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【獣王国】2日目。今日は、少し早起きをして狐族領を散策する予定だ。今日も大正ロマン風の着物をルミエールに着付けて貰って、耳にカフスをつけて魔法で取れないようにしてもらう。
「今日は、朝市でご飯を食べようね」
旅館で手配してくれた馬車に皆で乗って市場に向かう。初めての馬車にワクワクしていたら、ここがファンタジーの世界と言うことを忘れていた。馬車のドアを開けたら和洋折衷の応接室みたいなお部屋だった。
「ナニこれ」
私のビックリをスルーしてアイテール様に抱っこされていた為、スッと室内に入ってしまった。
「世界樹の空間魔法と同じで、馬車の中を魔法で拡張しているんだよ」
ディザが説明をしてくれて、やっと落ち着くことができた。全く揺れないお部屋で久しぶりの緑茶を飲んで、帰りに緑茶も欲しいなと買い物リストに追加している間に市場に到着した。
馬車から降りると活気のある声が飛び交っていた。
「わぁ、すごい人」
朝市は人が溢れていた。皆、和風の着物を着ているが着流しにブーツを履いていたり膝丈のフリルの沢山付いたスカート風だったりしてファッションを見ているだけでも面白い。しかも、頭の上には動物の耳が付いていてピョコピョコと動いているのだ。尻尾もついている人がいて見ていて飽きない。時折、二足歩行の猫が着物を着て歩いていたりして二度見してしまった。
「今日も世界樹の世代交代のお祝いをしているから賑やかだね。レイラは絶対にはぐれそうだからヴァンの抱っこね」
ディザに言われて、ブゥと頬っぺを膨らませるが。ヴァンに抱き上げられると視線が高くなって良く見渡せるから良しとする。
「さて、ここでは新鮮な魚介類がおすすめだよ。それから、浜焼きや厚焼き玉子も美味しいんだよね」
狐族領に何度か来たことのあるアイテール様が慣れた様子で市場の中を案内してくれて、おすすめのどんぶり屋さんで朝食を食べた。好きなお刺身や貝を自分で選んで乗せられるスタイルだ。
私は、大好きなイクラとサーモン。鯛やヒラメ等、白身魚をメインに小さなどんぶりに乗せて貰った。他にも食べるからお腹いっぱいは、食べないように注意しないとね。
腹ごしらえが終わると、市場の中を更に奥へと進む。すると、厚焼き玉子屋さんがあった。
「レイラ、厚焼き玉子買っていく?アイテムボックスに入れておけば、冷めずに保存できるよ」
アイテムボックスってそんな機能も付いているんだ。知らなかった。
「買っていく。後でおやつに食べる」
「え?厚焼き玉子っておやつなの?」
ヴァンの呟きに吹き出してしまう。
「甘い厚焼き玉子ならスイーツぽいかな?でも普通に御飯のおかずだと思うよ」
ディザが冷静に訂正していた。
「おじさん。甘いのとしょっぱい厚焼き玉子を一つずつ下さい」
ヴァンに抱っこされながらおじさんに注文すると、焼き上がった厚焼き玉子を包んで渡してくれる。腕輪でお会計をしてアイテムボックスにしまう。
「初めてお買い物できた!」
ヴァンの腕の上でピョコピョコ跳ねて喜んでいたらおじさんが「初めてのお買い物か?偉いなぁ、これはおまけだ」と厚焼き玉子のサンドイッチをくれた。
「おじさん。ありがとう」
と、お礼を言うと「毎度ありぃ」と元気に答えてくれた。
「良かったね」と、隣でディザも楽しそうだ。
「もう少し行くと、浜焼きのお店があるんだよ。レイラ、貝の浜焼き食べる?」
「食べたい!」
昔から、蛤を貝ごと焼いて醤油を垂らして食べるのが大好きなんだよね。独り暮らしの時も、たまに買ってきてグリルで焼いていた。でも、外で焼いて食べるのはやっぱり格別なんだよね!
「おや、いい匂いがしてきますね」
ルミエールが醤油の焦げる匂いに反応したようだ。
「あったあった、あそこのお店だよ」
少し市場の中心から抜けて、人通りが落ち着いた辺りでアイテール様がお店を教えてくれた。
「らっしゃい!」威勢のいいお兄さんが「何にしますか?」と聞いてくれる。
「レイラは、蛤と後何にする?」とディザに聞かれてヴァンに降ろして貰う。ショーケースの中には、魚の干物やサザエやアワビ、モロコシなんかもある。でも、その中で目を引いたのは…
「あっ、イカ焼きがいいな」
「あいよぉ」
イカの醤油焼き、間違いない。ディザも「へえ、僕もそれ食べてみたいな」と言うことでイカ焼きをお願いしていた。
「はい、お待ち。熱いから気を付けてな」とお兄さんがお店の前のテーブルに蛤とイカ焼きを置いてくれる。
「いただきます」
こちらの蛤は、少し大きい。ちょうど良い焼き加減で貝から出たお出汁と少し焦げた醤油がとても美味しい。熱いのをフーフーして食べる。
「おいしい」
隣でイカ焼きにかぶり付いたディザも「あっ、これ美味しいね」と喜んでいる。ヴァンやルミエールも注文して食べていた。
「レイラ、サザエのつぼ焼き少し食べる?」「こっちの魚の干物も一口食べるか?」「こちらの海老も食べますか?」とアイテール様や皆に言われてウンウンと頷く。
「熱いから気を付けるんだよ。はい、あーん」
と、今日も鳥の餌付けのように色々食べさせて貰って大満足。
「美味しかったぁ。ごちそうさまでした」
お腹がいっぱいです。
「じゃあ、町に戻ってお店巡りをしようか」
馬車で町に戻ることにした。




