表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/115

悪役令嬢のフラグ管理中です

 さて……転生してから半年。

 場面は飛んでゲームの舞台となるクラウン学園の中庭。そこでレイカ様になった俺は一人の男と対峙していた。

 俺の目の前で青い顔をして必死に視線をそらす学生服の男。おい、何視線そらしてんだ。レイカ様に対面してんだぞちゃんとこの美しい顔を見ろ。


「――貴方はアクレージョ家に不満を持ち、陰口を叩いていたのよね?」

「そ、そんなことは……」

「ないの? なら、ちゃんと納得の出来る説明をしなさい」


 さて、俺は何をしているのかというと……レイカ様の陰口を言っていた男子生徒を詰問しているところだ。

 内容は何だったかな……レイカ様をディスるような奴の喋っていた内容は覚えてない。まあ、成り上がりだの調子に乗ってるだのそういうことだったはずだ。

 ここらへんは実際に成り上がりではあるのだが、それでもレイカ様はちゃんと実力で勝ち取った貴族だ。これがどこぞの貴族の当主だと、立場があるので歯噛みして復讐リストに入れる程度だが学生相手なら現役当主のこちらが上。なので、こうしてレイカ様の悪口を言った報いを受けてもらっている。


「い、いえその……違う家のことで……」

「そう。でもアクレージョの名前を出した以上、貴方はアクレージョに対して何か含みがあるということでしょう?」

「も、申し訳ありません!」

「心のない謝罪なんていいわ。どうするのか。すぐに答えなさい」


 そうして睨みつけると、その男は縮こまって涙目になり震え始める。

 まあ、実際どうするのが正解なのかといえば……まあ、実利ある返答だよなぁ。コネとか、物品とか。相手も貴族なのだ。格上に対する侮辱に対しては価値あるものでしか返せない。

 誠意とかは一円にもならんのです。レイカ様はこういう所がシビアなのでとても素敵! 欲するのは金! コネ! 権力! 成り上がった実力派にとってはこんな雑魚学生なんて敵じゃねえってわけだ!


「答えれないの? なら貴方の席はこの学園にはないわ。去りなさい」

「ま、待って下さい! これは違うんです! 聞き間違いで……!」

「聞き間違い? アクレージョ家当主に対して無礼な口利きをしていたのを聞き間違いだというのね? なら、審判をしてもらおうかしら? 間違いであれば、公正なる判断を国がしてくれるわ」

「あ、ああ! それは……!」


 審判というのは魔法を使った裁判みたいなものだ。こういう所はファンタジーなのである。魔法がある世界って怖いよね。

 もう顔は真っ青を通り越して白くなっている。しかし後悔しても遅いのだよ。多分、どっかの貴族の次男坊当たりなのでどうにも出来ないだろう。


「審判を受けたくないなら、さっさと荷物をまとめて学園から出ていきなさい。帰る家が欲しいのならね」

「あぐ……うぅ……」


 絶望しきった表情でトボトボと下がっていく男に何の意識も向けずにその場を去るように歩き始める。

 ……ああ、レイカ様だ! これがレイカ様なんだよ! 自分の完成度に思わずガッツポーズをする。

 父親が死んだことでアクレージョ家の当主になっているレイカ様は、その権力を全て学生の身で扱える。だからこそ、作中でも悪役令嬢としての格が違うのだ。学園ではコネを繋げまくっているので、こうして逆らった人間を追放することも造作ないわけだ。


(これで反発がないなら権力は十分だな……半年でここまで出来るなんて……さすがレイカ様……俺の推し、凄い……好き……)


 思い出してから日記に記憶を思い出しながらルートを記載し、何をするべきかをタスク化した。

 まずはレイカ様としての地盤硬め。学園の権力の掌握だ。学生とはいえ、ちゃんと貴族の当主であるレイカ様。学業をおろそかにしなければ自由にして良い校風なので必死にセッティングをしまくって顔を繋ぎ、工作をしてきた。

 半年の間に学園でゲームでみたようなレイカ様の権力基盤を築くための努力は本当に大変だった……多分、俺だったら無理だったけども、レイカ様のスペックだと不可能に思えたタスクもあっという間にこなせたのは流石としか言えない。


(まあ、地道な作業だったけどね……)


 権力者に手紙を出して合う約束を取ったり、会食やパーティーなどに出席して顔をつないだり、貴族としての実績を積むために色々と顔を出したり手伝いをしたり……出席できない授業を必死に独学とかでカバーしたり……

 そんな半年だったので、地味すぎて語ることがなかった。イベントのない貴族生活、本当にドロドロとしてるくせに地味なんだよな……推しになったという事実がなければ耐えれなかった。

