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「あーぁ、残念…アハッ。もぅ少しだったのになぁ…クスクス」


何処からか聞こえた声に顔を上げるとシルクハットに全身黒い服を着た少年が黒いステッキを弄びながら崩れた天井の瓦礫の上に座っていた。


「どちら様ですか?」


私の前にスッと現れたヴァンとルミエールが戦闘態勢で構えている。


「僕?僕は、そうだなぁ。ジョーカーと名乗っておくよ」


ふざけた感じでジョーカーと名乗った少年は、エルフの王に目をやるとクスクスと笑い出した。


「ホント情けないなぁ…もぅ、ここまでお膳立てして上げたのに失敗するなんて…アハッ」

「お前が仕組んだのか」


アイテール様が聞いたこともない低い声でジョーカーに聞くと「いやだなぁ」とヘラっと笑った。


「僕はぁ、そこの王様が不老不死になりたいって言うからぁ、供犠を集める手伝いをしてやっただけだよ?それで、エルフの秘術の完成時にはぁ…アハッ。その力の反動を使って天族の時空牢を壊してやろうと思ってたんだっ…アハハ」


不老不死やら供犠やら不穏な言葉が飛び交っているけど。結局、あのちょっと頭がおかしそうなジョーカーって人は天族の時空牢を壊したいってことだよね?


「あの…時空牢には、誰が居るの?」


ポツリと呟いた私の言葉にジョーカーは反応して一瞬で目の前に転移してきた。「なっ!」とヴァンとルミエールが驚いている。


「大丈夫!この子に手出しはしないよぉ…アハハ。あのね、天族の時空牢には何も悪いことしてない天族のお姫様が入れられているんだよ。可哀想だよねぇ?」

「なんで、何も悪いことしてないのに時空牢に入れられているの?」


私の質問に何故かジョーカーは、天族のお兄さんを見る。


「理由は、アイツが教えてくれるよ…アハッ」


天族のお兄さんを見ると目を見開いて此方を見ていた。


「理由を聞こうか」


アイテール様がそう言うと、天族のお兄さんがこう言った。


「彼が話しているのが私の双子の妹、リリアンの事であれば、私の妹は……魔王の番でした。魔王自ら妹を迎えに来られて婚約の儀を交わしたのですが…父上達が妹を時空牢へ入れて魔王の元へ嫁げないようにしてしまったのです」


ギュッと手を握ってアイテール様に目線を向けた。


「妹は…、それから心を閉ざして何も目に映しません。私が声を掛けても反応すらしませんし。それで、妹を時空牢から逃がす為に色々と調べている時にエルフの王に声をかけられて…そのまま捕まってしまったのです」



悔しそうにそう言った天族のお兄さんにジョーカーが「あれ?」と首をかしげた。


「なぁんだ!お兄さんはお姫様を助けようとしてくれていたの?手伝う相手を間違えちゃったかなぁ…アハハ」


「失敗、失敗」と笑うジョーカーに腹が立つ。


「なぜ、このようなやり方をした。他にも方法はあっただろうに」


アイテール様も同じことを思ったようだけど、どうやらジョーカーには通じていないようだ。


「じゃあ聞くけどさぁ。なんで何もしていないお姫様が時空牢に入れられなきゃいけないの?魔王様が幸せになったらいけないの?誰が決めたの?だいたいさぁ、お姫様が魔王様の側に居たくないっていつ言ったのさぁ」


詰め寄るジョーカーの言っていることに何一つ可笑しな事は無いように思える。けど、そうじゃない!


「私が言いたいのは他人を傷つけても平気なやり方を選んだお前の考え方の事だ。はぁ…もういい。この話は、私が責任をもって対応する。後程、魔王に会いに行くから伝えておけ!良いな」


それを聞いたジョーカーは、一瞬驚いた顔をした後「神様は嘘つかないもんね…良かったぁ。じゃあ、またね。小さなお姫様…アハハ」と笑うと、転移して消えてしまった。


「はぁ…、何だったんだ」


アイテール様、その気持ち良く分かるよ。私もハァ…とため息をつくと、アイテール様が私を見て微笑んだ。



「レイラ、最後まで良く頑張ったね。助けに来れなくてごめんね」


何でも、私が居ないと気づいたのは世界樹の世代交代が進んでも私が帰ってこないからだったようだ。世界樹本体は世代交代の為に話が聞けないし、私の存在を隠す魔法陣のせいで何処に居るのか分からなかったらしく地上では大騒ぎになったそうだ。


その中でもエルフの王が中心となって捜索をするようにお城の人達に通達して大規模な捜索が行われていたらしい。


「いつの間にか姿を消したエルフの王を探そうとしていたらね。空にあの魔法陣が描かれ始めたから、その下にいた人達を移動させるのに焦ったよ」


笑いながら話すディザに「それは考えていなかった」と言うと「それは、想定外だからしょうがないね」と笑っていた。


「怪我人も居るようですし、一旦、地上に戻った方が良いでしょう」


ルミエールが一緒に捕まっていた人達の怪我の具合を見て提案してくれたからひとまず、地上に上に戻ることにした。ちなみに、アイテール様が「じゃあ、行くよ」の掛け声で一瞬にして戻れたんだけどね。



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