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食べるとホロホロと溶けてしまう綿菓子にルミエールもディザも喜んでいた。次に金魚すくいを見に行くと、やはり異世界。金魚じゃなくて虹色のガラスみたいな魚が泳いでいた。
「パパ。これ、なぁに?」
「それは【氷の国】の魚だね。氷の属性を持っているんだよ」
へぇ、それで見た目がガラスみたいに見えるのかな。金魚すくいは下手だから止めて、リンゴ飴を買って貰った。大きいリンゴは食べきれないから小さい方にした。
さらに参道を歩くと本殿が見えてきた。白い狐のお面を付けて白い着物を着たお姉さんと、黒い狐のお面を付けて黒い着物を着たお姉さんが鬼灯の提灯を持って入り口に立っている。
「おや、アイテールの兄さんじゃありませんか」
「おや、主さんが喜びそうだねぇ」
お姉さんたちがクスクスと笑いながら建物の中を先導してくれる。
「主さん。アイテールの兄さんがお見えだよ」
「主さん。可愛い娘を自慢しに来たそうだよ」
お姉さんたちが声をかけると「入っとくれ」と声がして襖がスッと開いた。薄暗い部屋の中にタバコの煙が充満している。
「ウカ。その煙、何とかしてくれないかな」
アイテール様がそう言うと、部屋の灯りがフッと灯って煙が消えた。
「久方ぶりじゃないか。その子があんたの娘かい?」
そう言って奥のアンティークなカウチから気だるげに体を起こしたのは、狐耳の妖艶なお兄さんだった。真っ白な肌に艶やかな黒い髪の毛、目元に赤い化粧をした瞳は黒くて、女物と見られる着物を羽織っているけど胸元が大きくはだけて体に描かれた紋様が覗いている。
「あぁ、レイラって言うんだ。今回は、お仕事を頑張ったご褒美に狐族領に遊びに来たんだ」
「はじめまして、レイラです」
ペコリと挨拶をすると「ふぅん」と言ってこちらを流し目で見るとクスッと笑って「こっちにおいで」と手招きをされた。
「ちょっと、レイラを唆すのは止めてよね」
アイテール様が向かいのソファに座りながら文句を言うと、ウカ様は一瞬驚いて「アハハハ」と笑いだした。
「やだなぁ。あんたの娘に加護をやろうと思っただけだよ」
目をパチクリする私を見てクスクス笑う。
「一応、俺も神様なんでねぇ」
と言うと狐のお面をしたお姉さん達がビックリしていた。
「主さんが加護を与えるなんて何百年ぶりかねぇ」
「主さんに気に入られたとは驚きだねぇ」
私を膝に座らせたアイテール様も少しビックリしたみたい。
「ウカが頼みもしないのに加護をくれるなんて驚きだね。あぁ、でも。豊穣の加護は、バッカスがくれたんだよね」
ちょっと言いにくそうにアイテール様が言うと、パンッと膝を叩いてウカ様が「こいつは先を越されたねぇ」と笑っていた。
「じゃあ、代わりに占ってやろう。それなら良いだろう?」
アイテール様を見上げると「いいよ」と笑っていたからお膝から降りてウカ様の側へ歩いて行くと、白い狐のお面のお姉さんに止められた。
「ちょいと、その耳の飾りは外しても大丈夫かい?」
そう言われると、ディザが側に来て耳のカフスを外してくれた。いつもの色に戻るとウカ様がお膝に抱き上げてくれる。
「さて、見せて貰うよ」
そう言うと、ウカ様の額に赤い紋様が浮かび上がり目を瞑った。耳の奥でリーンと鈴が鳴ったような音がするとウカ様が目をそっと開く。瞳孔が縦に開いた真っ赤な瞳で私の目の奥を覗く。
『フフフッ…3カ月後に大事な探し物が見つかりそうだねぇ…クスッ…だけど、あんたの命の危機と隣り合わせだ…。あぁ…でも大丈夫、ちゃあんと運命の歯車は廻ったみたいだねぇ』
フッと私との目線を外すと、部屋の中を見渡す。
『そこの…白い鹿に光の力の使い方をしっかりと教わりな。それから…フェンリルか、お前さんの最高位の力の使い方を教えてやりな。なぁに…アイテールの娘だ、力に不足は無いよ。世界樹の兄さんには…魔法陣について教わるといい。あぁ、一緒に壊し方もねぇ、クスッ』
そこまで喋るとフッと目を瞑った。再び目を開けた時には元の黒い瞳に戻っていた。フゥ…と息を吐くと私と目を合わせてこう言った。
「あんたに命の危機が迫っている時、ここに居る奴等の助けは来ない。自分の力であんたと大事な探し物を守るんだよ」
ニヤッと笑うウカ様は、とても楽しそうだった。
「ちょっと、ウカ!私にも干渉出来ないってどういう事!」
アイテール様が珍しく怒りながらウカ様に躙り寄る。
「そこまでは良くわからなかったけどねぇ。お前さん達が惑わされて居る間にお嬢ちゃんが命の危機に合うみたいだねぇ」
ウカ様。更にアイテール様を煽ってどうする…。
「だから、そこの精霊達と巡り会ったんだろ?ちゃあんと、運命に抗えるようになってんだ。娘の成長を妨げるんじゃないよ」
ウカ様にそう言われるとアイテール様も渋々頷いた。膝の上に居る私の頭を撫でると「おや」と首をかしげる。
「なんだい、火の加護が弱いじゃないか。俺には火属性もあるんだよ?ホレ、狐火」
ボッと辺りに青白い火の玉が浮遊する。私が「ホワッ」と、ビックリしたのを見てウカ様はご機嫌だ。
「狐火は、普通の炎よりも熱いから気を付けるんだよ。使い方は…教えんでも大丈夫だな。アハハ」
そう言いながら私の額にキスをすると赤い煙がユラリと体に纏わり付くいて染み込むように消えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
日本の夏と言えば夏祭りと思って書いていたら、自分の想定とは違う登場人物(ウカ様とか…)と内容が出来上がりました。
そんな訳で少し寄り道が増えることになりました。
今後ともよろしくお願いします。




