シルヴィア!」
「くうっ! 大丈夫、ですっ!」
シルヴィアくんはレイピアと体捌きで、紙一重ながら相手の攻撃を受け流した。シルヴィアくんの一対一での強さがここではプラスに働いているようだ。
受け流され地面に激突する侵入者。魔獣とは違って生物の動きを無視した体の動きはしてこないのは助かる。しかし、地面が抉れたぞ。ダンプカーか何かかよ。
(……しかし、なんだろうな)
そして、今度は相手を変えて侵入者はツルギくんへ突撃。ツルギくんも躱しながら攻撃を加えるが……やはりダメージはない。
そして外れた攻撃が近くに生えている人間の胴体ほどもある太い幹を薙ぎ倒す。ただ腕を振り回しているだけなのにこの威力……恐ろしいな。一歩間違えるだけで、武器は壊れるだろう。体に当たれば間違いなく死ぬな。
徐々に消耗してきて、シルヴィアくんもツルギくんも息が上がってきている。
「はぁ、はぁっ……! くっ……一体どうすれば」
「……あれを放置はできぬが……ふぅ……手が足らぬな……」
(……うん、やっぱりそうだ)
観察していて俺はあることに気づいた。
そして、それが間違ってないか観察しながらとある事をする……そして、侵入者は――
シルヴィアくんをターゲットして飛び込んできた。
「くっ、今度はこっちか!」
侵入者が今度はシルヴィアくんに突撃してくる。対応しようにも、ロケットのように突撃してくる侵入者の速度が早すぎて自分以外への対応が遅れるのだ。
シルヴィアくんは数度目になる、レイピアを使った受け流しをしようとして……
「なっ! くそ、限界か……!」
バキンと言う音がする。それは、武器がついに折れてしまった音。
ただでさえシルヴィアくんは整備不足の武器で無理をしていたのだ。ツルギくんやレイカ様の武器ですら壊れておかしくない戦い。時間の問題だった。むしろ、ここまで保たせていた技量に驚嘆するべきだろう。当然ながら勢いを殺しきれず、シルヴィアくんに致命の一撃が襲いかかる。
「くっ――」
そう、あの速度で突っ込んでくる敵に対して他に意識を他に割けない。一歩間違えれば対応できずに突撃されて死ぬからだ。
……だが、最初から誰を狙うか当たりをつけておけば最速で助けに入れる。そう――
「――私を無視するなんて、いい度胸ね!」
このように!
振りかぶる侵入者へ、横から剣を叩きつけるように思いっきりフルスイング……そして、その一撃を食らった侵入者の体を剣が引き裂いていく。そして、自分が致命的な攻撃を食らったことを理解した侵入者は攻撃を止め、人体のダメージを無視したような動きで飛び退いた。
先程まで攻撃が弾かれ続いていたのを見たシルヴィアくんは驚いた表情を見せる。
「あ、アクレージョさん!? 一体どうやって……」
「アレの体の原理がわかったわ。魔法剣と同じよ」
「……魔法剣、そういうことか!」
その説明で、すぐに理解をするシルヴィアくん。
あの侵入者は魔力を自分の体に流して保護しているのだ。ロウガくんとレイカ様の戦いで見せた武器に魔力を全力で注ぎ込んで強化する魔法剣。それを肉体でしているのだろう。
「……身を纏っている魔力が体を保護する鎧のようになっているのか! それなら、魔獣に対する攻撃と同じなら通らないのも道理だ……!」
この世界の常識として触媒を使わず魔法を使うことは困難だ。多少の魔法は使えるがひどく弱く安定しない。
しいて言うなら、人体というのは魔力という水を体の中に押し止めるための袋みたいなものだ。袋が水を通したら意味がないので、魔力は非常に体に流れづらい。その常識があるからこそ、触媒もなく体に魔力を通して強化している認識が出来なかったのだ。
「アクレージョ殿、よくそれだけの魔力を込めれて……」
「ええ、これも気付いた事だけども……狙っているのはシルヴィアとツルギよ。私は自分から攻撃しなければ殆ど狙われてないわ。魔法剣を使うほどの魔力を込めたのにも関わらずね」
これが、もう一つの気付きだ。
侵入者の狙いは偏っている。先程の魔法剣も、魔獣であればすぐに魔力に気づいてこちらにターゲットを変えただろう。つまり、あれは魔力を捕食する魔獣のように本能で動いているわけではなく……何らかの優先度があるのだろう。
「おそらくだけど……貴方達の共通項は始祖魔法。あれは始祖魔法の使い手を狙っているわ」
「……なるほど、だからアクレージョさんが気付かれずに一撃を食らわせられたと。これならアレを倒す事は……」
「無理でしょうね。見てみなさい」
その言葉にシルヴィアくんは侵入者を見て驚く。剣による一撃で胴体の半分に届くような切り傷だったが……それは、黒いヘドロのような血が溢れ出して塞いでいくのだ。
「なんだ……まるで、汚染されているような……」
「そうね。ここからは私の推測だけども……」
それを言う前に、侵入者は上を向いて大きく口を開ける。
「オオオオオ!」
