学園でクエスト続行中
――目が覚めると、知らない天井だった。
うん、往年の名作アニメみたいなセリフが出てきた。前世は思い出さないのにこんなのは思い出すんだ……という気持ちになる。
周囲を見渡すと……なるほど、ここは医務室か。眠ってしまってから運ばれたのだろう。冷静に現状分析をしていると医務室の扉が開く。
「あ、レイカさん!」
「お嬢様、お目覚めになられましたか」
ヒカリちゃんとルドガーだ。どうやら、二人で席を外していたらしい。
「……うたた寝をしてしまったみたいね。ルドガー、寝ている間に何かあったかしら?」
「はい。医務室にいる医者にお嬢様の体調について検査をしていただきました。魔力の欠乏による疲労。その疲労と失った魔力の回復のために眠ったのだろうということです。それ以外で問題はないとのことでした」
「そう、分かったわ」
休んだときに魔力の欠乏は自覚していたので取り立てて気にする内容でもない。
とはいえ、ルドガーからすれば突然レイカ様が倒れてしまったと報告を受けて驚いたことだろう。一応、気を使っておこう。
「ルドガー、心配をかけたようね」
「いえ、滅相もございません。お嬢様であれば問題はないと信用しておりました。とはいえ、最近のお嬢様は根を詰めすぎているのでゆっくりと静養して頂く事を優先しました。勝手な判断をして申し訳ありません」
「あら、ルドガーの忠告を無視するほど短い付き合いじゃないはずよ? それとヒカリ。運んでくれたこと感謝するわ」
「は、はい!」
ううむ、ルドガーに心配されるほどだったか。まあ、最近は剣聖徒に向けて忙しくしてたからなぁ。あまり無理をしないように気をつけておくか。
「それで、他には?」
「セイドー様より詳しい話をヒカリ様が聞いておられます」
「えっと、ホークくんから。死骸のサイズから中型の魔獣の出没だと確認が取れましたとのことです。ホークくんからは、今回のことは想定していなかったのでレイカさん……アクレージョ様にはご迷惑をおかけしましたって謝って……」
「謝罪は直接聞くわ。続きを」
「わかりました。それで、ホークくんはレイカさんは疲労しているだろうから、明日にまた話をしたいと言っていました。それと、簡単に調べたらあの魔獣は森からやってきたとも言ってました」
「森から? ダンジョンではなくて?」
「はい。ホークくんもダンジョンじゃなく森から? って言っていました」
その言葉に思わず考え込む。
ダンジョンというのは魔力に寄せられて集まった魔獣が溜まっている住処だ。一定数を超えた魔獣が一箇所に集まると、完全に汚染されてダンジョンとなる。ダンジョンになると、本来しないはずの共食いを魔獣がし始めて、サイズの大きい魔獣が発生しやすくなる。
ただし、ダンジョンの中に適応するせいでダンジョンに住む魔獣は高濃度の魔力に満ちているダンジョンの中以外では体の維持が難しくなるらしい。なので、何かしらの理由がなければダンジョンから出てこなくなる。と、本題はそこではない。
(サイズの大きい魔獣が出てくるのは基本的にダンジョンなんだよな。偶然出てきて地上に適応するか、餌を食えずに地上に魔力を求めて抜け出してくるかで。でも、森から出てきたということは……対策しているはずの森を抜け出てくる何かがあるってことか)
ダンジョンから魔獣が出てくる確率は低く、出てきてもサイズに比べて弱っているので大した強さではない。なので封じ込めも簡単なものになっている。一方森から大きいサイズの魔獣が出てくると場合によっては死者もでることになるので大型は通らないように厳重に対策をしている。
そこからあのサイズの魔獣が抜け出してくるということは、対策か森自体に何かしらの問題があったということだ。
「なるほど……報告はそれで十分よ、ヒカリ」
「わかりました!」
「お嬢様。セイドー家についてはいかが致しましょうか? 今回の件に関しては、お嬢様だからこそ問題になりませんでしたが、アクレージョ家当主の身に危害が及ぶかもしれない事態でしたので……」
「こちらで使える手札だから私で交渉するわ。ルドガーには別件を頼みたいから、一度帰っても大丈夫よ」
「かしこまりました、お嬢様」
そう言って一礼して医務室を出ていくルドガー。
ううむ、こちらを信じて己の職務に忠実に動く。カッコいい執事ってああいうのを言うんだよな。
ヒカリちゃんを見るとポーっとしたような表情だ。
「あら、ヒカリはルドガーみたいなのが好み?」
「い、いえ! 違います! ただ、かっこいいやり取りだなーって思って」
すごい勢いで否定をされた。
あんまりにも本気の表情で否定をされたので、そのまま突っ込まずに流す。だって怖いし。
「……まあいいわ。それでセイドーとは明日どこで待ち合わせかしら?」
「ホークくんですか? えっと、図書館で待っているそうです。時間は気にしなくてもいつでもいいと」
