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ランプを灯した1階でディザがハチミツ入りのホットミルクと温かいタオルを用意してくれた。
私は、温かいタオルで顔を拭いて貰い。アイテール様のお膝の上でホットミルクを飲んでやっとしゃっくりも落ち着いてきた所だ。
「落ち着いたかな」
アイテール様が私が飲み終わったマグカップを取り上げながら聞いてくる。
「うん…だいじょっ…ぅぶ」
ディザも隣から私の顔を覗き込みながら心配しているようだ。
「レイラの魂は新しい体に入ったばかりだから。魂が前世の記憶に引きずられやすい状態なんだ。もう少し魂が馴染んでくれば、遠い過去の記憶として前世の感情に惑わされる事もなくなると思うんだけどね」
アイテール様がそう言って困った顔をしているとディザが提案をしてくれた。
「レイラ。当分の間、僕と一緒に寝ようか。そうすれば、寝ている間も独りじゃないから安心でしょ」
アイテール様が「それが良いんじゃないか」と言ったのを聞いたディザは「ちょっと2階を改装してくる」と階段を駆け上がって行ってしまった。
「良かったね。優しいお兄ちゃんが居てくれて」
アイテール様が楽しそうに言うから
「あのね。アイテールさまはお父さんみたいだなって思っていたの」
と言うと。バッと手で口元を押さえて「娘が可愛い」と呟いていたが、レイラにはモゴモゴ言っていて良く分からなかった。
「あー、うん。今日からレイラのお父さんは私だから寂しかったら直ぐに呼ぶんだよ」
ニッコリ笑ってアイテール様にそう言われた私は「はーい」と手を上げて良い返事をしてしまった。
「はぁ、もうパパって呼んで貰おうかな」
「パパ?」
アイテール様に言われてつい「パパ」と呼んでしまった。アイテール様が「いい…」と呟きながらデレッとしてる。
「うん。アイルパパって呼んでみて」
「アイルパパ?」
ちょっと、首をかしげながら疑問系になってしまったけど、アイテール様が「うん、娘最高」ってまた呟いているからいいかな?
「レイラ、部屋出来たよ」
2階からディザが呼んでくれたのでアイテール様に抱っこされて部屋を見に行く。
新しいお部屋は、元のディザと私の部屋を1つにしてかなり広くなっていた。キングサイズくらい大きなベッドが部屋の右寄りにあって左側には三人掛けのソファとテーブルが置かれている。部屋の両側に私用とディザ用のウォークインクローゼットがあって、アイテール様が用意してくれた洋服も移動してあった。
「三人でも一緒に寝れそう」
そう私が言うと
「じゃあ、まだ起きる時間じゃないから今日は特別に三人で寝ようか」
アイテール様がそう言って私を真ん中に寝かせてディザとアイテール様が両側に寝転んで布団を掛けてくれる。なんだか、嬉しくてディザと二人で布団の中でクスクス笑ってしまう。
「コラ。明日は、世界樹の廻りを探索に行くから早く寝なさい」
そう言って、トントンされていると眠くなってくる。
「私もディザも居るから、安心して寝なさい」
と言われると、スウッと眠ってしまった。
ーーーーー
~Side-アイテール~
「寝たようだな」
「レイラがうなされていた時はビックリしましたよ」
ディザが心配そうにレイラを見ている。
「今回は、危うく夢に囚われる所だったんだ。私や世界樹の加護が有ると言うのに…」
この世界には、悪意をもって我々に牙を剥いてくる者達が居る。今回は、私が連れてきた魂が定着する前の今夜を狙われたのだろう。夢の中と言う不安定な場所では、今作ってある結界では守りきれなかったのだろう。
「後で結界を補強しておこう。夜の間はレイラの守りを頼むよ」
ディザにそう頼むと
「分かりました。ベッドに天蓋を付けて守りの加護も掛けておきます。しかし、レイラのあの様子は…」
ディザの言いたい事は、良くわかる。
「レイラの夢の中を少し垣間見たのだけど。レイラは、幼い頃に両親を亡くしていているようでね。そのせいか誰か大切な人を亡くすくらいなら、大切な人を作らないようにして独りで居たようなんだ」
「はぁ。独りで寝かせたのは失敗でしたね」
どうやらディザには、先程のレイラの様子がそうとう堪えたようだ。
「これからレイラを甘やかしてやれば良いだろう。人に甘えて、人に頼ることを覚えさせてあげよう」
そう言ってやれば
「ここでの生活がレイラにとって心安らぐものになるようにしてあげたい」
すやすや眠るレイラを見て、ディザは心に決めたようだった。