獣のような咆哮。すると、近くから小型の魔獣が現れる。最初に取り囲んだヘビ型の魔獣だ。それが数匹。
しかし、それはこちらに対して攻撃をするどころか……寄ってすら来ない。一目散に侵入者に向かっていく。
「魔獣を何故……?」
「……推測は当たっていたみたいね。あれはおそらく……魔獣と同じよ。そうね、名付けるなら……魔人かしら? 魔獣のような人だもの」
そして、近くまで来た魔獣を……想像したとおり侵入者は掴んで食らった。
正気を疑うような光景に、近くのカーマセやシルヴィアくんは気分悪そうに口を抑える。あのツルギくんですら、眉をひそめている。俺は原作だったら雑魚を使ってHP回復するタイプのボスだな……と状況を脳内でゲームに変換して他人事のように考えていたので無事だ。ぐちゃぐちゃと咀嚼しながら回復をしているのだろう
今がチャンスに見えるが……様子見で風魔法の牽制を放つ。そして、それが着弾する前に打ち払われた。腕の動きが一切見えなかったので、突っ込んでいたら間違いなく躱せずにゲームオーバーだろう。
「……安易に踏み込めば反撃されるみたいね。見た所、アレから溢れてくる体液は魔獣の死骸と同じだと思うわ。流れ出た体液で汚染されて、アレはその汚染でどうやら体を修復しているようね……どういう理屈かわからないけども、魔獣と同じと思っていいわ。そして、魔獣の理屈に従えば……アレを両断しないと止まらないでしょうね。でも、アレを両断する事は難しい」
「三人で襲いかかれば……いや、犠牲者が出るな。それに失敗すれば三人とも無為に死ぬだけだろう」
ツルギくんの言葉にうなずく。
本気の攻撃でアイツをぶった切るつもりだったが途中で反応して逃げ出した。人間的な痛みとかもないだろうし、足をぶった切るとかしないと動きは止められないだろう。そしてちょっとでも放置すると回復し、近づけば反撃される。そして回復したらまた突撃して攻撃……うーん、負けイベントみたいな理不尽さだ。
でも、既に解決方法は考えている。
「でも、手は思いついたわ。浄化よ」
「浄化……? そうか、始祖魔法か!」
「ええ」
シルヴィアくんの言葉に同意する。
そう、始祖魔法は魔獣の死骸を浄化する。おそらく、侵入者の体に流れているのは魔獣の死骸のような何かだ。だから、それを浄化してしまえば……
「おそらく崩壊すると思うわ。だから、あの保護している魔力を引き裂いて、そこから直接始祖魔法を流し込むの」
「たしかにそれならば……だが、問題がある」
「ええ、一人では難しいでしょうね。だから、私が切り裂いてこじ開ける。そこに武器を突き刺して始祖魔法を流し込めば勝機はあるわ。このまま続けるよりも賭ける価値はあるでしょう?」
「アクレージョ殿、問題がある……始祖魔法の魔道書は公開されておらぬのだ」
「ええ、知っているわ」
そう、実は始祖魔法は悪用などを防ぐために秘匿されているのだ。
だから、独学で始祖魔法を攻撃用に使えるように開発するか……もしくは、その血筋から始祖魔法の魔導書の閲覧を許されているかしか方法はない。ゲームでも一部キャラしか使えないので貴重だったりする。そして、その貴重な一部のキャラが……
「シルヴィア」
「……はは、よく知っているね……まるで千里眼でも持っているみたいだ。お察しの通り、僕なら始祖魔法を攻撃のために使えるよ。ただ、武器が……」
「……ならば、これを使ってくれ」
シルヴィアくんの言葉に、そう提案をしたのはカーマセ。
腰に下げていた剣の柄をシルヴィアくんに向けている。体は震え、今でも辛いだろうに堪えている。
「シルヴィア、君の壊れた武器に比べれば格は落ちるだろうが……それでも、このカーマセの武器だ……ふっ、始祖魔法を使っても耐えられるさ……ふふ、力になれないと思っていたが……これで、僕も一助になれるだろうか?」
「――ありがとう。使わせてもらうよ」
カーマセの意思を継いで、シルヴィアくんは剣を受け取る。少し振って、問題がないと確認し剣を握る。
よし、準備はできた。
「拙者がアクレージョ殿が攻撃をする隙を作ろう」
「ええ、頼んだわ……しかし、奇妙な話ね。最初は敵対してた私達が協力するだなんて」
「あはは、全くだね」
「ふっ……」
レイカ様の一言に三人が笑みを浮かべる。緊張がほぐれ、余分な力が抜けた。
そして……侵入者は食事が終わったのかすっかり元気になり、こちらをヘドロのような目で見ている。
……そして一歩前にツルギくんが踏み出し、刀を構える。
「ツルギ・ムラマサ――参る」
そして、このボスを倒すための……最後の作戦が始まった。
久々の前後篇になったので初投稿です
誤字報告などありがとうございます。非情に助かっております
評価など励みになっており、よくにやけながら見ております。もっといっぱいの人に見て楽しんでもらえるよう精進しますので、これからも読んでいただければ幸いです