「あら、いい心がけね」
多分、明日は話し合いをして図書館で自習をしているのだろう。この学校、単位が足りているなら別に授業に出なくてもいいからね。
……さて、朝早くに行くほうがいいか、それとも放課後に待たせるのがいいか。どっちがホークくんは嫌がるかな……と悪役令嬢っぽい時間を考えるのだった。
そして次の日、中途半端な昼に行ってみた。ホークくんは、本を読んでいたがレイカ様を見つけると申し訳無さそうな表情で立ち上がり頭を下げる。
「昨日は失礼しました。こちらの予想外の出来事とはいえ、アクレージョさんにお手数をおかけして怪我をさせる危険に及ばせたことを謝罪いたします」
「いえ、構わないわ」
「当家からのお詫びとして――」
「あら、気にしなくてもいいわ。ただ、こういう事があったのだと覚えておくだけで許してあげる」
「……そう、ですか。わかりました」
そういって余裕の笑みを浮かべるレイカ様に、ホークくんは悔しそうな表情を少し浮かべてすぐに笑顔に戻す。まあ、つまりは弱みとして握っておくから覚悟しとけって宣言だな。
しかし、ホークくんも災難だ。レイカ様に借りにもなり得るようなことを無料で使わせられるはずが、不慮の事故で弱みにされてしまったからね。理不尽に思えるがホークくんは賭けに失敗してしまったので同情はしても容赦はしない。これでも悪役令嬢だからね!
「それで、魔獣の件はどう対処するのかしら?」
「はい、それについてお話がありまして」
分かっていたとばかりに淀みなく答えるホークくん。
さて、これからが本題だ。
「少々予定と違いますが、森に今回の件に関して調査へ出向いて頂けるでしょうか?」
「あら、学園側で動かないのかしら?」
「というよりも、学園側も動けないというのが正しいですね。学園側としても中型の魔獣に対処できる人材が限られますし、外部から魔獣の対処が出来る人間を呼ぶには時間がかかります。なるべく剣聖徒というイベントが待っているので、学内でもいいから早急に調査をしたいということです」
「そう。それで、こちらのメリットは?」
まあ、それが問題だ。学生とはいえ、報酬もなく魔獣の住んでいる森に行くなどしたくはない。こちらも家を継ぐ貴族なのだ。
レイカ様の実力を見込んだ頼みだろうが、相応の礼は出すんだろうなと威圧をする。
「学園側からも、ちゃんとした報酬は出すとのことです。もしも欲しい物があるのならこちらから交渉という手もありますが。今の所、提示としては王宮で保管している貴重な魔法の……」
「それは必要ないわ。その代わり、欲しい物があるのだけどいいかしら?」
「……なんでしょうか? 中々に貴重なものなんですが」
「ダンジョンに自由に出入りする許可」
その言葉に怪訝な表情を浮かべるホークくん。
まあ、これに関してはちゃんと理由があるのだ。
「そんなものでいいのですか? 確かにダンジョンの使用許可に関しては学園に申請の上で審査されて認可されるので時間はかかりますが……」
「ええ。どうせ剣聖徒に関する事を要求しても意味がないもの。それにダンジョンに興味があったの」
意味がないというのは、学園はあくまでも学園の運営やら生徒の管理以外で関与はしないからだ。剣聖徒や剣舞会。他の様々な学内で行われるイベントは学生の主導で行われている。まあ、この学園の生徒は貴族なので学園の大人が動くのではなく、自主的に動かないと意味がないという理由らしい。
まあ、考えてみればゲームで学生が主体になるからそういう設定なんだろうとは思う。
「……分かりました。では、報酬にダンジョンへの入場権ということで学園側に交渉してみます」
「ええ、お願いするわ……思ったより素直なのね?」
「あはは、アクレージョさんに余計なことをしようとしたらこちらが痛い目を見そうなので。アクレージョ家についてすっかり認識を改めましたよ」
そう言って笑みを浮かべるが、その目は笑っていない。
ホークくんは多分、レイカ様が油断をしたら骨の髄まで食い尽くされる相手だと思っているのだろう。ふふふ、悪役令嬢に対する正しい認識だと嬉しくなる。
「なら、いい勉強になったわね」
「そうですね。今後はアクレージョと関わるときには、警戒をするようにメモに残しておきます」
「そう? 警戒程度じゃ足りないんじゃないかしら?」
「ははは、その時にはメモではなく行動で示しますよ」
二人して軽口を叩く。
「それで、森の調査について詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」
「ええ。分かりました。それではいっしょに調査する人ですが……」
そして、剣聖徒になるための一歩に繋がるであろう次なるクエストについての情報を聞くのだった。
実家に帰省したら田舎が開発されてびっくりしたので初投稿です