 と、歩いているとどこからともなく女子生徒がやってくる。


「レイカ様! お疲れさまでした!」

「レイカ様! こちらの飲み物をどうぞ!」

「……別に必要ないわ」

「わかりましたわ! ところで、今度我が家でパーティーをしますの。ぜひレイカ様も……」

「待ちなさい! 私のところでも大臣が来られますの! ぜひレイカ様に……」


 ……そういえば、一つだけ誤算というか予想してないことがあった。

 というのは、何故か学園の女子がやけに俺に対して近寄ってくるのだ。いや、原作的にも取り巻きは居たけどこういう感じじゃなかったような気がする。

 なんかもっと怯えるような感じというか、へいこらしてたような……こうして飲み物を差し入れされたり、パーティーに誘われる描写なかったんだけどなぁ


「――黙りなさい。騒がしいのは嫌いよ。それに予定はもう詰まっているわ」

「「失礼しましたレイカ様!」」


 競い合っていた二人が背筋を伸ばしてそう返事をする。体育会系なのか? この学校めっちゃ緩いはずなんだけど。

 ……うーん……なんだろう? なんかこう……もっとCGとかだと女子生徒ちゃんたち、レイカ様に怯えてる感じあったよな……? まあ、実際にはこうやっていい顔をしてレイカ様に取り入ろうとしてたのかも知れないな。あのCGは誇張表現だったんだろう、多分。

 そのまま俺は二人の子を無視して足を進める。悪役令嬢というのは暇がないのだ。あと、そろそろ攻略対象に伏線とか張らないとな……


「……ああ、行ってしまったわ……レイカ様……」

「素敵よね……女性らしくも、どこか男性のような荒々しさ……」

「ええ。あらゆる権力者とも引けを取らぬ姿は本当に格好いいですわね……」

「所作も作法も完璧ですから同じ女性として嫉妬しそうなのに……不思議と、どこか男性のようで……嫉妬や畏怖よりも、憧れが来てしまいますものね……本当に素敵」

「ええ、全くですわ。表立って言う人はいませんけども……もしもレイカ様が男性として生まれていたら、アクレージョ家はおそらく王家に匹敵する権力を得ていたという人もいますわ」

「ですが私は……むしろ粗野な男性になるよりも、今のほうがいい気がしますわ」

「ええ。私もそう思いますわ」



「クシュンッ! ……風邪かしら?」


 体調管理には気をつけてるんだけどもなぁ……レイカ様の身体を預かる身としては、傷一つつけないという強い気持ちを持っているからケアもバッチリだ。

 さて、それはそうと今日は何をするのか……簡単に言うと、プリブレの攻略対象である王子候補達にちょっかいを掛けに行く。

 この世界では、絶対王政であり特別な始祖魔法の力を持つ直径の子孫のみが王になれる。魔法原理主義ってやつなのだ。

 レイカ様は成り上がりの家系であり、魔法の才はあるが王になることは出来ない。一代で父親が貴族になったものの、権力自体は決して高いものではないし父親が死んでしまったのでこれ以上の成り上がりは難しい。そんな彼女の目的は……


「私の目的は唯一つ。私が王になること」


 口に出すとしっくり来るな……そう、レイカ様は成り上がりの家系から王の立場を簒奪(さんだつ)しようとクーデターを目論んでいるのだ。学生の立場なのにすげえな、俺の推し。

 才覚と己の魔力の高さを活かし、王の立場を簒奪(さんだつ)する基盤を学園から作っていき、王の候補生を全て追放して候補をなくし己こそが王の地位になる……という目的のために暗躍していたのだ。

 まあ、ファンブック情報だが実際には暗殺とかダークな手も使っていたとか……思い切りがいいのもレイカ様は素敵だよな……実際、邪魔になるなら暗殺だって厭わないつもりだ。それが俺の推しの人生だというのならな!

 と、話がブレた。まずは攻略対象についてだ。


(プリブレでは、6人の攻略対象王子がいるけど……レイカ様はゲーム開始前から3人までは関わりがあったんだよな)


 ヤンキー系王子、ロウガくん。

 涼やかな優しい先輩王子、シルヴィアくん。

 そして武人系王子、ツルギくんの三人だ。


 まあ、武人系王子ツルギくんは特殊すぎてアレなんだが。

 残りの攻略対象二人は主人公と一緒に入学する同級生。あと一人は後輩でかなり特殊なので今は考えなくていい。


(まずはヤンキー系王子、ロウガくんだな。シルヴィアくんは正直アポ取りづらいしツルギくんは今は山籠りしてるだろうし)


 シルヴィアくん、涼やかで優しいけど一番貴族してるんだよな……公式で暗躍とか色々やってるって言われてるし。なので気楽に会えないのだ。

 ツルギくんは逆に貴族をしてなさすぎるんだよ。武人系だからって山籠りするんじゃないよ。せめて学園で勉強しろ。山のどこに居るんだよ。

 と、そんな愚痴を脳内で呟きながらロウガくんの遭遇スポットである校舎裏に行く。そこにヤンキー座りのイケメンがいた。ヤンキーだけど絵になるな。そこへ歩いていき、声をかける。


「――あら、先約かしら? 確か……王子候補のロウガだったかしらね」

「ああ、なんだコラ? ……ちっ、なんだ。アクレージョか」

「あら、知っているの?」

「けっ、お前ほどの有名人を知らねえわけねえだろ」


 この野郎、レイカ様に生意気な口を聞きやがって……! なんてキレることはない。というのも、ロウガの家はこの国でも有数の貴族。アクレージョよりもはるか上の地位にいるのだ。つまりこの態度も穏当な方なのだ。

 こうやって対等な顔をしているレイカ様だが、突っ込まれるとレイカ様の方が不躾になる……まあ、現役当主と王子候補なのである程度の礼儀に関しては許されるのだが。まあ貴族社会は不可思議で面倒なのだと思えばいい。


「んで、俺に何のようだ? お前」

「あら、レディに対してお前なんて失礼ね。クラウン国の犬は躾もなってないのかしら?」

「ああ!? 誰が犬だ!」

「失礼。気にしていたのね。首輪を見せつけて自慢するかと思っていたわ」


 そう言って冷笑する。ロウガくんの家は建国してからの貴族であり軍部の重鎮なのだ。なので、アクレージョ家からすれば自分のないものを持っていて己の野望の邪魔になる目の上のたんこぶというわけだ。

 確か……五兄弟の四人目だったはずだが、唯一始祖魔法の素質を引き継いで王子候補になったらしい。軍属を希望していたのに、王子候補として送り出されて不満を持ってグレたとか。ちなみに攻略すると、めちゃくちゃ献身的になるのでギャップでやられるお嬢様方が多数いる。ギャップは強いよな。

 今も明らかにキレているように見えるが、根が良い子なので女の子に怒らないように冷静になろうとしているのだ。


「ちっ……さっさと用事を言え。俺に話しかけたってことは何かあるんだろうが」

「ええ。貴方の一つ上のお兄様とお話をしたいのだけども、紹介してくれないかしら?」


 余裕を持った笑みでそう尋ねる。

 すると、狂犬のような顔でギリッと睨みつける。おお、これがロウガ睨み……! 一部の女性から殺人的すぎて心臓が止まると名高い笑みだ……! リアルだとかなり迫力あるな……

 ……ちなみに、ロウガくんは絶賛反抗期。当主として軍部を統べる立場になることの確定している兄に対して複雑な感情を抱いている。そんなところへ、いきなり不躾なお願いをするのだ。怒って当然だろう。


「……悪いが断る。出直しな」

「そう? まあ期待はしてなかったわ」


 思ったよりも冷静にそう言われる。ここで怒らない当たり、流石軍属希望の王子様だなぁ……

 まあ、お兄さんとの和解って個別ルートでやっと出来るレベルの複雑なこじれ方だもんね。

 実は俺の予定はここで終了だ。不躾なことをお願いして、断られても分かってたような顔して諦める。これでロウガくんはレイカ様に悪感情を抱いただろう。というか公式でもこんな感じのショートストーリー公開されてたから踏襲しておけば問題なかった。


「それなら失礼するわ。もしも、準備が出来たのなら私に連絡を頂戴」

「……おい、お前。勝手に」

「では、良い返事を期待しているわね」


 一方的にそう言い放って、聞き終わらずに歩いて帰っていく。

 ふふ、これによってロウガくんはレイカ様に対して反発する。それが原因でレイカ様が辛く当たる主人公と接点が生まれるのだ。結構ロウガくんって優しくて気がいいからね。こういう失礼な行為に対しては厳しいはずだ。

 さて、次の仕込みのために準備だ……推し活は大変だぜ。

 ……推し活ってこんなのだっけ?



「ロウガ様」

「……レイジか」


 アクレージョが去っていた後、気配を消していたらしい従者のレイジが現れる。


「良いのですか? アクレージョといえば成り上がりの家系。あのような無礼を……」

「構わねえよ。それに、見たか? あの女」

「ええ……噂に違わぬ様子でしたね」


 そういうレイジに、俺も同意する。


「ありゃ傑物だ。女って偽っている男だと言われても信じたくなるレベルでな。俺に睨まれてあの余裕だぜ?」

「ええ。ロウガ様が威圧をしたというのに動じていませんでしたね。私でも、ヒヤリとするものがあるというのに」

「それどころか、薄く笑ってやがった……クソ、負けた気分だぜ」

「どうしましょうか? 命令であれば何かしらの対処を……」

「やめろ……あの女は嫌いじゃねえ。余計なことはすんな」

「わかりました」


 そう言ってレイジは影に潜んで気配を消す。

 ……ちっ、兄貴と顔を繋ぎたいか……いずれ、この国の軍部を引き継ぐ兄貴と顔を繋ぎたい。その意図は理解できる。

 だが、それだけではないと思わせる。もっと大きい意図をあの女から俺は感じた。


「ククッ……レイカか……面白え女じゃねえか」


 俺の望みと関係なく、こんな平和ボケした学園に送られて腐っていた。だが、あの女がいるのであれば……

 思わず、口から笑みが漏れる。退屈でつまらないと思っていた学園生活だが……思っているよりも、面白いものになるかも知れない。

初連続投下なので初投稿です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 所作や作法が完璧という点が気になります。 貴族としての教育を受けておらずレイカとしての記憶も残ってない主人公が、原作知識を持っていたとしてもそのようが行動できるのは不自然なのではないか…
[良い点] 毎秒連続投稿しろ(豹変)
[一言] おもしれえ女RTA……これにて完結です……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