闇の魔法とそれぞれの結末と 後編
「……ムラマサさん!?」
場内に踏み込んだホークは驚きの声を上げる。
そこには数え切れない程の剣戟の跡と、血塗れになりながらも未だに立ちながら剣を構えているツルギの姿、そして、最後に切り伏せられる魔人の姿だった。
「……セイドー殿か……では、これで守りきれたか」
目の前に居た魔人はそのまま灰になって消えていく。そして、ツルギの周囲にはまるで砂浜のように灰が大量に残っていた。それは、数え切れないほどの魔人を倒したという証拠だ。
ホークの姿を見て安心したのかツルギは剣を降ろし……膝から崩れ落ちる。
「ムラマサさん!? だ、大丈夫ですか!? いや、大丈夫じゃないのは見て分かりますが!」
「……流石に、雑兵とはいえ、死なぬ兵と戦うのは初めてだったのでな……思った以上に攻撃を食らってしまった。まったくもって不覚だ……」
そういうツルギだが、何度倒しても復活する兵を相手に終わりの見えない戦いをし続けていて戦意を失っていないのはもはや狂気とも言える。
まだ自分の迂闊さを嘆くツルギに対して、ホークはその姿に思わず気圧されそうになる。
「ムラマサさん……」
「血を失いすぎた。とは言え、まだ終わってはおらぬ……」
そう言って立ち上がろうとするツルギの事を必死に止めるホーク。
「ま、待ってください! 無理でしょう! 少なくとも、邪魔になります!」
「……そうか。拙者も足手まといではあるな。援護に行きたかったが……」
「ここで守りきっただけで十分ですよ!」
ホークの言葉に素直に頷いて聞き分けるツルギ。
誰かの忠告などの言葉を聞けるようになったのは、ツルギの成長だろう。
「そうか……では、少し寝るとしよう……」
「いえいえ!? 本当にこのまま死にますからね!? 流石に医者に見せますから!」
「……そうか。すまぬな」
「気にしないでください。これでも一緒に戦ってきた戦友みたいなものですから」
弱々しい声でそう言うツルギに肩を貸しながら、そのまま真っすぐと歩いていくツルギ。
呼吸が弱く、ここで意識を失うと本当に危ないと感じたホークはツルギの意識を途切れさせないために声をかけ続ける。
「ムラマサさん、それにしても本当に強いですね……どうしてここまで鍛えれたんですか?」
「……拙者の生家は……堕落し、権利を貪るようになっていた事は知っているであろう……?」
「ええ、それは聞いたことがあります」
「……始祖魔法の才能を持つ子は生まれてこず……そして、才能を持って生まれた拙者は幾度となく利用されようとしてきて……一度は……他の貴族に売られそうになったこともある……」
「それは……」
予想だにしていない過去の話に驚くホークへ続ける。
「だから、拙者が……強くならねばと思った……他者を信用せず、己だけで……」
「なるほど……そうだったんですね」
「うむ……しかし、この王選で……少し、考えが変わった……他者と関わるのも……悪くないと……」
「それは良かったです。ほら、段差があるので気をつけてくださいね」
声をかけながら必死に連れて行くホーク。
上で戦っている彼らのことを心配しながらも、それでもきっとレイカ達ならばきっと大丈夫だと信頼して医者の元まで歩いていくのだった。
そして、アクレージョたちの階下で戦っているカイトも変化を感じ取る。
(……小兄様の煙幕がほんの少しだけ薄くなっている?)
それは、魔力の供給が途切れたことに加えてカイトの感覚が慣れてきたこと。
その二つが要因となり闇魔法の煙幕からドルフの魔力を感じ取れるようになっていた。
(先程まではほとんど感覚で回避してたが……)
出現する時に現れるドルフの魔力に対して、反射神経だけを頼りに攻撃に対して当たりをつけて弾いていた。
だが、それでも限界がありカイトの身体はズタズタになり、片方の手は完全に使い物にならなくなっていた。しかし、その怪我で激しい動きを控えたことで自分に今までなかった感覚を感じていた。
(……オレは落ち着きがない。それはずっと言われていた……そうか、こうして止まってみれば……)
自分が今まで理解できていなかった感覚を理解していく。
それは、戦いの時の魔力の流れであり、相手の呼吸である。
「……くっ!?」
そして、背後に来た攻撃を回避する。
周囲の闇魔法で作った煙幕で己の気配を隠し、それに同化して攻撃する。攻防一体の技だが、それに対してカイトは対応することが出来た。
(よし、これなら……!)
「うぐっ……!?」
武器を持ち、そのまま立ち向かおうとして気配を感じなくなりそのまま攻撃を回避しきれずに食らうカイト。
(……いや、そうか。もっと冷静にならなければ駄目だ)
呼吸を整え、そして目をつむるカイト。
(なまじ見えるから目に頼ろうとして焦るんだ……魔力だけを感じるんだ)
そのまま呼吸を小さくしていき、魔力の気配を感じ取る。
それは今までのカイトでは出来なかったであろう技だった。
(……感じる。ずっと見てきていた、小兄様の魔力を)
幸運は二つ。それは、今までアクレージョ達と戦ってきた経験。
そして、その魔力を読み取る相手が己の憧れていた兄だったこと。その二つが重なり、カイトは完全に気配を読み切っていた。
そして……
「……そこだっ!」
背後の魔力に向けて、動く右手で残った双剣を突き出す。
それは、ドルフの心臓を貫いていた。
「……オミゴト……カイト……成長、しましたね……」
周囲から魔力の煙幕が消えていき、そこには魔力を感じなくなり倒れたドルフだけになる。
身体が他の魔人と同じように、徐々に灰へとなっていく。
「小兄様!」
「……はは、まだそう呼ぶのですか……本当に、もう敵だというのに……」
「なぜだ! なぜ小兄様はこんな……」
「……力が欲しかったんですよ……君たちに誇れる力が……でも、どうしてかこうなった……それだけです」
闇魔法は己の正気を奪っていく。
そして、その力の才能があれば影響は大きく自分の思いすら捻じ曲げられる。なまじ才能があった彼らは、気付けばどうしようもないくらいに歪んでしまっていたのだった。
「だって、小兄様は……!」
「私が君たちを……憎む気持ちだってあったんです……だから、こうなった……同情も言い訳も……不必要です……」
そういうドルフに対して、それでも尊敬していた兄の死に涙を流すカイト。
「……カイト。僕がいうのも……なんですが……後のことは……頼みます……」
そういって完全に灰になって消え去ったドルフ。
その灰を握りしめてカイトは静かに泣いた。そして立ち上がり歩き出す。
「……見届けなければ……」
そう言って最上階へと歩いていく。
彼らの因縁に決着がつき、そして最後に残るは最上階の魔女達との戦いとなったのだった。
上で戦ってる一人残ってない? と思われるかもしれませんが意図的に残ってるので初投稿です




