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「さっきの出汁の話だけど、その狐族と言うのが獣王国の東側の海と山に恵まれた所にあってね。そこに遊びに行ったときに鰹節で出汁を取って作った味噌汁と言うものを飲んだけど美味しかったよ」
お味噌汁キタッ!お味噌があるなら醤油もありそう。お米もあったら嬉しいな。それにしてもアイテール様、普通に遊びに行けるんだね。
「アイルパパ。お米もあった?白い穀類のごはん」
アイテール様に抱っこされた腕の上でピョンピョン跳ねてしまう。
「ハハッ。そんなに嬉しいんだね。米も食べたよ。確かお握りって言う三角にまとめた物の中に具が入っていたよ。あれも美味しかったよ」
「日本食があるんだぁ」
良かった。元日本人としては、いつかはお米食べたい病にかかると思うんだよね。
そんな話で盛り上がっていたら、泉の反対側まで来た。そこから森の向こう側へ小道が続いていて少し明るくなっている。
森を抜けると、そこはお花畑だった。そんなに広くはないけれども丁度、森の一部がポッカリと空いていて色々な草花が咲いていてのんびり落ち着けそうな場所だった。
「ここで休憩できるようにガゼボを作ろうかな」
ディザはそう言うと花畑の中をどんどん歩いて行ってしまう。
「ディザは、物造りが好きだからね。夢中になってしまうんだよ」
フフッと笑うアイテール様に降ろしてもらって私も花畑に足を踏み入れる。
「可愛いお花が沢山ある。アイルパパ、お花を摘んでも大丈夫かな」
「気にしないで沢山摘んでも大丈夫だよ。これだけマナが豊富だとまた、すぐに次の花が咲くと思うから」
成る程、マナのお陰でこの辺りは常に花が満開状態なんだね。
「レイラ、花冠を作りたいの」
「いいね。私の分も作ってくれる?」
パパも欲しいの?じゃあ、お揃いでディザの分も作ろうかな。そんなことを考えながら、どの花で作ろうか物色していると。
「レイラ、あの辺りの花はどう?」
と、アイテール様が指を指しているその辺りは、少し大きめの花が密集して咲いている。近くまで行ってみるとラナンキュラスやアネモネ、ダリヤなど華やかな花が沢山咲いている。
「うん。ここで作る」
花畑に座り込むと近くにあるシロツメクサを長めに摘んでいく。ラナンキュラス等の花の茎は少し太くて花冠を編むのには向かないのでシロツメクサで花冠を編みながらそれらの花を差し込んで編み込んでいく。
隣で手持ち無沙汰のアイテール様がシロツメクサを長めに摘むと手渡してくれる。流れ作業で意外と早く出来た。
「出来た。はい、アイルパパ」
立ち上がってアイテール様の頭に乗せる。プラチナゴールドの髪の毛に合わせてピンクや薄い紫の花をメインにシロツメクサを多目にしてしたから、白とグリーンがとても綺麗だ。美形男子に花冠が似合わない訳がない。
「ありがとう」
そう言って、嬉しそうに金色の眼が細くなる。
「お礼にレイラの分の花冠は、私が作ろうかな」
アイテール様が花冠を編み始めたので、私はディザの分を作ろうと思う。実は、先程からもう少し先にあるスプレーマムとトルコキキョウが気になっていたのでシロツメクサを摘みながら歩いていく。
「ディザの花冠は、グリーンで纏めても綺麗かな」
独り言を呟きながらグリーンのスプレーマムを差し込みながら編んでいく。グリーンのトルコキキョウを摘もうといてピタリと手が止まった。摘もうとしたトルコキキョウの向こう側で何かが動いた気がしたからだ。
「なんだろう…」
虫は苦手では無いが得意ではない。流石に自分から触ったりはしたくないタイプだった。でも、今の私は5歳児で動くものに興味を持たない方が珍しい。そんな訳で、そっとトルコキキョウの後ろを覗き込む。




