66 初夏の会席料理
良い匂いに目を覚ますと座卓に食事の用意がされていた。
今夜の御食事は、会席料理。焼き物や油物も出るみたいだ。
先付に胡麻酢和え。八寸に鱧の落とし梅肉ソース添え、湯葉ちりめん、蒸しあわびの枝豆ゼリー寄席、三色青竹串(さい巻き海老、蛸の軟らか煮、うど甘酢漬け)等。
吸い物は、鱧の葛打ち、水菜と松葉柚子が良い匂い。焚合せと強肴の冷や牛しゃぶ迄、一度に出してくれてある。
きっと、子供も一緒だから食べやすいようにだね。お心遣い感謝します。
「ほら、レイラ。こっちにおいで」
アイテール様の隣にお子様用の座椅子が用意されている。そこに座ると大人たちは麦酒で私とディザは、オレンジジュースでお疲れ様の乾杯をした。
「クゥッ、旨いな」
いつの間にか温泉に入った大人3人は麦酒を美味しそうに飲んでいる。
「いいなぁ、レイラも早くお酒が飲める体に成りたいよ」
そうぼやくと、隣のディザが「まぁまぁ」と諌めて鱧が美味しいよとすすめてくる。
「前世では、鱧の落としを梅肉ソースで食べるの好きだったんだよね」
気を取り直して、鱧をソースに漬けて食べる。このサッパリした梅肉ソースがなんともいいアクセントなんだよね。「美味しい…」両手を頬っぺに当ててフルフルする。
「はぁ、お吸い物も美味しい」
どれを食べても美味しくて皆がこちらを見ているのに気付かなかった。
「レイラは、美味しそうに食事をしますよね」
「いや、この日本料理。本当に旨いな」
ルミエールとヴァンが話している。
「ここは、温泉と料理が旨い宿で有名なんだよ」
アイテール様が海老に苦戦している私の串を取って海老の頭を外してくれる。
「はい、あーん」アイテール様に言われてパクリと海老に食い付く。「小鳥の餌付けみたいだな」と呟いたヴァンの後頭部をルミエールがパァンと叩いていた。
「レイラは、小鳥より可愛いです」とドヤ顔で言うルミエールに「お前、もう酔ったのか?」と飲み物をサッとソフトドリンクと交換するヴァンが面白い。
「まだまだ酔いませんよ。このくらいの量で…」とお酒を取り返してルミエールが「レイラが、可愛いのは本当じゃないですか」とブツブツ文句を言っていた。
「失礼します」と言って、仲居さんがお料理を持ってきてくれた。焼き物は、鮎の塩焼きでお皿には焼き枝豆と酢の物が少し添えてあった。
「そう言えば、泉で釣りしてなかったね」
鮎を見て、アイテール様とディザの三人で釣りをする約束をしたことを思い出した。ウッドデッキから釣りをしてバーベキューもいいな。
次に運ばれてきたのは、冷し鉢。氷を盛ったお皿の上に笹の葉が置いてあってその上にウニの殻がある。その中には、生ウニ、キャビア、トリュフそれから刻みワサビ菜が添えられた見た目にも涼しい1品だった。
油物は、天麩羅だった。鱧のアスパラ巻き、子茄子、青唐、蓮根を天だしでいただく。
茄子の天麩羅、おいしい。揚げたてでサックサクなのを天だしに少し浸して食べるのがとても良い。独り暮らしだと天麩羅ってなかなか作らないし、かといってお店でとなると美味しさを求めると少々お高くなるからね。久しぶりの天麩羅を堪能した。
その後も、酢の物、汁物、御飯、水物と沢山のお料理が運ばれてきて私の前は、お料理で溢れそうだった。
「無理しなくていいからね。あっ、でも稲荷寿司は美味しいからおすすめかな」
アイテール様に言われて、食べれる分だけにする。やっぱり狐のお宿と言うだけあって稲荷寿司は絶品だった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は懐石料理ではなく、会席料理としました。
お肉や揚げ物もやはり食べたいですよね。
八寸は、その名の通り八寸(約24cm)四方の木盆に、海の幸や山の旬の幸を数種類盛った贅沢なお皿のことです。




