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ピチョンと水が落ちる音で目が覚めた。辺りを見回すと薄暗くて広い場所に居ることが分かる。石で出来た壁と床が見えるが明かりは無く良く見えない。私自身は鳥籠のような檻の中に寝ている。
「はぁ、ウカ様の占い当たりすぎぃ…」
ポツリと呟くと正面の暗がりからジャラジャラと言う金属の擦れる音とグルルルと言う唸り声がした。
(この声、聞いたことがある!)
暗い部屋の中に目を凝らす。暗さに慣れてくると広い部屋の中心に黒い生き物が大きな鎖と魔法陣によって捕らえられている事が分かった。
(瑠璃色の瞳…)
ハッとする。今まで忘れていた夢が頭の中に溢れてきて一気に思い出した。あぁ、そうだったんだと納得した。
「私の探し物は、あなただったんだ…」
そう呟くとこちらを見て驚いている瞳と目があった。そうと分かれば、ウカ様の言った通り私が守らなければいけない。早く側に行きたいと心が騒ぎ始める。
(落ち着いてまずは、深呼吸!)
フゥと息を吐いてアイテール様に言われた通り深呼吸をしながら、まずは自分が囚われている檻を見る。鳥籠の形をした檻の床にある魔法陣を読み解く。
(魔法が使えないようにする魔法陣。それから、私の存在を曖昧にする魔法陣。これは…ここを切れば大丈夫)
冷静に魔法陣を読み解くとポシェットの中から魔石チョークを取り出すと魔法陣を壊す。ディザがきっと「良くできました」って誉めてくれるね。次に檻の出口を見ると外側から鍵が掛かっているが、時間が惜しい。それは無視して金属の閂を切る事にする。
《狐火》
指先にボッと青白い高温の焔を出すと閂付近を炙る。あっという間にドロドロと溶け出してビックリした。「狐火は、普通の炎よりも熱いから気を付けるんだよ」と言っていたウカ様の言葉を思い出した。
火傷しないように気を付けて扉を開けて外に出ると一目散に黒い生き物に走り寄る。
近くに行くと、瑠璃色の瞳を見開いた黒いドラゴンの姿がやっと見えた。大きな顔に抱きつくと見開いた瞳から涙を流していた。私の心もギュウッてなって涙が出てくる。
『俺の番、聞こえるか?ようやく会えた!』
頭に直接響く声に顔を上げると、瑠璃色の瞳と目があった。
「ウゥッ…夢で見てたの、でも思い出せなくて。助けに来れなくてごめんなさい…会えて良かった。私の探し物は、あなただったの」
私の声にグルルルと喉をならして顔をソッと擦り寄せてくれる。そう言えばとハッとして背中の方を確認する。
「あぁ…すぐに治すね」
血の流れた跡を私が透視で確認しようとすると止められてしまった。
『落ち着いて聞くんだ、時間はあまり無いだろう。エルフの王が此方へ来る前にあの人達を先に助けてあげて欲しいんだ』
あの人達と言われて目を向けると、目の前のドラゴンに夢中で他に誰か居るなんて気付かなかった。
「えっ…酷い!」
『俺の怪我はそれほど酷くない。先に彼を助けてやってくれるか?出血が止まらないんだ』
穏やかな声で言われて1つ深呼吸をする。
「必ずあなたの事も助けるから!」
分かっているとドラゴンは頷くと鼻先で私を押した。
両手を頭の上で拘束されたその男性は、白く発光する花に埋もれるように眠っていた。左側の肩あたりから大量の血を流して白い花を赤く染めている。青白い顔は、生きているのか分からない。
「大丈夫ですか?」
声をかけると一瞬、瞼が震えたような気がした。
「まずは、肩の出血を止めます」と一応、声をかけて《透視・ヒール》と唱えて傷を癒す。ルミエールに言われた通り治したいと言う慈愛の心はお兄さんの傷を癒してくれた。
スッと目を開けたお兄さんは、何度か瞬くと
「あぁ、ありがとう…痛みが治まったよ。君も捕まってしまったの?君は、怪我していないかい?」
と、私の心配をしてくれた。
「私も捕まってしまったみたいだけど、怪我はしてないから大丈夫だよ」
話をしながら拘束具に刻まれた魔法陣を読み解く。この魔法陣を壊せば拘束具が外れるはず…カリカリと魔石チョークで魔法陣に線を引いて壊すとガチャリと拘束具が外れた。
手首をさするお兄さんが驚いた顔をして私を見る。
「君は一体…」
「時間が無いので話は後です。お兄さんの翼は何処に有るんですか?」
そう、目の前のお兄さんの右側には白い翼がある。天族の人に会ったのは初めてで内心、ファンタジーだー!と思ったことはナイショだ。綺麗な顔をした金髪碧眼のお兄さんは血の気の引いた顔で指を指した。
「あそこに飾られている」
指差す先を見るとガラスのケースに白い翼が飾られていた。その隣には虹色に輝く宝石も置いてある。
「隣にあるのは、虹の妖精の羽なんだ。そこに捕らえられている彼女の物だ。後、あの水槽の中に人魚の娘が捕らえられている」
(エェッ!そんなに沢山捕まっているの?急がなきゃ!)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本当は、冒頭で登場させようと思っていた番がここで、漸く登場です。彼が登場しなかったが為に想定外の長編となっています。
最終話まで今しばらくお付き合いください。




